第24話 妹はまた始める
ガゼボ、それは庭園に置かれた休息や展望を目的にしたひらけた建造物のこと。
日本風に言うならあずまや。
久しぶりなこの光景に、私はどこか安心感を覚える。
そう、ここは私ことアンジェラ・アスキューの実家。
寮生活を始めていた私には久々の帰省となる。
帰ってきたのは、場所ではなく時間なのだけど。
しかも、二ヶ月ぶり程度なのでさほど久々でもない。
「お姉様! 記憶の方どうですか!」
1度落ち着いてティーを口に含んでいると、妹が騒がしく、慌ただしく、煩く、庭園に姿を表す。
妹としては私の記憶の有無が最も気になるところらしい。
残ってないと全部やり直しで面倒だもんね。
「大丈夫よハナ、ちゃんと記憶は残ってるわ」
「ではツバキ丸ちゃんの数は?」
「32匹ね」
「匹ではないですがまあいいでしょう! 良かったですお姉様!」
腰に抱きつこうとしてくる妹の頭を片手で掴んで制しつつ、同時に頭も撫でてあげると、妹は「ぐべへっへ」と淑女としてあり得ない笑みを溢す。
ループ直後で不安なのも分かるので、まあ、いいんだけどね。
それにしてもこうして触れることで実感できるけれど、今の妹にはまるで力がない。
必死に努力して積み上げた能力は、ループによってまた元に戻ってしまったらしかった。
こうして改めて見てみると不憫すぎるな……。
「また貧弱になっちゃったわね」
「いいんです! もう私自身の強さは必要ありません! 今大事なのは知識と人脈……なのですが、困ったことがあるんですよね」
「アルテヴァさんが最後に言ってたことね?」
アルテヴァさんはループ前にとんでもないことを言っていた。
こちらの計画が全崩れしかねない恐ろしい話だ。
「そうです。まさか自力で復活しようとするとは」
「実際、可能なの?」
「……可能なのだと思います。前に言った通り、あくまで強い力を手にした上で復活するための生贄を探しているに過ぎませんから、弱々しくてもいいなら、恐らくいつでも復活できるのではないかと」
魔王を倒すとアルテヴァさんが復活するのは、自動的に魔王の魂をアルテヴァさんに捧げるからだという。
そしてその魔王が私の魂を求めていたのも、私の強大な魂で、魔界神を超強力に復活させるためだ。
逆に言うと、強さを求めなければ何でも復活はできるということ。
「まあ、でも、弱いならある程度大丈夫じゃない?」
「未知数すぎるんですよね……悩んでいても仕方ないので、とりあえず計画を続行します」
「また経験値アップアイテムを手に入れるためにフェンリューを倒す必要があるのね……」
「ああ、それはもういいです。先程言ったようにもう強さは必要ありません」
10ループ目では最短手順で強くなろうとしていた妹だけど、今回はもうそれすら必要とはしないらしい。
言われてみれば当然なところもある。
何故なら、運営や魔界神と言ったメンツはどう考えても、力で打倒できる領域を超えているからだ。
あれはもう存在が強い。
レベル上げで相手にできるものでは到底ないだろう。
「まずはツバキ丸ちゃんを拾いに行きます! 最重要アイテムだと言うことが分かりましたからね」
「匹扱いする私が言うのもなんだけど、アイテムではないわよ」
それにしても一時期はもう強引に盾として使われていたツバキ丸ちゃんがこんな重要なキャラになるだなんて。
成長したなぁ……。
いや、成長はしてない?
したのは増殖だけど……ううん、ツバキ丸ちゃんも頑張ってたしきっと成長もしている!
「それでは森にレッツゴーです!」
★
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おお! やっときたでござるか!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
森にツバキ丸ちゃんを迎えに行った私たちが見つけたのは……大樹にもたれ掛かる32人のツバキ丸ちゃんだった!
もう増えている!?
「11ループ目はおかしな世界になると聞いてましたが、これもその一部かもしれません……あと、記憶を継続するように言ったからかもですね」
「記憶が関係するの?」
「巻き戻って1人だと32人分の記憶が大変なことになるので」
「なるほど!」
元が32人なのに、戻った先が1人だと記憶の在処が謎になる。
そんな問題を32人丸ごと残すことで解決したのだろうか。
……いや、理屈としておかしいような。
でも、ツバキ丸ちゃんはずっと色々おかしいからそんなもの?
そもそも最初からツバキ丸ちゃん増殖に関しては常識が通用していない。
明らかに仕様外の出来事で、バグという他ないだろう。
そんなバグが、記憶を保った巻き戻しという特殊な事態によって、さらにおかしなことになった感じだろうか。
思えば運営さんも停止の解決策として、ツバキ丸ちゃんを1人に戻すという単純な作業は行わなかった。
あれもツバキ丸ちゃんそれぞれの意思を尊重したものであるなら、この世界は意思を奪うことに関する制限のようなものが掛かっているのかもしれなかった。
「とりあえず1人1人にご飯をあげていきましょうか……」
「そのうち多頭飼育崩壊を起こしそうね」
私と妹はツバキ丸ちゃんの口に、持ってきていた食料を分け与えてく。
まるで鳥の嘴に餌を運ぶ母鳥の気分だ。
「この後はそのまま魔界に行きたいところですが……キュキュさんやベルンちゃんがこちらにくるかもしれません。今日はここで一泊するとしましょう」
「ベルンちゃんは来れるかしら? ちょっと不安だけど……はいご飯」
「美味しくない。ママ、プリン」
「ごめんね今はプリン持ってなくて……あれベルンちゃん!?」
流れ作業的にツバキ丸ちゃんにあーんをしていると、明らかにツバキ丸ちゃんではない子がそこには混じっていた。
ベルンちゃんがしれっと輪に加わり、もぐもぐと食料を食べている。
い、いつのまに……。
「ここは学園からほど近い場所ですからね。あと、ここに泊まるのはもう1つ理由があるのですが……それは明日に」
意味深なことを言い残すと、妹はさっさとテントの準備を始める。
今日はこの森の中で一晩を過ごすことになりそうだ。
しかし、理由って一体……?
★
朝目覚めた瞬間に、私はその理由を思い知った。
ツバキ丸ちゃんが32人から……64人に増えていたからである。
「倍に!?」
「こうなると思ってました……ほら、お姉様、ツバキ丸ちゃんはおにぎり以外のものを食べて救われることで増えるんですよ。それで、私たちは32人分にそれをしましたから」
妹の説明で私は気付かされた。
ツバキ丸ちゃんは1日の経過により助けた数X人分で増える。
今までは1人を助けていたので、1+1という計算だったのだけど、今回は32人だったので、32+32で64人に……。
「これは使えるかもしれませんねふっふっふ」
妹が悪い顔で笑い始める。
11ループ目の世界はどうやら私が思う以上にカオスなことになりそうだった。




