第38話 妹は戦う
「なんだかとんでもない話になってきたでござるな」
「拙者のような一般侍女子にはついていけんでござるよ」
「一般侍女子がまずおかしいし、そもそも貴女の存在が1番とんでもないのよ?」
もはや何体いるかも忘れてしまったツバキ丸ちゃんたちは、やれやれとでも言いたげな顔をしているけれど、1番この場で変なのはツバキ丸ちゃんである。
いや、本人の意思でそうなったわけではないのだけども……でもこの順応性は本当にすごい。
「うちもマジイミフだけど、まあ、うちら一般人組は成り行き見守るしかないっしょ」
「キュキュさんも全然一般人じゃないよ!」
「もう魔王の娘くらいフツーじゃん? 逆に気が楽っていうか」
「とりあえずハナ殿が世界の支配者になったら拙者には一生遊んで暮らせる生活を提供して貰いたいでござるな」
「金の風呂に入りたいでござる」
「世界の支配者相手に願いが俗すぎる!」
これから神々こと運営さんが来ようというのに、このリラックスしきった会話。
器がでかいのか、アホなのか。
どちらにせよ、さすが妹の仲間たちと言わざるを得ない。
「さて、お姉様、運営はもう呼んだので通訳をお願いしますよ」
「あっ! 言葉通じないんだったね」
「お姉様を介することで、交渉を有利に運ぶためでもあります!」
「何故か毎度小狡いのよね……」
「ちゃんとした戦略です! あと、妹の予想ではかなーり長い話し合いになると思いますので、覚悟してください」
「そ、そんなに?」
もちろん、すぐ終わると思っていたわけではないのだけれど、覚悟しろとまで言われると少し怖くなる。
こういう会議みたいなのに参加した経験はないけれど、もしかして半日かかるのが普通だったりするの?
「まず外の世界の状況も知りたいので、そこも絡めた話になりますから、否応なく伸びます。それを聞き出すためのトークでも伸びますし武力をかざしつつなのでやはり伸びます。本格的に双方がすり合わせを始めるまで相当な時間がかかるでしょう」
「う、うん、気合入れるよ」
「まあ、伸びれば伸びるだけこちら有利ではあります。運営からすれば本来話し合う必要性も薄いわけですからね――っと来ましたか」
空へと動く妹の視線に釣られるように、私も空を見上げると、いつもの運営のお姉さんが天から降りてくるところだった。
私から見ると人が降りてくるシュールな光景なのだけど、妹から見ればきっと天使のようなものが降ってくる神々しい光景である。
こうして、話し合いは始まった。
本当に長い長い話し合いは、私の精神を磨耗させ、ツバキ丸ちゃんやベルンちゃんなどは眠りこける始末だった。
私は理解した。
会議とは、政治とは、話し合いとは……戦いなのだと!
しかも、確実に勝者が現れるとも限らない地獄のような戦いである。
運営さんは世界と私を人質にされている中で、穏便に穏便に話を進めようとする。
それにつけ込んで妹は運営さんから情報を引き出すという構図。
互いに何度も何度も確認作業を行いながらの話し合いなので、もう時間がかかってしょうがない。
殆ど半日以上の時間をかけたそんな大変な話し合いの最後に、妹は私の顔を見てニッコリを微笑んで見せた。
「良かった……一緒にいられますよお姉様」
★
ガゼボ、それは休息や展望を目的に庭園に置かれたひらけた建築物のことである。
日本風にいうならあずまや……なのだけど、今回の場合はそのままあずまやで合っている。
何故なら、ここは日本なのだから。
高層ビルに囲まれるようにしてひっそりと存在している猫の額ほどの公園、そこに置かれた屋根付きベンチともいうべきあずまやで、私は1人、スマホをいじって暇を潰していた。
まさに現代人というべき行動だ。
ただそれにも飽きてしまった私は、スマホをベンチに置いて、空を見上げる。
空はビルによって削られ、狭苦しい姿を見せていた。
ああ、そういえばこれが本来の私の空だったな。
あの世界の空はこの社会に生きる人たちの夢だったのかもしれないと、少しセンチに思う。
そう、私は外の世界に来た。
いや、帰って来たと言うべきなのか。
あの話し合いの結果、どう足掻いても長時間あの世界にいることは危険だとして、私は結局この世界に帰ってくることになった。
妹としても、そこは仕方ないと譲った形だ。
では、どうやって妹と一緒にいることになったかと言えば……。
「遅れてすいません小鳥遊様!」
公園の入り口に設置された小さな柵を乗り越えて、眼鏡のお姉さんがやってくる。
運営のお姉さんは、なんと現実でもさほど変わらない容姿をしていて、私を驚かせた。
そして、お姉さんの横の小学生ほどの子供も連れられるようにしてやって来る。
お姉さんにも驚かされたけれど、この子の方がもっと驚きなんだよね……。
「アンジェラちゃんー! ママですよー!」
とんでもないことを口走りながら、その子供は私の元へ駆けて来て、ちっちゃい手で頭を撫でてくる。
そう、この子は……魔界神アルテヴァ、その正体だ。
なんと子供である。
どうやら魔界神として初登場した大人びた姿より、子供状態になった時の方が本来の姿に合っていたということらしい。
現在11歳の女の子で、特技はプログラミング。
失踪した運営の1人、ナナコさんの一人娘だそうだ。
「子供になってもママのままですか」
「元々はお母さんの真似ではあったけど、今では完全に私のポリシーだもの! アンジェラちゃんは永久に私の娘よ!」
可愛らしく胸を張るアルテヴァさんは、あの世界と同じように謎の包容力に満ち溢れている。
アルテヴァさん……本名をムツミというのだけど、彼女はとんでもない天才児で、ちょっと大人びたような態度も、その現れかもしれない。
「お二人とも、お話は良いのですが今日は我が社に来てもらわないと困りますので……お話は社の方で」
「あっ、はい。じゃあ行きましょうか」
お姉さんに急かされた私は、アルテヴァさんに手を繋がれたままにベンチから立ち上がる。
さあ、妹に会いに行こう。




