第28話 姉は移動する
プレイヤー、つまり、この世界の外からやってきた人のこと。
運営さん曰く体感型ゲームの参加者。
またの名を転生者と呼んでも良いかもしれない。
この停止した世界で動けるアルテヴァさんはその疑いがかなり強まっていた。
アルテヴァさんには全くその自覚はないようだけど、私が記憶喪失になっているように、アルテヴァさんも何らかの記憶障害に陥っていてもおかしくはないと思う。
ただ運営さんは私が最後の一人だとも言っていたので、そこは反証材料ではあるかも……。
運営さんがどこまで優秀か、そしてどこまで信頼できるかだなぁ。
個人的には優しいお姉さんだし、信用したいのだけど。
「まあ、魔界神だからじゃないかしら」
悩む私に対してアルテヴァさんも出した答えは底抜けに簡単なものだった。
魔界神は何でもありの免罪符じゃないんですよ!?
「ば、万能なんですね?」
「万能超えて全能かも? 我ながら超すごいのよねぇ……それでも、うんえー?相手には勝てないのはムカつく話なのだけど! でも、アンジェラちゃんが神々の正体を突き止めてくれたおかげで希望は見えてきたわ! さすがね!」
「相手からやってきたんですけどね……えっと、アルテヴァさんはもしも運営さんに勝てなくて私が消えてしまったらどうしますか?」
「え? 世界を滅ぼすわよ?」
そんなさも当然のように世界を滅ぼそうとされると反応に困ってしまう……。
一応、一縷の望みで確認してみたけれど、やっぱりアルテヴァさんは超危険な存在のようだ。
これで完全にルートは見えてきた。
一、魔界神アルテヴァが世界を滅ぼすエンド。
二、運営さんが私をこの世界から脱出させ、世界が滅びるエンド。
三、妹と私で諸々何とかするエンド。
この三つだ。
なんと一、二どちらでも世界は滅びるという結論になっている!
もちろんどちらも選択するわけにはいかないので、感情を抜きにしてもやはり私は妹と共に頑張るほかないようだった。
「世界は滅びない方向で頑張りたいと思います!」
「なら、神々を倒す方法を考えないといけないわね……修行頑張るのよね? 大丈夫? キツくない?」
「これからはアルテヴァさんとも話せますし、いくらか気が楽です」
そう、停止した世界での修行で一番の敵は孤独である。
魔王城最上部で飛行の練習に励んでいた時は、魔王に一方的に話しかけることで、私は孤独を癒したものだった。
ただ、見た目が普通のおじさんなのが辛いところだったけれど。
その点、アルテヴァさんは世界を滅ぼす脅威だけど、現在、見た目は子供であり、その癒しパワーはとてつもない!
しかも中身はママなので、そのギャップがまた心を安らかにさせる。
アルテヴァさんは世界の敵みたいな人なのに、今は不思議と癒しのために生まれたような存在となっていた。
可愛いもの好きな私としては、横にいてくれるだけで、修行が捗って捗って仕方がない予感がする!
「魔界神パワーで色々手助けしちゃうから任せてちょうだい! 魔物とか生み出せるわよ」
腕まくりをしてとんでもないことを言い出すアルテヴァさんは、見た目が変わっても、やっぱり悪な人だった。
「生み出せちゃうんですね」
「それをバンバン倒してレベル上げするというのはどう?」
「すっごいマッチポンプですがいいアイデアです! ただ、停止した世界で倒せるんですかね?」
「そこはやってみないと分からないわ! とりあえずこんな殺風景で寒い場所、さっさとおさらばしちゃいましょう」
アルテヴァさんは自分が封印されていた神殿を殺風景呼ばわりすると、私をじっと見つめて、パチンと指を鳴らす。
一瞬、暗くなる視界。
やがてゆっくりと明るい光が目に入ってくる。
気付けば私は森の中にいた。
しゅ、瞬間移動! こんな幼い姿でもできるんだ!?
「弱くなっても瞬間移動はできるんですか!?」
「これくらいは初歩よ。アンジェラちゃんも出来る様になるわ!」
「これが初歩なんてことありえない気が……」
驚きのあまり口では否定してしまったけれど、でも、確かにゲーム的に言えば移動魔法はプレイヤーのストレス軽減で早々に覚える印象はある。
そういう意味では初歩の初歩なのかな……?
それに幼いベルンちゃんも当然のように覚えていたので、もしかすると闇系の魔術師的には当たり前の魔法なのかもしれなった。
「瞬間移動、覚えたくない?」
「覚えられるなら覚えたいです」
「ならママが優しく手取り足取り杖取り教えてあげるわぁ! アンジェラちゃんは私の娘だし、きっと簡単に出来る様になっちゃうわよ!」
娘ではないのでそう簡単には出来ないと思いますよ……。
なんてことを思っていたのに一週間後。
私は海の上にいた。
★
「鬼ヶ島へ」
パッと視界が切り替わると、目の前にはツノを生やした面白い形の島が現れる。
近くに浮かぶ船には、ツバキ丸ちゃんたちとキュキュさん、ベルンちゃん、そして妹がいるはずで、なんだかそれも遠い昔のように感じられた。
「森へ」
名残惜しい気持ちに後ろ髪を引かれながら、そう呟くと、今度は緑豊かな森の中に私は移動していた。
そう、私、瞬間移動……体得しちゃいました。
「わー! やっぱりさすがだわアンジェラちゃん! こんな短期間で瞬間移動を覚えるなんて!」
「我ながらびっくりです」
「娘! これ私の娘です!」
誰もいない世界で娘自慢を始めるアルテヴァさんは、ちっちゃい体でぴょこぴょこ飛び跳ねて、超可愛い。
魔界神でさえなければなぁ……。
そして、娘ではないのだけど、どうやら私は闇系魔法の覚えが早いらしいことがこの一週間で分かった。
多分、超レアだという悪魂のせいだろう。
もしくは、アルテヴァさんが滅茶苦茶ものを教えるのが上手いのか。
「この調子なら私の知ってる魔法は全部教えられるかも! いやー、娘が天才児なんて、ママ困っちゃうわ!」
自分の娘が才能を見せるので、アルテヴァママ、大興奮である。
しかも、私としても私がどんどん強くなるのは目的通りというか、願ってもないことなので、断る理由がない。
私はアルテヴァさんから魔法を教わり続けることにした。
妹でも絶対に予測できない形ではあるだろうけれど、なんと魔界神を先生にして私の修行は順調に進んでいく。
果たしていずれ最強になれるのだろうか……。




