第34話 姉は退出させる
「私の方を見て何か言っているみたいだけど、この人何を言っているのかしらアンジェラちゃん?」
「あっ! 言葉通じないんでしたっけ……えっと、アルテヴァさんはナナコちゃんだと思われているみたいです」
「ナナコちゃん? 誰それ?」
アルテヴァさんはナナコちゃんという名前にまるで聞き覚えがないようで、可愛らしく首を傾げていた。
これは完全に忘れていたことなのだけど、運営さんとキャラでは声が聞こえないばかりか、そも姿はプレイヤー以外から見ると、不気味で神々しいナニかの容姿に見えるらしい。
あれ? ということはアルテヴァさんプレイヤーではない!?
私の考えは間違っていた……?
一瞬、逡巡しかけたけれど、私はそれを頭を振って振り切った。
今、そのことを考えてる暇はないはずだ。
ここは一度、新情報の方を見極めるとしよう。
「運営さん、ナナコちゃんとは誰のことでしょうか?」
「ナナコちゃんはですね、開発者の1人です」
「開発者!?」
ナナコちゃんという響きと、現在のアルテヴァさんの容姿から、勝手に子供を予想していたけれど、運営さんの口から飛び出たのはまさかの開発者だった。
そうだよね、この世界はゲームなわけで開発者がいるのは当然と言える。
つまり、ナナコちゃんという人物はどうやら重要人物になるらしい。
「ただしもう開発チームを抜けておりまして、実家でゲーム三昧な日々を過ごしていると思っていたのですが……」
「そのナナコちゃんとアルテヴァさんが似ているのですか?」
「はい。もちろんこのままの見た目ではないのですが、成長させるとそのままですね。ナナコちゃんに子供がいたらこんな感じだと思います」
多少幼い容姿でも断定できるなんて、よほどナナコちゃんとアルテヴァさんは似ているらしい。
もしくはナナコちゃんが相当な童顔なのか。
アルテヴァさんが幼くなったことで、初めて判明した事実なのかもしれない。
「アルテヴァさん、アルテヴァさんはこのゲームの開発者……つまり、この世界の生みの親に似ているそうです」
「へー! そうなの? まあ、魔界神だし世界創造神と似ててもおかしくはないんじゃないかしら?」
「それはその通りですが」
考え方が神話すぎる!
ゲーム的に考えればありそうな話なのだけど、今はメタ的に考えたい。
考えられる説は2つで、1つは開発者であるナナコちゃんが魔界神のモデルであり、そのデータがゲーム内に残っていたというもの。
それを使って人間体を取っているから、魔界神アルテヴァはナナコちゃんに似ている説。
もう1つは単純にアルテヴァさんとナナコちゃんが同一人物である説。
ナナコちゃんとやらが運営側の気付かないうちに、こっそりとゲーム内に侵入していた可能性。
前者にも、そして後者にも強引なところがあって、推理と呼ぶには当てずっぽうがすぎるけれど、とにかく確かめる他ない。
問題はどう確かめればいいのかだけど……。
「それで、この神はぶん殴っていいのかしら?」
「駄目ですよアルテヴァさん! 穏便に穏便に!」
「こいつの姿見てるとすっごいムカつくのよ!」
「交渉してみるので、少し待っていてください……」
短気なアルテヴァさんを宥めつつ、私は運営さんに向き直る。
その顔は以前にも見たお姉さんなのだけど、記憶はないはずなので、その辺も気をつけて会話しなければ。
「あの、私は記憶喪失なのですが、事情はそこそこ分かっている感じです。お姉さんとも会ったことがあります」
「巻き戻った時間の中で会ったことがありましたか! それなら話は早いです! さあ、世界から脱出しましょう!」
手を掲げてそんなことを言ってくれる運営さんだけど、アルテヴァさんの横でそんなことをされたら戦争は不可避!
早く事情を説明しなければ……と思うのだけど、同時にむしろ脱出する手もありなのではないかと思い始める自分がいた。
もちろん、全てを忘れて元の世界に帰ろうという話ではない。
アルテヴァさんが何者なのか、それを確かめる方法……それは元の世界に帰ることが一番なのではないかと思ったからだ。
「運営さん、ちょっといいですか?」
「はい! 何でもどうぞ!」
「この子は、アルテヴァさんは魔界神なんですけど、私はプレイヤーだと考えているんです。この可能性ってどれくらいありますか?」
「……そういえばアルテヴァって魔界神の名前でしたか! それがナナコちゃんに似ているとなると、なるほど、侵入をお疑いですね? ハッキングされている可能性はこちらでも考えていたのですが、その犯人がずっとゲーム内に潜んでいたという考えはとても興味深いです。でもそう考えると……が……になりますから……も……」
運営さんはブツブツと呟きながら、顎に手をやり思考を張り巡らせていく。
やがて、考えがまとまったのか人差し指を立てて顔を上げた。
「あり得ます! 目的は分かりませんが、魔界神の不可解な能力の正体が、この世界をプログラマーとして操作なら納得が行きます!」
「では、アルテヴァさんも一緒に外に出すことって出来ますか?」
これが私の考えた確認方法だった。
プレイヤーであれば世界からの退出は可能なはず。
そして私と一緒にアルテヴァさんが外に出れば、世界の崩壊も起こらない。
どころか、世界がアルテヴァさんの支配からも自動的に離れるはずで、全てが解決する……はず!
「それはもう試してみるしかないでしょう! 強制退出を実行して見ますが、よろしいですか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私はなしの方向で! もしも私だけがこの世界から離れた場合、アルテヴァさんが滅ぼしちゃうので!」
「分かりましたー! それでは実行します!」
私とアルテヴァさんの帰還は順番が大事なのである。
まるで羊と狼の問題のように。
運営さんは強制退出のために、アルテヴァさんの方へ手をかざす。
瞬間、アルテヴァさんは運営さんの顔面をぶん殴った!
「アルテヴァさーん!?」
「攻撃してきそうだったんだもん! ママ悪くないわ!」
「一緒に外の世界に出られるかどうか試してるんですよ。上手くいけば、一緒に行けます」
「あら、そういうこと? へぇー、確かにそれはアンジェラちゃんと一緒にいられるし悪くないわね。この世界もいい加減限界だと思っていたし、渡りに船ではある……のだけど、罠の可能性もあるのよねぇ。うーん、まあ、その時は巻き戻しましょうか」
咄嗟の警戒で運営さんを殴りつけたアルテヴァさんだったけれど、意外にも世界からの脱出に関しては乗り気だった。
私と一緒にいられるのなら、何でも良いらしい。
ただ、巻き戻せるかどうかは怪しいところなのだけど……。
そして殴られた運営さんは平然と手をかざし続けていた。
やはり運営サイドはダメージを喰らうことがないご様子で、淡々と作業を継続している。
そしてその時はきた。
「強制退出、オン」
運営さんの声が響くと、アルテヴァさんの姿は……忽然と消えていた。




