第23話 妹は戻る
「き、きゃー、たすけてー」
宝物庫から外へ出て、荒れ果てた地面が続く鬼ヶ島、そこに1つの下手くそな叫び声が響く。
何を隠そう私の声です……。
魔界神にスムーズな流れで時を戻してもらうために、多分ちょっとすごい見た目のはずの運営さんの前で、私は地面に倒れ伏す。
いつメンもだいたい同じように倒れているのだけど、ツバキ丸ちゃんに限っては妹によって山のように積み重ねられ、文字通りの人の山になりうめき声をあげている。
あの姿を演技だと思う人はいないだろうな……だって、演技じゃないもの。
こんな三文芝居を通り越して、二文一文なお遊戯会で、本当に魔界神アルテヴァさんが来るのか不安だったけれど、それは完全に杞憂だった。
私の微妙な声が響いた瞬間、雲は割れ、空は裂かれ、そこから巨大な手が伸びてくる。
アルテヴァさんの手だ!
運営さんの元に落下してくるその大腕は拳を作っており、最初から殺意満々だった。
しかし、接触寸前に中空で弾かれ、運営さんへのダメージには至らない。
運営さん、強い!
ほとんど世界最強だと思われていた魔界神より単純な戦闘力ならもしかして上?
というか、妹の攻撃もまるで通じていなかったところを見るに、そういう設定がなされているのかもしれない。
キャラクターからダメージは受けない運営特権、そんな感じのものがあるのかも。
世界の制御という意味では運営さんは後手を取っているが、こうして殴り合う分には運営さんが上という図式こそが10ループという膠着状態を作り出したのかも知れなかった。
もちろん、攻撃が通じなかったからといって大人しく身を引く魔界神ではない。
直接攻撃は効かないと見るや、アルテヴァさんは島を掴むと、それを思いっきり揺らす。
まるで地震のような大揺れに、運営のお姉さんは少しバランスを崩す。
「きゃっ!? そ、そういう干渉はやめてください!」
思わず叫ぶ運営さんの声を聞きながら、私も地面を抱き締めるように揺れに耐えていると、目の前に1人の女性が現れる。
当然、それは魔界神アルテヴァさんの小型形態だ。
2mくらいあるからまるで小型ではないけれども。
「アンジェラちゃん大丈夫!?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「一回逃げるわよ!」
言うや否や、私の視界はぐにゃりと歪む。
そして気がつくと……海に囲まれた鬼ヶ島から移動して、空が近い場所に私はいた。
周囲には不気味な石像が破壊されて鎮座している。
ここはそう、おそらく魔王城最上部。
キュキュさんの父親こと魔王と戦いを繰り広げた場所だ。
私以外の人たちもきちんと連れてきたようで、お尻を痛めたのかキュキュさんがお尻をさすっていたり、ツバキ丸ちゃんの山が今にも崩れそうになっていたり、妹が一つ安心したように胸を撫で下ろしていたりした。
とりあえず第一フェイズは成功したらしい。
けれど、むしろ本番はここからだ。
交渉が成功しないと、魔界神が封印されていた時期まで戻せない。
「危ないところだったわ……思ったより早く神に発見されてしまったのね」
「はい、そうなんです」
「活発に行動したのが裏目に出てしまいました……しかし、神々に対する情報は得ましたよ! 撃退も可能だと思います!」
「ハナ、それは本当!?」
「はい! ですが今回のループでは、もう目を付けられてどうしようもないので、もう一度時間を戻す必要はありますね」
妹はとんでもなく饒舌に、そして狡猾にアルテヴァさんを欺いていく。
細かく見れば嘘を言ってはいないところも恐ろしいところだった。
我が妹ながら、詐欺師の才能に溢れている。
「なるほどね……ううん、戻すのは良いのだけど、次のループはかなりの無茶をしたものになる可能性があるわ」
「無理とは?」
「例えばそうね……そこの子がいっぱい増えているけれど、あんなことが起きやすくなるかも」
「それはたしかにかなりの無茶かも!?」
11ループ目の世界はとんでもなく混沌としたものになりそうな気配を見せている。
ツバキ丸ちゃんみたいなのがいっぱいだともうヤバすぎるよ。
ゲームのデータをいじりすぎて、色々と無茶が生じている状態なのかもしれない。
だとすれば、確かにこれ以上のループを危険と考えるアルテヴァさんの考えも分かろうというものだった。
「構いません! 神を倒すためには必要なことです!」
「そうよね……分かったわ。戻しましょう」
交渉は思いの外あっさりと成功した。
まあ、十分な手立てがないまま神々に見つかってしまった時点で手遅れというのは、神の強さを知っている者からすれば共通認識なのかもしれない。
そう、アルテヴァさんも妹も同じループを生きているはずなので、その考え方は似ている。
それに、私第一というところも……。
「次のループでは妹以外にも記憶を保持する人間を増やしましょう。どうせ次が最後ですから、全力で行かないとです!」
「なら、ここにいる全員の記憶はそのままに時を戻すわ。あと、一つ気をつけて欲しいのは、時を戻せば当然私が封印された状態になるということね」
「すぐに復活させに行くのでご安心を!」
「……ううん、神々に単純な力では敵わない私が復活しても仕方ないと先程思い知ったわ。だから、次のループでは自力で復活するとするわ!」
「はい!? えっ、自力でですか!?」
「ええ、やろうと思えば、ママ、それくらいはできるのよ! ただ、ちょっと弱くなっちゃうだけで」
「……これは、予想外です」
魔界神アルテヴァさんの驚愕発言によって、妹は一瞬厳しい顔付きになり、小声で私にそう囁く。
当初の予定ではアルテヴァさんが復活する前に会いに行って、交渉次第でどうなるかという話だったのだけど、その計画は今、完全に潰えた!
自力で復活するって言ってるんだもん!
封印キャラが自力でなんとかするなんてそんなのあり!?
「じゃあ、戻すわよー! 次こそ打倒がんばりましょうねー!」
「あっ、いや! ちょっと!?」
私の制止する声も無視してアルテヴァさんは頭上に手を掲げる。
すると、輝く巨大な時計が浮かび上がり、同時にガコンと大きな音が世界に鳴り響いた。
こ、これが世界の時を巻き戻していた方法!
瞬発的にできるものではないことが分かる。
だったら、速攻で倒せばもしかすると……。
すると……。
ると……。
★
こうして11ループ目が開始された。
ガゼボの下で私は目覚める。




