第20話 妹は驚く
「ではツバキ丸ちゃん一同、お入りください!」
「ヤバい予感しかせんでござるよ」
「拙者、ムラマサは持ち主を不幸にする刀と聞いた覚えが……」
「それは大量生産の結果、頭のおかしい奴も村正を使う確率が高かっただけでござるよ!」
「そうそう、人気商品故の僻みというやつでござるな」
ガヤガヤとした音が戻ってきたことに多大な安心感を覚えつつ、状況を確認するためにキョロキョロ周囲を見渡す。
場所は宝物庫、そしてこの聞き覚えのあるこの会話数分前に聞いたばかりで……本当に時が巻き戻っている!
でも、このまま行くともう一度停止することになるのでは。
無限ループになりかねないのだけど!?
「ちょ、ちょっと入るのストップ!」
私は慌ててツバキ丸ちゃんを止めに入るけれど、時既に遅く、ツバキ丸ちゃん一同は宝物庫に足を踏み入れ、小判や鎧などを繁々と眺めているところだった。
「えっ、急にどうしたでござるかアンジェラどぎゃあああああああああああ!」
「ああ!? ツバキっちが斬られた!?」
「ぎゃあああああああああああ!」
「しかも続け様に他のツバキ丸ちゃんも次々と斬られてますね……」
「あっ、と、止まらなかった……?」
前回と同じように世界が停止するかと思いきや、今度はただツバキ丸ちゃんがムラマサによってザクザク斬られまくるだけだった。
……いや、切られまくってるのをだけって表現するの鬼畜すぎるけどさ!
しかし、その光景に安心したのも事実。
どうやらお姉さんがイベントに手を加えたお陰で、処理できずに停止という最悪の事態は防がれたらしい。
「はい、これで大丈夫ですね!」
「ぎゃー!?」
ぽんっと肩に手を置かれ猫のように驚き振り返ると、そこには先程のお姉さんがいた。
「ま、まだいたんですか!?」
「貴女の件がありますから」
私の横で汗を拭い、一仕事終えたような気持ちの良い笑顔を見せているお姉さん。
勝手に去ったと思っていたら、ずっと横にいたらしい。
「お姉様! 伏せて!」
「えっ! えっ!?」
妹は常に即断即決。
のほほんとしたお姉さんの姿を見てもその意思は小揺るぎもせず、即座に剣をお姉さんに振るった。
躊躇がない斬撃だったけれど、その剣はお姉さんの如何にもな柔肌にぶつかり弾かれる。
見た目はふにふになのに硬い!
「お姉様! そいつから即座に離れてください! 秩序の神です!」
「う、うん、そうだけど、見た目人間相手に容赦なさすぎるわよ!?」
妹の殺意の強さに驚いていると、ツバキ丸ちゃん一同が不思議そうに私を見つめる。
「見た目人間? 何を言っているでござるか? 目の前にいるそいつは四角を組み合わせたような名状し難い化け物でござるが……」
「えっ!?」
認識に違いがある?
私はもう一度お姉さんの顔を見るけれど、至って普通の美人がそこにはいて、化け物なんてどこにもいない。
どういうこと……?
「ゲームのキャラには本当の姿は認識できないようになっているんです。世界観が壊れますからね」
お姉さんははっきりゲームと、そう口にした。
なんとなく想像はついていたけれど、やっぱりこの人、この世界がゲームだときっちり認識している。
「……何となくそうじゃないかと思ってましたけど、あの、ゲームの世界だって分かってるんですね」
「ええ、運営ですから」
「う、運営さん?」
「はい! このゲームを正しく進行させるのがお仕事です!」
ということは……秩序の神というのはゲームの運営という意味だったのか!
確かに私のような不具合の具現化みたいな存在を抹消するのは神というより運営のお仕事か。
つまりやっぱり私はこのままでは消える……?
