第30話 姉は幼くなる
「それでアンジェラちゃんここに何の用があるの?」
「あっ、はい! えっと、この成長させる装置、私にも使えたら便利だと思ったんです」
「……すごい発想してるわね!?」
「えっ!? そ、そうですか?」
アルテヴァさんの驚く顔を見て、私は自分の言っていることのおかしさに気付く。
そうだよね! こんな変な装置使おうなんて思わないよね普通!
い、妹に毒されて考え方が異常な方へ異常な方へ進むようになっちゃってるかも!?
ヤバいことに、ゲームの裏をかこうとする妹の思考パターンの影響を受けて、私の中にもそんな裏技精神が根付いてしまったようだ。
完全に悪影響だと言えるけれど、今だけは世界を救うためにそれをありがたがるとしよう。
「それができたらスーパーアンジェラちゃんを気軽に生み出せるってわけね!」
「ただどうやら装置は動かないようです。静止しているので当たり前なのですが……」
「この液体に浸かるだけで何とかならないかしら?」
「微妙にあり得そうですね」
「試してみるわ!」
アルテヴァさんは砕けて生まれたガラスの筒の穴に手を突っ込むと、躊躇なくその液体に触れる。
まだ安全性も確認されてない状態でこの行動力はさすがの魔界神。
弱くなっても、強者の余裕に溢れている。
「あら、これは……」
アルテヴァさんは困惑したような声と共に、液体に浸けていた自分の細い腕を取り出す。
そこには奇妙な光景が広がっていた。
小さなアルテヴァさんのおててが更に縮んでいたのだ。
あれ!? 促進されてないどころか幼くなってる!?
「ぎゃ、逆に!?」
「でも、人間が考える夢って永遠の若さだから、こちらの方が自然ではあるわ」
「それは確かにそうですが……」
言われてみればこの液体とこの装置、私は勝手に成長促進のようなものだと思ってしまっていた。
それはベルンちゃんの容姿からの連想であり、ここからあの液体の中で急速に大人になるものだとばかり考えてたのだけど……まさかの逆。
これは一体、どういうことなのだろう。
「……そうか、ベルンカステットは伝説の魔術師、そもそも生きている方が不思議なくらい高齢なはずだから、若返るのは絶対なのね」
もう当たり前の様に受け入れてしまっていたけど、そう、人間がそれほど長命なわけがない。
ここはゲームの世界だけど、そのへんの設定が凝っていると考えると、どうやらこの世界の創作者は相当な凝り性のようだ。
しかし、困ったことになったかもしれない。
これでは成長して強くなろう作戦を果たせない……いや、でも、この若返り液、結構使えるのでは?
私の中に一つのひらめきが生まれる。
ただ、それはかなり恐ろしいものだった。
「ママの考えとしてはねぇ……若返る液体を作れるなら、成長促進の液体も作れると思うわ。その二つを調整することで、ちょうど良い年齢を作り出すんじゃないかしら?」
アルテヴァさんは小さくなった手をぶんぶんと振る。
すると、その手は少しずつ大きくなり、すっかり元の大きさに戻ってしまった。
弱体化しようとも魔界神は魔界神、身体の異常の回復くらいはお手の物のようだった。
まあ、それでも小さな手に変わりはないのだけど。
「では、この装置はその液体の調整のためのものということですか」
「つーまーりー、この辺のタンクみたいなのに成長促進の薬は入ってるから、それを利用すれば当初の目的達成ということね?」
「そうなんですけど……」
ガラスの筒が置かれた謎の装置、そこにはタンクのようなものが併設されていて、アルテヴァさんの考えが正しいならそこにはこの若返りの液体が入っているはずだ。
けれど、私はその時、別のことを考えていた。
「何を悩んでいるの? ママに話してみて? 気休め程度のアドヴァイスならできるわよ?」
「いえ、あの、むしろ、若返りの方を使いたいなと思ってまして」
考えすぎて気が緩んでいたのか、スルッと私はそんなことを口にしてしまう。
すると、アルテヴァさんの目がもう爛々と輝き始めてしまった。
「ええっ!? こ、子供アンジェラちゃんを爆誕するの!? わ、私は嬉しさスーパーマックスだけど、頑張って育てるって誓うけど、どうしてそんな結論になっちゃったの!? もう全部を忘れて子供になりたくなっちゃった? いいえ、子供になりたくなる気持ちは誰にでもあるもの! 仕方のないことだとママは思うわ! そんな時のために私が! ママがいるのだものね! ええ! 子供になりましょうアンジェラちゃん! 今すぐに! この場で!」




