第37話 妹は武力を持つ
「運営からすれば私たちとこの世界は商品なわけです。その商品にとんでもない不備が生じているわけで、これは大問題ですよね。しかし、運営は妹の見たところさほど焦ってはいません。これは何故なのか」
「私を急いで帰そうとしてるのは焦ってはないの?」
「その程度では全然焦っているとは言えませんね。だって、こうして会話させる余裕すら見せてるんですよ? 先程言った通り、これでは手ぬるすぎる。切羽詰まってたら絶対に有り得ない行いです」
そう言われてみれば、なるほど、事態の性急な解決が求められるなかで、運営の態度はやや暢気ですらあるのかもしれない。
最初にあった時から、あのお姉さんはホワホワしたところがあったし、本人の性格なのかもしれないけれど。
「あの人個人の性格って線は?」
「その可能性もなくはないですが、私の考えではお客様へのダメージが最小限で済んでいるからではないかと思います」
「お客様って……プレイヤー?」
お客様と言われると若干の違和感があるけれど、まあ、事実私はお客様ではあるのだろう。
記憶がないせいで、その辺の感覚が微妙だ。
「プレイヤーと呼ぶ方がわかりやすいですか? ではどちらで。プレイヤーは運営の弁ではお姉様以外、全員がこの世界から脱出を果たしていると言っています。つまり、現在進行形でこの件で迷惑を被っているのはお姉様1人の可能性が高いです!」
「そ、そういうことなのかな?」
私以外にも一応、アルテヴァさんというプレイヤーがいるのだけど、彼女は無断入室の可能性が高いので、この件とはまた話が違う。
そうか、今、この世界に閉じ込められた人間は私1人というのが運営の捉え方になるのか。
「そういうことです! だからこそお姉様に優しくしてるに違いないのです! 後々内々で済ませるために、心象をよくしておきたいから!」
妹に力強くそう言い切られると、それが絶対の真実な気もしてくるけれど、現状はあくまで推測である。
ただ、それを前提にした場合の矛盾はない。
どこか、運営側の心理としてはこれ以上なくあり得そうである。
とんでもない不祥事だもんねこれ……。
「さて、この前提で妹が考えた全員がハッピーになれる案ですが――妹がこの世界の支配者になります!」
「どういう結論!?」
ここまで知性的に話を進めていた妹だったが、ここにきて急にぶっ飛んでしまった!
自信満々に何言ってるのこの子!
リアルで世界の支配者になろうとする人、初めて見たよ私!
ホビーアニメの悪役くらいしか今日日言わないことだと思うよ?
「要するに、この世界は今混沌となっていますが、その支配権はそこの魔界神が掴んでいるわけです。運営にとって一番最悪の結末は、この世界がぶっ壊れて修復不可能に陥ること」
「それはまあ、間違いないわね」
「ということは、この魔界神がこちらの言うことを聞く限り、世界の命運はこちらが握っているようなものなんですよ! フハハハハ!」
「言ってること完全に魔王よ?」
フハハハハって。
貴女は一応、お嬢様なのよハナ?
なんて、今更言ったところでなんだけれど。
「交渉に1番必要なのは何だと思いますか? 話術? 親身さ? 違う違う! 武力ですよ!!! 釣り合った武力なしで交渉もない! 妹は魔界神という武力で運営と交渉してみせます!」
「う、うわぁ……」
や、や、や……ヤバい。
妹は私の想像以上にヤバい子だった。
まさか……まさかこの世界を滅びを背景に、この世界の創造主と交渉しようとするとは!
もはや狂人としか思えない発想に、私はドン引きを隠せない。
めっちゃ悪い人がやるやつじゃーん!
ただ、有効そうなのは確かなので、私としては口を挟む余地はない。
そもそも口で妹には勝てない!
「それにですね……実は世界以外にも人質がいます」
「えっ、何かあるの?」
「はい、目の前にいますよ」
「目の前って……?」
妹はじっと私の顔を見つめる。
何故、このタイミングで私の顔を……?
私は不思議に思うが、数秒して気が付いてしまう。
えっ、いや、まさか!?
「私が人質!?」
「そうです! 運営としてはお客様の命は第一にしなければならない以上、絶対に交渉には乗ってきます! しかも向こうに負い目があるので、下手にならざるを得ないでしょう。世界とお姉様、この二つの人質で妹は運営を……倒す!」
世界一ヤバい神々(運営)の倒し方が発表されてしまった。
世界と姉を人質にして運営の負い目につけ込み交渉を有利に進め……勝つ!
それが妹のプランだった。
どんなプランよ、それ。
一時は勇者とすら言われていた妹がこんなことになってしまうとは。
けど、まあ、妹らしいかなぁ……。
「勝手に武力に加えられてるけれど、ママは常にアンジェラちゃんだけの味方よ?」
「お姉様は私のお願いは断らない人なので。お姉様、交渉、しますよね」
妹としては魔界神を私経由で協力させるつもりらしく、ずいっと顔を近付けて、圧をかけてくる。
そんな妹に私は……普通に屈した。
弱い姉すぎる!
「……ま、まあ、ハナの好きなようにしたら良いって言ったしね。アルテヴァさん、お願いできますか?」
「お願いされちゃうわ!」
あっさりと受け入れてしまう魔界神。
ついに、私至上主義な妹と魔界神が手を組んでしまった。
間違いなく、最恐のタッグである。
確かに運営も倒せそうかも……。
「魔界神はこの世界をいじる方法も分かっているんですよね。なら運営の呼び出し方も分かるはずです。早速、交渉と行きましょう!」
「早速すぎない!?」
「世は常に先出し有利ですよお姉様! それに長引かせると運営が不審に思うかもしれません。今この時がベストタイミング!」
「じゃあ、呼び出してみるわね」
とんとん拍子に話は進んで、気がつけば世界を賭けた交渉が始まろうとしていた。
なんと世界を賭けている側はこちらである。
運営さんとしては世界を救うための交渉となるわけで……いや極悪すぎるわこっちサイド!




