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最終話 妹と姉は世界をまたぐ

 立ち並ぶビル群の中でも一際大きく、最も際立ったデザインのビルの中へ私たちは足を踏み入れてく。

 ここに来るのは2回目だった。

 1回目はこのビル内にあるゲームブースの中で目覚めた時で、部屋から出るや否や、お医者さんに囲まれたことを覚えている。

 多少筋肉が低下したくらいで、大きな問題はなかったけれど、あれは我が身が心配になったなぁ。


 鍵付きのエレベーターに乗り込んだ私たちは、グングンと急上昇して行き、あっという間に地上50階に到達する。

 そしてエレベーターのドアが開くと……目の前に人形が現れた。


 かなりホラーな光景だけれど、私は驚かずにその人形の頭を撫でる。

 その人形は等身大で、この会社が発売しているゲームの中心人物の1分の1スケールモデルである。


 モデルとなったキャラはハナ・アスキュー。

 『ハナのマジカルエデンライフ』の案内役だ。


 つまり、私の妹の人形なのだけど、この人形はその辺の人形とはレベルが違う驚きの機能がある。

 その機能とは――。


「待ってましたよお姉様! ささ、こちらへこちらへ!」


 その機能とはしゃべること……ではない。

 しゃべって考えて、動くことである。


 あの長い話し合いの中で妹がどうしても聞き出したかった理由。

 外の世界の情報を求めたわけ。

 それは外の世界の技術を知りたかったかららしい。


 体感型ゲームという未知の技術を持つ神々であれば、自分が外に出られる技術もあるはず。

 そう考えた妹の発想は柔軟であり、私の硬い頭とは大違いだった。

 或いは、諦めない心が生んだ奇跡なのか。


「良かったわね。その体を貰うことができて」

「お姉様の被った迷惑料としては妥当なところです」

「いや、億の値段はすると思うんだけどね……」


 この機体は私への慰謝料兼口止め代として借り受けている形なので、一応は私の所有物である。

 ただし、まだ調整段階なので外に出ることは許可されていない。

 それはまた次の機会にと言うことだった。


「ちゃんとAIの移し替えは成功しているようね。さすが私! さすがママ!」


 自然に会話する妹を見て満足げに微笑むアルテヴァさん。

 彼女はゲームのAIをこの機体に移すという作業にとても協力してくれた功労者である。


 さすが天才児というべきか、データの世界においては最強の人材かもしれない。

 だからこそ、ループ時には面倒なことになったのだけどね……。





 窓の向こう側は空であり、地上の全てはミニチュアのようになっている。

 そんな天空の会議室とも言うべき場所に通された私は妹に抱きつかれながら、椅子に腰掛ける。

 なんと妹の感触は柔らかい!

 まさに未来の技術だ!


「皆さん揃ったところで、今回の事件の流れを確認したいと思います!」


 運営さんがタブレットを操作すると上からプロジェクターが降りてきて、会議室の真ん中に立体的な画面が現れる。

 そこには魔界神アルテヴァ(大人状態)の映像が流れていた。


「まずことの発端はこのゲームにおいてある大きな問題が存在することをナナコちゃんが気付いたところからでした」

「大きな問題……記憶喪失のことですよね」

「そうです! ナナコちゃんはこの問題を解決するまではβテストは中止すべきだと言いましたが、上はこれを黙殺します……発生確率が非常に低く、本当にそんな問題があるのか疑問視されたからです」


 記憶喪失はこのゲームそのものの問題だったらしい。

 私の記憶喪失はかなり限定的なもので、前世の知識はあるものの、前世の記憶はないという状態だった。

 記憶とはエピソード記憶と意味記憶に分かれており、私はエピソード記憶を失ったわけだ。

 ただし、現在は取り戻している。

 記憶喪失になるのはあのゲームの中だけらしい。


「ナナコちゃんは怒って社を出て行きましたが、後になってやはり危険だと考え、問題が起きた時のサポート役を投入します。それがムツミちゃんです!」

「はーい、お母さんに頼まれました」


 珍しく少し子供っぽい声色で手をあげるムツミちゃんことアンジェラさん。

 やろうと思えば年相応にもできるんだ……。


「そしてナナコちゃんの懸念は当たっており、記憶喪失は実際に起きてしまいます。1人は小鳥遊様、そしてもう1人が――ムツミちゃんでした」

「私だけが記憶喪失になるなら、ムツミちゃんが解決できたんですかね?」

「出来たと思うわ!」

「ということは、やっぱり不運な感じですね……」


 記憶喪失という問題を解決するために密かに送り込まれたムツミちゃんだが、なんと本人が記憶喪失になってしまう。

 私だけが記憶喪失になっていたら、すぐに解決していただろうに、このせいで色々と面倒なことになったわけだ。

 発生率は激低なはずなのになんという不運。




「記憶喪失になった小鳥遊様は自分の死を完全に受け入れてしまい……そのままゲーム内で死亡します。それだけならゲームオーバーで目が覚めるだけなのですが、問題は魔界神となったムツミちゃんです。ムツミちゃんはプレイヤーを助ける使命がありましたが、記憶を失ったことでこの世界がゲームの中だと気付かずに――時間を巻き戻し始めたんです!」


