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第2話 妹は最速を目指す

 場所は移って妹の自室、これからの作戦会議のために一度落ち着いて話そうということになった。


 部屋には妹が急いで書き留めたらしい紙の束が散乱していて、桃色のカーペットをまるで雪のように染め上げている。

 どうやら忘れてしまう前に、全て書き止めておくのが妹のループ開始時の必須行動らしい。

 考えてみればループは数日なんて短いスパンではなく年単位のはずで、全てを覚えている方が無茶という話かもしれない。


 私のためにすっごい苦労してる妹に私は頭が下がる思いだった。

 この恩に報いるためには、私が死なないのが一番なのだけど、自信はないなぁ……。

 神相手だよ?


「ええっと、この辺に書いたんでしたっけ?」

 

 紙を一枚取ると、妹はそれを眺めながらベッドにダイブしてリラックスした姿勢にゴロンと転がる。

 もうスカートもぐちゃっとしてしまっていた。


「お姉ちゃんの前ではしたないわよ」

「お姉様の前なのではしたなくありません。それより、これからの作戦会議を始めますよ!」


 仕方がないので姉として妹のスカートを直しつつ、私はベッドの横に置かれた椅子に腰掛ける。

 作戦会議といっても、私はほとんどなにも知らないので、基本は妹の話を聞くだけになるだろう。

 果たして紙切れ一枚にも満たない私の浅いゲーム知識が役立つ日は来るのか……。


「まず悪の魔術師ベルンカステットが現れるのは本来2年後なんですが、妹はもうやつのアジト分かってるんでいつでも攻め入って惨殺できます」


 ベッドでゴロゴロしながらも、妹の言ってることはものすごく物騒だった。

 別に惨殺する必要はないのよ?


「いきなり好戦的すぎない?」

「もちろん今すぐ攻めたりはしません。何故なら、今の妹はレベルリセットされてクソ雑魚だからです!」

「えっ、そうなの?」

「ったりまえですよ! 見てくださいこのひ弱な妹の腕を!」


 腕まくりをした妹の腕はまるで筋肉というものを感じさせないぷにぷになものだった。

 揉んだらきっと大変に気持ち良い感触だろうなぁ……。

 しかし、戦闘に必要なのは筋力より魔術なのでは?


「妹はですね、訓練を重ねることによって超成長できるタイプの天才なんです。その代わり、スタート地点では雑魚なのです」

「ああ、何となく分かるかもしれない」


 要するにこのゲームが主人公を育成する系のゲームだからこそ、最初は弱いものの、育成を重ねる内にどこまでも強くなっていくということだろう。

 

 上限はあるのかな……?

 もしかしたらあるのかもしれないけれど、ないとしたら大人になる頃には世界最強になっているかもしれない。

 それは今、ループによって止められている状況だけれど。


「だから妹がするべきことはベルンカステットを倒せるくらいまで効率よく最速で成長して、さっさとアジトに乗り込み倒すことなのです」


 まるでRTAみたいなことを言い出す妹だけど、実際、気分はタイムアタックをしているのと同じかもしれない。

 その姿には歴戦の貫禄すら窺えた。

 

 ……思えば妹って今の精神年齢何歳なんだろう。

 3年間を繰り返しているとして、元の年齢が16歳だから9掛ける3足す16で……もしや43歳!?


「今、失礼なことを考えませんでした? 妹は永遠の16歳なので!!!!!」

「勘が鋭いのね……ええ、分かっているわ。16歳よね」


 長年のループによって鍛えられた妹の勘の鋭さはもはや読心術の域に入っている。

 そして、妹も女性なのだから、年齢に触れられたくないらしかった。

 気持ちは分かる。


 私のためなのだし、年齢は忘れていつまでも子供のように扱ってあげよう……そっちの方が可愛いしね。

 私は妹の頭をヨシヨシする。

 妹は目を細め複雑そうな表情になる。

 喜ぶべきか迷っているらしい。


「いや、別に子供扱いしろという話ではないのですが……まあ、いいでしょう。つまり、最初は学園に通う必要があるのです」

「あら、真面目なのね」

「いえ、真面目とかではないです。ただ、色々ループの中で試してみましたが、結局、学園で鍛えるのが一番手っ取り早かったんです! 教師が優秀ですし、授業も自由に選択できますからね」


 もはや妹は真面目さなんてどうでもいいと言わんばかりに現実的なことを言っていた。

 でも、現実的に考えて学園に通うのが一番と言うのはちょっと面白い話かも。


 私たちの通うベイル魔法学園は単位制であり、言ってしまえば大学みたいなところがある。

 そして、一応、この国最大の教育機関であるから、確かにこれ以上の修行の場所はないのかもしれない。


「私も戦闘よりに授業を変えようかしら」

「悪くはないと思いますが、妹としてはもっとやって欲しいことがあるのです」


 そう言うと妹は一枚の紙を私に差し出した。

 そこには『好感度爆上げ方法♡』と書かれている。


「なんだか嫌な予感がするのだけど、これ、なに?」

「それは協力してくれる仲間をさっさと集めるための方法です! 最速でベルンカステットを倒すには武器・仲間・そして修行の3本柱が必要なのですが、今回、仲間集めをお姉様に任せたいのです!」

「えっ? 無理よ?」

「ちょっとー! 生きるためなら何でもするって言ったばかりですよ!?」

「なんでもとは言っていないわ……あの、私、友達とかいないのよ」


 確かに頑張って生きてみようと思ったけれど、今日までずっとぐーたらに生きてきた私に仲間集めは難易度が高すぎた。

 人との関わりも極力避け続けた為に、知人と言える存在すら私にはいないほどなのに。

 我が儘お嬢様を助けてくれる人なんて、それこそ可愛い妹だけなんじゃないかな……。


「大丈夫ですよ! あいつらクソチョロいですから!」

「酷い言いようね」

「あと基本善人なんで泣きつけば何とかなりますよ!」

「まるで何度も泣きついたかのような言い方ね……」


 今の私には分かる。

 我が妹は泣きつくのが最速だと分かれば容赦なく泣きついてみせる女だと。


「ですが、学園が本格的に始まるまであと三日ありますから、その前にやるべきこともあります」

「やるべきこと……?」

「経験値を多めに貰えるようになるアイテム『七難ハック』という指輪を手に入れる必要があります! そんなわけで、これからダンジョンに突入しますよ!」

「ええ……?」


 突然ダンジョン探索が予定に追加されてしまった。

 けれど、妹は今はまだ弱いはずで、ダンジョン探索なんて荒業は不可能なはずだ。

 一体、どうするつもりなのだろう。


明日も投稿します。

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