第36話 妹は強気
「私、今までなんとなくで魔法を使ってたのよね」
「なんとなくで魔法って使えるんですか!?」
その魔法で世界を殆ど支配していたアルテヴァさんだが、その全てはなんとなくで行われていたらしい。
そ、そういえば適当にやって結界張ったみたいなこと言ってたかも……。
「魔法なんて原理不明だしあやふやなものでしょ? そんなものかなぁって思ってたの。けれど、外に出た時、少し魔法の理屈が分かったわ」
そういうとアルテヴァさんは虚空を指差し、ひょいっと上にスライドさせる。
すると……何かのウインドウが姿を現した!
えっ、フリック式!?
「な、なんですそれ!?」
「分からないわ! でも、こんな感じのものを操作すれば、世界をコントロール出来る気がするのよね」
「そんなあやふやな感じで世界って支配されてたんですか!?」
アルテヴァさんは殆ど思考していないような速度でウインドウに指を走らせていく。
それはものすごく慣れた動きで、熟練のものを感じさせた。
流れていく文字や数字を見る限り、このゲームのコードから何かを検索しているようだけれど……。
「多分ここをこう書き換えれば万事OKのはず……それで少しロールバックすれば……よし、動くと思うわ! 多分!」
もう適当にすら思えるアルテヴァさんの言葉はしかし真実で、気が付けば世界は――また騒がしくなっていた。
★
「隠密で宝物庫まで行きたいところですが、ツバキ丸ちゃんの数が多すぎてまあ無理です」
「ごもっともな意見でござるな」
「そこでここはベルンちゃんにやってもらいましょう。ベルンちゃんはどこでもぬるっと行けますから」
波の音と、風の音、そして騒がしい船内に響き渡るツバキ丸ちゃんたちの声。
時間停止は完全に解けている……あの時、運営さんがやったのと同じように時間を巻き戻すという形で。
アルテヴァさんの正体はまだはっきりとは分かっていないのだけど、ナナコちゃんという人が開発者だったことを思えば、世界の改変をこういう形で行っているのは自然ではある。
運営にできることは、アルテヴァさんにも出来るということになるのかな。
「はい、剣」
前回と同じようにベルンちゃんが超迅速に剣を持ってくると、私はまた世界が停止しないか、緊張に駆られる。
しかし、その心配は杞憂だったようで、剣はピクリとも動かずにその場に静止していた。
どうやらホーミング機能が失われているらしい。
アルテヴァさんが操作して、消したのだろうか?
「……お姉様、上手くいきましたか?」
その場をおろおろとする私の態度と、ムラマサブレードの機能停止を見て、妹は目ざとく、私が停止した世界から帰って来たのだと見抜く。
相変わらず洞察力がえげつない。
「上手くいったかと言われると、ちょっと問題が発生したかも」
「ママとしてはなんの問題もないんだけどねぇ」
ごく自然に話に加わってくるアルテヴァさん。
少し時間を巻き戻した結果、元のツボの中に入るかと思ったけれど、どうやらそうはならなかった様子だ。
そこも操作したのかもしれない。
「えっ!? はっ!? そ、その少女は誰ですか!?」
「見かけない顔でござるな」
「マジヤバい空気を感じるんだけど、エグい系のやつ?」
私の横にさも当然のように立つアルテヴァさんに、一同は思い思いに驚いているけれど中でも妹の反応はすごい。
そんなに動揺することある!?
そういえば、前にもベルンちゃんの時にとんでもなく動揺していた記憶がある。
こ、子供が苦手?
「この子は、あの、魔界神のアルテヴァさんです……」
「ママよ。ちょっとちっちゃくなったけれど、ママはママなので安心してちょうだい」
「言っている意味がさっぱり分からんでござる!」
「ママのままって意味でござるか!?」
「サキュバス的にもロリママはちょっとレベル高すぎる感あるよマジで!」
「いや、皆のもの! 魔界神の方に驚くべきでござるよ!」
「それはそうでござるな」
「パパがこれ信仰してたと思うとキモすぎてヤバくない?」
みんなが騒がしくアルテヴァさんを囲む中で、妹ただ1人が真剣な表情でアルテヴァさんを睨んでいた。
そう簡単に気を許さないということだろうか。
「い、妹の妹系美少女枠がまた1つ削られてる……!」
「気にするのそこなの!?」
思いのほかくだらないことで悩んでいる妹だった!
そうだった! ちょっとアホなんだったこの子!
「妹は妹がアイデンティティなので、結構な問題ですよ!」
「妹じゃなくてママだから安心して」
「ああ、それなら安心ですね……」
「それでいいの貴女?」
秒で安心する愉快な妹を見て、私は少し安心した。
体感ではそれなりに時間がたっているので、色々と不安もあったのだけど、相変わらず妹は妹だなぁ……。
「それで、魔界神ですか。はい、ええ、なるほどなるほど……いや、どういうことですか!? お姉様! 説明!」
「そうよね分からないわよね」
停止した世界で修行と調査に励んでいたはずの姉が、急に子供になった魔界神を連れてきたのだから、それはもう意味不明もいいところだろう。
私はここまでの流れを妹に全て説明する。
もう本当に色々あったようで、意外と何もなかったようでもある停止世界生活だったけれど、妹にとっては興味深いものばかりのようで、頷きながら聞いてくれた。
そして聞き終わった妹の感想は。
「すごいじゃないですかお姉様! 妹の予想以上の成果です! 殆ど全て解決してるんじゃないですか?」
意外にも歓喜だった。
びっくりするくらい褒めてくれているけれど、妹にとってはかなり不利益な話のはずでは……?
「ええ、でも、このままだと強制退室されるのよね」
「それは妹の予想の範疇です。というか、妹からすれば運営側も手ぬるすぎるくらいなので、予想以下ですかね」
「強気すぎない!?」
「強気ではなく本気なのです! 予想できるからと言って対処できるかと言われれば微妙なのですが、今回の場合は妹に考えがあります! 運営の心理を考えればいいんですよ」
「運営の心理?」
妹は謎に自信満々の態度を見せているけれど、私にはその自信の根拠がさっぱり分からない。
でも、妹のことだからしっかり根拠はあるのだろう。
うちの妹の考えはいつだってとんでもなくて、強引で、反則的でもあり、そして、優秀だ。
だからこそ、今回も私は期待せざるを得ない。
妹という、私にとっての世界の主役に。