 本来、ムツミちゃんは記憶喪失などからプレイヤーを助けることが目的だったのに、記憶を失ったことで私というプレイヤーをゲーム内で助け続けるという結論に至ってしまう。

 その結果が時間巻き戻してあり、魔界神アルテヴァの誕生ということらしい。

 記憶を失ってなお尊敬する母の性格そっくりとなったママ界神は、私を救うために永久に時間を巻き戻すようになる。


「小鳥遊様以外のプレイヤーはその時点ですでにクリアとなり世界から退室していたので、小鳥遊様1人が残されることになってしまった……と言うのがこの事件の流れです」

「ムツミちゃんが天才的だからこそ世界を乗っ取れてしまったのが1番困ったことなんですね」

「……アンジェラちゃんにムツミちゃんって言われるのは慣れないのよね。アルテヴァでいいわよ?」


 ム……じゃなくてアルテヴァさんはそう言うけれど、見た目子供で実際子供な彼女にさん付けするのは結構な違和感がある。

 しかも、アルテヴァって明らかにおかしい名前だしね。


「そして今回の不祥事をお姉様が黙っておく代わりに色々と便宜を図るというのが、話し合いで出た結論です! お姉様のものは妹のものなので、こうして体も貰ったわけですが……もっと吹っ掛けても良かったですかね?」

「もう超吹っ掛けてるからねハナ」


 そんなこんなで、なんやかんやで、私と妹はめちゃくちゃ変則的な形で一緒にいられることになった。

 今は別居だけれど、そのうち私もこのビルに住むことになるのかもしれない。

 それはそれで楽しそうだし、前向きに検討しよう。


 さて、最後に残されたあのゲーム世界の話だけど……あれは妹に託されたと聞いている。

 その後、どうなったのだろう。


「記憶喪失の問題は先日解決しまして、エデンは再び起動することになります! ただし、かなり変わった形で、ですが」

「もはや増えたツバキ丸ちゃんを戻すわけにも行きませんからね。あの世界は遊園地的に運営することになります」

「遊園地?」

「はい、ゲーム的な活用はもうAIが人格を持ちすぎて厳しいのです。これからは自然の少ない社会のオアシスとして、自然豊かなワンダーランド、エデンとしてやって行きます」


 あの世界については、妹と運営さんとで色々考えたらしい……のだけど、まさか遊園地方面になるとは。

 でも、手軽に異世界みたいな場所に行けると言うのは確かに夢のような遊園地で、土地にも取らないし、なかなか良いアイデアかもしれない。

 遊園地というのは、結構最先端の技術も多いからね。


「そんなわけで、今日は遊園地テストプレイの日です! お姉様、一緒に行きましょう!」

「それで朝早くに呼び出したのね……」

「生まれ変わった魔王城に遊びに行きましょう! ちなみに現在の魔王はキュキュさんとなっています」

「父親から地位を分取ってる!?」

「ちなみに、ツバキ丸ちゃんはキャストとして無理矢理働かせてます」

「とことん便利に使われているわね……」


 結局、ツバキ丸ちゃんのグータラな夢は叶わなかったらしい。

 確かに同じ顔がいっぱいと言うのはキャストっぽいところがあるけれども。


「逆にベルンちゃんはグータラしてますが……1番お姉様に会いたがっているはずですよ」

「そうね。会いに行かないとね」


 私は結局、あの世界に留まることはできなかった。

 けれど、今でも世界は繋がっている。

 妹が言った通り、この世界と向こうの世界、両方にいたいという私の望みは完璧に叶ってしまった。


 妹はあの時からこうなると分かっていたのだろうか?

 いいや、違う。

 妹は分かっていたのではない。

 この結果にするために頭をフル稼働させて、手段を尽くして、なんとか導いて見せたんだ。

 私と、そして自分のために。


 私は再び妹の頭を撫でる。

 違う世界の住人だったはずの妹がこうして横にいるなんて、なんとも不思議な気持ちだ。

 けれど、しっくりとも来ている。

 これが定位置のように、収まっているように。

 もう血の繋がりなんてないけれど、私と妹は間違いなく家族だった。


「これまではずーーーーーーーっとループループで何も楽しめませんでしたからね。これからは毎日楽しく暮らして見せます!」

「本当にご苦労様、ハナ」

「もっと強く頭を撫でても良いのですよ?」

「はいはい」


 力を込めてガシガシと頭を撫でると、妹は目を細めて「ぐえっふぇっふぇ」と汚い声をあげながら微笑んだ。

 ずっと忙しかった妹に、ようやく休暇が訪れたのかもしれない。


「このゲームのタイトル『ハナのマジカルエデンライフ』なのに私はまるでエデンライフできませんでしたからね!」

「むしろ逆だったわね……」

「さあ行きましょう! 今日はお姉様で遊びます!」

「お姉様との間違いよね?ハナ?」


 妹に手を握られたまま、私はゲームブースへ急ぐ。

 またあの世界にいくと思うと、高鳴る気持ちを抑えきれない自分がいた。

 きっと、また騒がしいんだろうなぁ。

 でも、それがきっと私と妹にとっての、エデンに違いなかった。


「私の、ハナのマジカルエデンライフはこれからです!」

 

最終回です!

これまで読んでもらい感謝の至りです! 

本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ループからの脱出というシリアスなストーリーを覆い隠さんばかりのバカバカしさ 誤字がほぼないしサクサク読めちゃいます [気になる点] 解決編(?)がアッサリ気味な気がする… 毎日連載を追っ…
[一言] ほど良いカオスとバカバカしさで楽しく読めました ツバキ丸ちゃんに幸あれ!
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