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第4話 妹は刺し続ける

「さて、お姉様、ここからはモンスターがバンバン出てきますよ!」

「元気いっぱいなのはいいのだけど、死ぬ気しかしないわ」


 妹はもうルンルンで両腕をブンブン振りながら洞窟を進むけれど、私は逆に両手を握りしめたままに妹の背後をしずしずと進む。

 我ながら似てない姉妹だと思う。

 元気な妹と静かな姉……不機嫌な姉じゃないだけ良しとしようか。


 妹はいつもこんな調子なので、子供の頃は寝る時に私が睡眠魔法『グッスリープ』をかけて寝かしつけていたのだけど、それでもまだおしゃべりを続けようと魔法に抗っていたのが記憶に新しい。

 いくらなんでも元気すぎである。

 可愛いのだけどね?


「安心してくださいお姉様! 流石に戦ったりはしません!」

「あら、じゃあどうするの?」

「逃げ続けます……!」

「またゴリ押しね……」


 RPGで戦闘が面倒だからとひたすら逃げていたらレベルが足りなくなること必至だけれど、今回はとにかく最速を目指すので問題はないのか……。

 まずこのゲームの逃走システムがどうなっているのかという問題もあるけれど。


「勿論普通に逃げては逃げきれないこともあります。なので、この煙玉と指輪の出番です」

「煙玉は傭兵用じゃなかったのね」

「まずこの煙玉を使用すると逃走確率が大体五割くらい上がります。そしてこの『鼠の指輪』は逃走率を大体五割くらい上げるので……二つ使えば大体逃げ切れるわけです!」

「大体逃れても一度逃げられなかったら死ぬのよ?」

「そこでこいつです!」


 妹はまた謎のアクセサリーを取り出し、首にかける。

 家を出る時に何やらがざごそと漁っていると思っていたけれど、能力アップ系のアクセを探していたのか。


「致命傷を一回だけ阻止する『根性の指輪』です! 大変貴重なもので、一度効果が発動すると壊れちゃいますが、これでリスクをカバーします!」

「それ、我が家の宝じゃなかった?」

「はい、でも使わない宝なんて何の意味もないんですよ!!!! 『鼠の指輪』もそうですが、使ってあげないとそもそも世界が滅びます。ですからこれは正当な盗みです」

「本当に勇者みたいね貴女」


 勇者といえば人の家から当然のように物を持っていく勇者的行為だけど、妹は実家とは言え、その点に関しては躊躇がないらしい。

 もう魔王を倒しているらしいし、ほとんど妹は勇者である。


「今回はさらにお姉様もいるので、逃走回数倍です」

「私、逃走要員だったの」


 そういう意味で戦力になっていたのか……。

 いや、それくらいでしか役に立たないと思うけれども。


 万全の体制を整えた妹だったけれど、しかし、洞窟を進めど進めど、敵はなかなか現れない。

 すぐにでも出てきそうものだけれど、どうしたというのだろうか。


「……これは多分、お姉様のせいですね!」

「えっ、私?」

「はい、今までこんなことなかったので」


 妹の今までのループと今現在とで、違いがあるとすれば、それは私がいることなのはほぼ間違いないので、確かに私が原因というのは一番最初に考えるべきことかもしれない。

 でも、心当たりが無さすぎる。

 むしろ逆にどんどん魔物が寄ってくる物だとばかり思っていたけれど。


「悪魂に恐れをなしているのでしょうか……だったら今までのループでもお姉様を持ってくれば良かったですよ! こんな楽な方法があったなんて、もう!」

「人をアイテムみたいに言わないで?」


 けれども、妹からすれば堪ったものではないのは分かる。

 今までの苦労はなんだったんだってなるよね……。


「あの、ハナ、ごめんね?」

「楽な分にはいいんですけどね! ただ謎のしっくり来なさがあるだけで!」


 せっかく用意した煙玉を鞄にしまいつつ、妹は複雑そうな表情をしていた。

 これまでの努力が水の泡になりちょっとモヤモヤしているようでもある。

 本当にごめんねの気持ちでいっぱいだよお姉ちゃん!

