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第3話 妹は突入する


 育成・ダンジョン探索・そして恋愛……確か『ハナのマジカルエデンライフ』はそんな感じのゲームだった記憶がある。


 友人がえらくハマっていたので、彼女の話を朧げに思い出しながら、道の途中で出会った商人と何やら会話をしている妹を眺める。

 値切りでもしているのか、その会話は白熱していた。


 ここで商人と出会うのも偶然ではなく、妹からすれば必然なのだろう。

 そもそもここはダンジョンのすぐ近く。

 冒険者相手の商人がいることは、ループしていなくても分かっていることではあるだろうけれど……。


 ベイル魔法学園のほど近くに存在するそのダンジョンは『狼の口』と呼ばれる洞窟であり、獣系モンスターが大量に出没する上級者向けダンジョンだ。

 魔法学園で言えば三年生になると突入が許される危険地帯。

 どう考えても一年目で足を踏み入れて良い場所ではないはずだけれど……。


「今回はいつもより余裕なはずです! なにせお姉様がいますからね!」

「ハナ、あまり期待しないでちょうだい」

「でも、お姉様は二年生なんですから」

「ベイル魔法学園の怠け姫とは私のことよ?」

「誇るあだ名でもないと思いますが……」


 どうせ死ぬのだからと本当にぐうたら生きてきたので、授業も進級できるギリギリくらいしか受けていないのだ。

 むしろ戦力をつけると乗っ取られたとき、私を倒せなくなるかもとか考えてしまって、もっぱら座学に励んでいた。

 なので、あまり戦力に数えられても困る。


 商人から結構な量の道具を購入したらしい妹は弾けんばかりに詰め込まれたリュックを背負って、健気に目的地へ急ぐ。

 私も同じようにリュックを持っているけれど、明らかに妹より軽いので「交換しましょう?」「いや余裕です!」と道中何度も言い合いになった。


 そうしてたどり着いたのが、『狼の口』だ。


「さあ、着きましたよ『狼の口』です!」


 妹が小さな手で掲げる先には、巨大な洞窟が存在している。


 狼の口はその名の通り、入り口が牙のような形を取っており、入る者を食らわんとするプレッシャーを感じさせる……と思うのだけど、実際に見てみると遊園地のアトラクション感が凄い。

 入り口の横で衛兵が立っているのも、その感覚を加速させた。

 キャストかな?


「そもそもお姉様、ダンジョンってどんな場所か知っています?」

「危険な場所ってことしか知らないわ」

「怠け姫のあだ名は伊達じゃありませんね……いいですか、ダンジョンとは魔力の強い場所を指します。そして、モンスターとは魔力を蓄積して魔法を使えるようになった生物のことです」

「つまりドラゴンさんが火を吹くのは魔法なのね」


 妹の説明でようやく私はこの世界のダンジョンとモンスターの仕組みを理解する。

 要するに、別に魔法は人間の専売特許ではないということだ。

 長い長い生命の歴史の中に魔法という要素が入ったことで、生物もまた魔法ありきの進化を遂げたのだとしたら、なるほど得心も行く……かも。


「ドラゴンは空飛ぶのも魔法で、鱗が硬いのも魔法なので、全身魔法生物ですね」

「それで魔力を求めてダンジョンにモンスターが集まるということ?」

「合ってます! そんなモンスターの魔力いっぱいな毛皮なんかは金になるって流れですね」


 冒険者とはつまり魔力を補給しに集まったモンスターを殺し、その素材を集める猟師的な職業となるらしい。

 ……冒険というには、さほど夢がないような。

 まあ、そのままにしてたら明らかに危険なので、必要な作業なのは分かるけれど。


「そしてこれがダンジョンのクソ面倒くさいところなのですが……毎回地形がランダムなんです! マジで許せませんこの仕組み!」

「ああ……なるほどね」


 プリプリ怒る妹の言葉を聞いて、私は一つ察した。

 このダンジョン、ランダムダンジョンなのね……。


 ゲームにおけるダンジョンとは最初から地形が決まっている固定ダンジョンと、毎回変化するランダムダンジョンかの二択で、このゲームでは後者を用いていたらしい。

 ダンジョンで死んだらアイテムを全ロストしそうな仕組みだ。


「でも妹は頑張りました! その努力の結晶がこれです!!!!!」


 カバンから妹が取り出した一枚の紙、そこにはマップが描かれていて、上に『狼の口初日』と書かれている。

 それは、どうやらこのダンジョンの詳細な地図らしい。


「本来はランダムかもしれませんが妹はループしているので、経路を覚えておけば実質固定なんです!」

「つまり、ループ初日にこのダンジョンに来ると必ずこの構造になっているのね」

「その通りです! 4ループ目あたりに思いついて金で冒険者を雇ってマップを作らせたんです!」

「やり方が賢いわ」


 同じ姿は全く見せないという変化するダンジョン、しかし妹は時を巻き戻っているので、同じ姿を見ることが出来る……という理屈は分かるけれど、ループ初日では上級者ダンジョンを調査するのも一苦労なので、腕の立つ冒険者を雇って調べさせたらしい。

 我が妹ながらなかなか賢い。

 私も金で解決できることはそれが一番早いと思う。


「ただしこれをするとその後しばらくの貧乏暮らしが待っているので、4ループ目の最初はかなり苦しかったですよ……」

「魔法学園では寮ぐらしだものね」

「もっと言えば冒険者どもから『おいおいこのお嬢ちゃんダンジョンのことを何も分かってねぇな?』みたいな目で見られるのも苦しかったです……」

「ランダムだものね」


 けれど、ランダムと言いつつも、ゲーム的には有限のはずなので、調査そのものはループしていなくても、無駄にはならない気がする。

 いずれその切り口でダンジョン研究でもしようかな……まあ、それは生き延びてからの話だけれど。


「さて、ではダンジョンに突入しますか」

「傭兵さんが見張っているけど大丈夫なの?」

「でぇじょうぶです! 妹の後についてきてください!」


 自信満々で入り口へと歩を進める妹。

 私も不安満々でその後を追うけれど、ここまで堂々としているなら何か傭兵を説得する材料があるのだろう……と思う。

 思いたい。


「待て! お前たち、冒険者の証を提示しろ」


 背の高い傭兵たちは明らかにおかしな小娘どもを当然の業務として呼び止める。


 冒険者の数は国で管理しているため、それ相応のダンジョンに入るには何らかの許可が必要なのは、私でも知っていることだ。

 てっきり学校からの許可証でもあるのかと思って妹を見ていると、妹は突然、地面に煙のでる玉を叩きつけた!

 周囲は真っ白に染まり、私の視界も白一色となる。


「さあ! お姉様! 走ってダンジョンに入りますよ!」

「ゴリ押しすぎじゃない!?」


 突然のことに慌てながらも、妹に腕を掴まれながら、私は『狼の口』への侵入を果たした。

 背後から傭兵の声が聞こえるものの、ダンジョンに足を踏み入れることは出来ないのか、声しか聞こえてこない。


「ふっ、これが妹の考える最適解です」

「最悪解としか思えないわ」


 謎にドヤ顔をしている妹を私は撫でた。

 撫でがそのままツッコミの機能を果たしていると思っていただきたい……だって可愛くて叩けないんですもの。


「入ってしまえば追ってこれませんからね! ここからは楽しいダンジョン探索ですよ!」


 最高に無茶なやり方で中級ダンジョンへと足を踏み入れた私たちだけど、ここからが本当の冒険のはず……だ、大丈夫なのかなぁ。

 

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