に、逃げられそうもないけれど、話が通じない相手ではなさそうだから何とかならないかな。
「ちなみにこの会話も貴女と私にしか通じてません。変な鳴き声に変換されているはずですあ、」
「お姉様! そのゴブニュルニュル言ってる奴からはやく離れてください!」
「そんな声に聞こえてるの!?」
妹たちの目と耳からすると、かなり冒涜的な存在に見聞きされるらしい。
そんなやつの横にいたらそりゃあ焦るよね……。
「えっと、ハナ、私、この人とお話しできるみたい」
「はぁっ!? その生物か非生物かも分からないやつとですか!?」
「うん、ちょっと話してみるわ」
「お姉さんパナいんだけどマジで!」
全員から驚きの表情で見守られつつ、お姉さんの方に再度向き直る。
本当にただの美人にしか見えないのだけど、そんなにヤバい姿に見えるなら、少し見てみたいかも……。
「あの、私を消すんですよね?」
「消す? まあ、この世界からは消しますよ」
「それは死のおしゃれな言い方ですか……?」
「ええええ!? と、とんでもありません! どうやら1からご説明する必要があるようですね……!」
私の言葉にお姉さんは慌てたような動きで空間に四角い枠を作り出すと、何か図を表示し始める。
「一応アンジェラさんとお呼びしますが、アンジェラさん、そもそもどうやってこの世界に来たか覚えてますか?」
「どうやってて……ど、どうやってでしょう」
改めて聞かれてみると、言葉に困ってしまう。
私は気が付けばこの世界にいたけれど、その前に何か特別なことがあったわけではないのだ。
別に死んでもいないし、神様にあってもいない。
本当に気付いたらこのゲームの世界にいた感じ。
「まず、この世界が『ハナのマジカルエデンライフ』と言われる体験型ゲーム空間なのは分かりますか?」
「体験型ゲーム空間!?」
「なんと記憶喪失なんですね……えっとですね! 本ゲームはゲームの世界にそのまま入って楽しむというのがコンセプトでして、人と同程度の知性を持つAIを用いることで画期的な……」
「ちょちょちょっと待ってください! げ、ゲームの世界って、ここは本当にゲームの世界なんですか!?」
「ご自身でそう言ってたじゃないですかー」
が、確かに私はそう言ったけれど、それはゲーム世界に異世界転生したと思っていたのであって、最初からゲームの中に入れるゲームだとは思ってはいなかった!
どういうことなの!?
理解が追いつかない!
でも、言われてみれば『ハナのマジカルエデンライフ』というタイトル、これは少しおかしな部分があった。
ハナとマジカルとライフは分かるけれど、エデンは意味不明なのだ。
けれど、ここが体験型ゲームの世界ならわかる。
プレイヤーにとっての理想の世界を目指しているからエデンなんだ!
「それでですね、ここしばらくこの世界はある問題が発生しているのです」
「も、問題ですか?」
「何度も何度も時間が巻き戻ってしまう問題です。もっと言えば、それに伴ってこの世界に入った人の記憶も巻き戻されてしまって大変なんですよー! もしかしたら、私がこの会話をするのも8回目とかかもしれません」
時間が戻る原因は私には分かっている。
それは魔界神様の仕業のはずで、すっごい魔法の力で巻き戻しているのかと勝手に思っていたけれど、この話を聞く限りでは、どうやらゲームそのものに介入して時間を巻き戻していたらしい。
と、とんでもないキャラだ!
しかもそれは私1人のためになされているというのだから、ヤベーやつと言わざるを得ない。
「運営さんの記憶も戻るんですか」
「ええ、この世界内で運営してる者は全て。だからそれも難航していた原因の1つなんですよね…残された人をこの世界から脱出させるのに」
「それって……」
「そう、貴女が最後の1人です!」
この世界から私を消す。
ずっとそれが神々の目的だと思っていた。
けれど、それは正確には違っていて『私をこの世界から脱出させる』というのが正しかったらしい。
も、元々、私が迷惑なだけで悪い神ではなかったけれど、これでは更に何も悪くない!
私も拒む理由がないわけで、ど、どうしよう!?




