第25話 妹は強欲
「ここからは64×Xで増えていくわけですから、あと一ヶ月ちょいやれば1000人のツバキ丸ちゃんが量産可能ですね」
「量産しようとしないで?」
「1000人の味方がつくのはかなりの戦力だと思うのですが、まあ、今は兵糧が足りませんか……それに時間もありません」
時間と食料さえあれば量産することに迷いはない様子の妹。
倫理観という言葉はもはやそこにはなかった。
「ぉはよー! お姉さんようやく見つけた! 魔界からここまでマジ大変だった……なんかツバキ丸多くない!?」
「元々多かったんだけどね?」
空からパタパタと降りてくるのはピンク色の子はサキュバスのキュキュさんである。
ツバキ丸ちゃんの大増殖に驚いている姿は常識が感じられて、大変に癒される。
そうそう、こう言うのでいいのよこう言うので。
さて、当初の目的通り、パーティが集合することには成功した。
全員記憶も保持しているし、ここまでは順調……だと思う。
ツバキ丸ちゃんは増えちゃったけれど、それもまあ、平常運転といえば平常運転だし……。
「キュキュさん魔界の方は何かおかしなことはありませんでしたか?」
「うちのクソ親父が生きてたくらいかな」
「それは時が戻ったので当然です! 問題は魔界神の動向ですよ」
「変なことはなかったと思うけど。うーん、ビミョー! よくわかんないかも」
「いえ、分かりやすく何か起こらなかったならいいのです。もう復活していたのなら、魔王も大騒ぎしてそうなものです。自力で復活するとは言ってましたが、どうやら1日やそこらでは無理なようですね」
いつでも脱出できると思われる封印だけれど、さすがにそれでは封印の意味はない。
自力という手段を用いる場合、時間はそれ相応にかかるらしい。
であれば、今からすぐに魔王城の上空にあるという魔界神封印の場に行けば、ツボの状態で出会えるかもしれない。
ツボ状態の魔界神は無力であり、外への干渉は最低限のはず。
それまでに対応が間に合えば魔界神の無力化は可能なのでは?
「それで拙者たちは……この拙者たちというのはツバキ丸ら64人という意味ではなく、この場にいるパーティメンバーという意味なのでござるが」
「分かってる! 分かってるわよツバキ丸ちゃん!」
「拙者たちはこれからどうすればいいでござるか?」
「そうですね……何故か前より多い形で全員揃いましたしたが。これくらいの想定外はむしろプラスですね。では、これからの流れを説明しますか」
ツバキ丸ちゃんの増殖をプラス要素と捉えるのはさすがに妹くらいだと思うけれど、これからも想定外のことは起こり続けるだろうし、それくらいの心持ちで動く必要はあるのかもしれない。
ポジティブに頑張っていかなければ。
「時間を戻させたのは二つの意味があります。まず一つは魔界神を封印の状態に戻すこと、これは言ってましたよね」
「復活してる魔界神はマジ強すぎてムリって話でしょ?」
「しかし、もう一つというのはなんでござるか?」
「もう一つはですね、神々、運営側の記憶を消すためです」
「えっ、それも目的なの!?」
魔界神の時間巻き戻しは魔界神が記憶を残すと決めた者以外の、このゲーム世界にいるもの全てに通用する。
それは運営でも例外はなく、だからこそ運営も手こずっているという話なのだけど……妹がそれを狙っていたとは。
「運営もそれは当然分かっていましたが、あちらに魔界神を倒す手段がない以上、私たちと協力するしかありませんでした。一応、同じ手順で運営を呼び出し事情を説明する約束ですが……これは無視することもできるわけです」
「やっぱりハナ的には運営さんも敵なのね……」
「当然! これはお姉様をめぐる三つ巴の戦いなのです!」
拳を固め虚空に向かってジャブを繰り返す妹。
戦意に溢れている……。
いつのまにか事態は三国志の様相を呈していたらしい。
私を元の世界に戻そうとする運営派閥、この世界に留めてずっと一緒にいたい妹派閥、時間を巻き戻し、最悪、世界を破壊して私と死のうとも考える魔界神派閥。
……うん、こうしてみると明らかに運営に正義があるよね!
まあ、運営さんの言ってることが真実とすればという注意事項はあるけれど。
「そしてこの三つ巴で最も協力すべきなのは……魔界神なんですよね」
「そうなっちゃう?」
「なっちゃいます! ただ今のパワーバランスは妹が圧倒的に弱いので、運営と魔界神をぶつけて力を削ぎたいのが本音です」
「それで記憶を消したと」
「というより、同じ行動をさせたかったんです。外の世界とやらがどの程度、この世界に干渉できるかは私には謎なのですが、当人の記憶がなければ、ループによって相手の行動がほぼ読めます。これは私の最大の武器です!」
相手の行動を知ること、これからの事象を知ること、それは妹にとって日常であり、何度となく繰り返し、手に入れてきた武器だ。
ループし続けることで知見を広げ続けた妹にとって、ループを増やすことはそれだけプラスなのかもしれない。
もちろん、早くこの輪廻から抜け出したいだろうけれど。
「そして肝心要の作戦ですが……その前に、お姉様、ツバキ丸ちゃんに向かってムラマサブレードが飛んでった時、あれで運営がやって来たんですよね? それってどんな様子でした?」
「えっとね……」
私は時間が停止した後のことを妹に話す。
突如、四角い何かが現れたことを、そしてその後、お姉さんがやってきたことを。
そして何かの処理を行い、時間を巻き戻したことを。
「時間も巻き戻せるんですか! いや、元々は運営側の力という話でしたものね。でも、エラー中じゃないと出来ないとか制限はありそうです。そもそもエラー中じゃないと、気軽に姿を表すことも出来ないのでしたか? ということは、運営と言う名の神々がある程度時間をかけてからやってくるのにも理由があったんですね……やっぱり作戦は……のままやれば……中に……で……はい、作戦は可能そうです」
妹は超絶早口で自分に言い聞かせるように呟くと、最後に私に方を見て、作戦を成否の判断を告げた。
答えは成。
つまり可能。
それは喜ばしいことのはずなのに、妹の顔は曇っていた。
気がかりなことでもあるのだろうか。
「……お姉様、お姉様はこの世界にとどまりたいですか?」
「えっ!? きゅ、急にどうしたの」
「この作戦にはお姉様の協力が必須でして……お姉様はお優しいから私の言うことを流されるままに聞いちゃいますが、最終段階で判断を翻されても困ります」
こちらの意思など気にせずに、絶対に私と一生にいると言うのが妹の考えだと思っていたので、その問いかけは驚きだった。
作戦に関わることなので聞いた風だけれど、実は妹としても、私の思考は気になるところだったのかもしれない。
この難しい問いに私の答えは……曖昧に答えた。
「ハナと一緒にいたいけれど、元の世界というのが気がかりなのも事実ね」
「優柔不断ですお姉様!」
「貴女ほど思い切りは良くないの……だから、私のことなんて気にせず、ハナの好きなようにやればいいわ。ここまで頑張ってきたのはハナだもの」
情けない限りなあやふやな私の回答に妹は怒るけれど、悲しいかなこれが私なのだ。
それに、一番大事なのはいつだって妹の意思だと私は思っている。
だって、私のために11ループもしてくれた妹だ。
今更、その努力を無駄にしようとは思わない。
「困ったお姉様ですよまったく! ですが、いいでしょう! 妹も欲張りなので、両方で行きます」
「両方?」
「はい! お姉様に嫌われつつお姉様と共にいる選択肢もありましたが、ここは強欲に、お姉様に慕われつつお姉様と共に生きようと思います!」