 

「でもお姉様がチートアイテムであることが分かったのでこれは神々に勝てる感出てきましたよ」

「そういえば最終目標は神だったわね……」


 改めて聞くともう絶望しかない……けれど、まあ、今は諦めずに一歩一歩頑張るほかないか。


 誰にも襲われないまま洞窟の奥へ奥へと進んでいく。

 まさかこんな安全な探索になるなんて……想像もしていなかった。

 悪魂はやはりすごいものらしい。


 やがて風を感じる吹き抜けた場所に私たちは出てきた、

 そしてそこに奴はいた。

 割れた天井から差し込む光で育ったらしい苔の上に、巨大な狼が体を丸めて眠っているのだ。

 間違いなくボスである。


「あれがこのダンジョンのボス『フェンリュー』です」

「超強そうね」


 少なくとも今の私たちでは到底勝てる気はしない。

 それにボスレベルになると悪魂も気にならないのか、ある程度接近されても呑気に昼寝を楽しんでいる。


「もうちょっと近付いたら起きるので、そしたらお姉様、魔法をお願いします」

「えっ、た、戦うの?」

「勿論戦います! 七難ハック……もうハックと呼びますがあれはドロップアイテムなので倒さないとゲットできないんです!」

「でも、私、戦闘魔法使えないわよ?」

「いえ、そうではなく『グッスリープ』をお願いします」


 グッスリープを?

 あれは前述した通り、子供の頃に妹を寝かしつけるために使っていた超初心者魔法であり、その効果も子供程度にしか有効ではないはずだけれど……。


「おらフェンリュー! さっさと起きやがってください!」

「はやいはやい! 心の準備をさせて!」


 いちいちこちらの覚悟を待つような妹ではないので、決めてしまえば一直線、さっさとフェンリューに近寄りあろうことかその巨躯に向かって石を投げつける。

 おてんばが過ぎるわ!


 当然、そこまでされて眠っているほど野生は死んでいないらしく、フェンリューはむくりを体を起こし、こちらを睨みつけた。

 こ、こわっ!

 モンスターを至近距離で見たの初めてだけど、こんな怖いの?


「お姉様、早く!」

「う、うん……『グッスリープ!』


 手をかざしてもう何年振りかに私はその魔法を放った。

 ホワホワとした丸い魔法の光はフェンリューの顔に直撃すると……フェンリューは即座に地面に伏せ眠り始める。


「えっ、効き目はや!?」

「こいつ睡眠耐性がまるでないんです」


 そ、そんな致命的な弱点があったとは……。

 ゲーム的に考えると結構なミスでは?

 あるいは最初に眠っているというキャラに合わせた結果なのだろうか。


「妹の経験則から言わせてもらうと、基本的に状態異常耐性がないなら、どんなに強かろうとなんとかなりますね。妹、大体の敵の状態耐性はもう調査済みなので」

「びっくりするくらい頼りになる妹だわ……」


 もう歴戦の猛者と言っても過言ではないほど頼りになる妹は、眠りについた狼に近寄ると、カバンから謎の針を取り出す。


「それでとどめを刺すの?」

「これで刺した程度ではフェンリューは死にませんよ! 耐性がクソでも上級ダンジョンのボスですから。妹たちが普通に殴ってもダメージゼロなんですよね」

「それじゃあ倒せないんじゃないの?」


 どれだけ無力化しようとも、倒せないのではアイテムがドロップしないのでは?

 その疑問に答えるように妹は手に持った針を私の方へかざす。


「そこでこの針です! この針は毒針と言って相手に確実に1ダメージは与えるのですが……これでずっっっっっっっっっと刺し続けます!」

「エゲツないわね」

「本来はメタル系の敵に使って経験値稼ぎに使うのですが、時間をかければボスも討伐可能です! そう……ざっと5時間ほど刺し続ければ」

「ご、5時間!?」


 想像を絶する長丁場!

 ご、5時間ひたすらこの大狼を刺し続けの!?


「しばらくすると起きるのでその時は魔法でまた眠らせてください! ちゃんと魔力回復のポーションも買ってきたので!」


 そう言って妹がカバンから取り出し、私の前に並べていくのは大量のポーションが入ったガラス瓶である。

 商人から買ってたのはこれだったのか……。

 値引き交渉もこれだけ買うから安くしてくれって内容だったのかも。


「妹1人の時は眠らせるのも倒すのも1人でしたから大変でしたよ」

「苦労をかけてごめんなさいね」

「今は2人だからそれでいいんです!」


 この死ぬほど大変な作業を前に妹は楽しそうだった。

 この妹、私のこと好きすぎるな?


 でもそれは長い間1人にしてしまったという意味でもあるので、このループではしっかり妹のそばにいようと、私はポーションをがぶ飲みしながら思った。


 あと4時間55分……。


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