第33話 姉は驚く
「すっごい変な場所ね!」
「ちゃんと付いてこれたんですねアルテヴァさん」
隣で不思議な空間を、興味深そうにキョロキョロと眺めているアルテヴァさん。
この場所はプレイヤーや運営しか来れないのではないかと思っていたので、アルテヴァさんが付いて来れたのは驚きであり、納得でもあった。
やっぱりプレイヤーサイドの人間なのでは……?
「あら、よく見たらこの世界は停止していないのね。ほら、雲が動いているわ!」
「はい、それを期待してここに来たようなところあります……やっぱり仕組みが違うのかもしれません」
「ええっと、ここが神々の本拠地なのよね?」
「いえ、重要な場所だとは思いますが、本拠地では……ロビーとかチュートリアルのための場所みたいな感じです」
「相変わらずよく分からないわ!!!! つまり、ママはどうすればいいの!?」
チュートリアルという言葉がアルテヴァさんに通じるわけもなく、ただただ混乱させるばかりだった。
私もまだ方針を決めかねているのだけど、とりあえず、ここに来た理由を話さなければ。
「まず、元の世界は運営が手出しするのが難しいんです……その、アルテヴァさんのせいで」
「私の? 確かに神々を排除するために結界を張ったりしたけれど、あんなの効果あるわけないわよね?」
「絶対それのせいです。それで、この場所なら運営もやってこれるのではないかと思って」
ここは世界の外側と内側の境界のような場所だと私は思っている。
つまり、基本の世界とは隔絶されているはずで、むしろ運営の領域のはず。
それは世界の停止が及んでないことで、確信を深めた。
なら、ここに来れば運営さんにも会える……はず!
それにしても、アルテヴァさんは殆ど無意識のうちにあの世界を運営の手から切り離していたらしい。
いや、どうやって……?
そんな疑問が頭をよぎるけれど、それを遮るように、前方に何者かが現れた。
それは天使だった。
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる少女は、夢で見た天使その人で、相変わらずの無機質な笑顔を頬にたたえたままに、口を開く。
「小鳥遊様、ゲームクリアおめでとうございます」
天使は私の顔じっと見て、そんなことを言うけれど、た、小鳥遊様!?
「小鳥遊様? ……アンジェラちゃん、たかなしっていうの?」
「わ、私、小鳥遊姓なんですか!?」
小鳥遊といえば現実ではまるで見かけないが、創作ではありきたりというフィクション御用達の名字である。
小鳥が遊ぶのは鷹がいないから……よってたかなしと読むのだけど、難読名字もいいところで、本当に実在するのがむしろ驚きの部類。
私、そんなレアな名字だったの!?
……いや、そっちよりもゲームクリアに驚くべきだとは思うんだけど、あまりにも衝撃的な名字だったものでつい!
「楽しいゲーム体験をご提供出来たのなら幸いです」
「ちょ、ちょっと待って、クリアしたの!?」
「はい、おめでとうございます」
ど、どういうことなのか全く分からないけれど、私はゲームクリアしたらしい。
やったー!?
やったー?
いやいやいや、目的はゲームクリアじゃないから!
「えーい! ママパンチ!」
よく分からない事態に頭を悩ませてると、アルテヴァさんが突発的に天使に殴りかかった。
ただでさえ意味不明な状況なのにこれ以上混乱させてくるとはさすが魔界神というところか。
アルテヴァさんの拳は黒いオーラを纏い天使の顔面に直撃するけれど……天使は気にも留めずに笑顔のままで立っている。
まるで、そもそもダメージを受けることなど世界に想定されていないかのように。
「やっぱり神々と同じように効かないのね」
「急に殴りかかるのはやめてください……心臓に悪いです!」
「一応、やっておかないと分からないと思ったの」
「それはそうかもですが」
確かに攻撃してみないとこの天使が運営と同じ立場の存在なのかは分からないし、運営になりすました何者かの可能性もゼロではないので、一理あるのだけど、あまりにも突然すぎる!
「ゲームから退室する場合は、再度私に話しかけてください」
天使は先程の出来事などなかったかのように、話を続ける。
この場合の退室とはもちろんこの世界からの脱出のことだろう。
なんと運営の手を借りずにこの世界から脱出することに成功してしまった。
ただし、当然の話として、このまま全てを忘れて外に出て行くわけにはいかない。
そもそも、横には脱出大反対派のアルテヴァさんがいるのだから、やりたくても無理なのだけど。
さて、ここからどうしたものか……。
天使はどうにも運営というよりNPCのような感じがするので、彼女と話していても仕方がない。
まだ時間もあまり立っていないし、運営さんがこちらに気付くまで待つべきかな?
「おまたせしましたー! 運営の者です!」
どうするべきか悩んでいると、当初の予定通りに、運営さんが現れる。
それは鬼ヶ島で世界が停止した時に現れた運営さんと全く同じ容姿のお姉さんだった。
「いやぁ、世界がフリーズしてるのに手出しできなくて困っていたのですが、まさかプレイヤー様の方から来ていただけるとは驚きました! ほんとうにありがとうござい……あれ、な、ナナコちゃん、ですよね!?」
元気よく現れた運営さんは私に頭を下げる……と思いきや、横にいるアルテヴァさんを見て驚いたような声をあげた。
ナナコちゃんって……アルテヴァさんのこと?




