第17話 妹は世界を壊す
あれから一ヶ月の時が経った。
私と妹は一ヶ月ツバキ丸ちゃんが飢えて倒れている場所、通称ツバキスポットに足繁く通った。
それはつまり一ヶ月間ツバキ丸ちゃんが増殖し続けていたことを意味するわけで。
もはや寮に置くわけにも行かず、私たちは森の近くに家を買い、ツバキ丸ちゃんをそこに集めていた。
こうして言葉にするとヤバすぎるな……。
新手の奴隷商人かと思うもん。
ちなみに、ツバキ丸ちゃんには一応了承を取っている。
妹はそんなのどうでも良さげだったけれど、本人無視で増殖するのではあんまりにも不憫である。
ツバキ丸ちゃん2人目の段階で、ツバキ丸ちゃんにツバキ丸ちゃんが増えることを伝えるとツバキ丸ちゃんは何を言っているんだこの人はという顔をし私をきょとんと見つめる。
うん、そうなるよね!
「拙者は拙者1人でござるよ?」
「まあ、そう思うわよね……出てきてツバキ丸ちゃん!」
「はいはい、ツバキ丸でござるよ」
舞台袖から出てくるようなテンションで、増えたツバキ丸ちゃんが私の背後から現れる。
ツバキ丸ちゃんは椅子からすっ転んで驚いていた。
「うわー!? なんでござるかこの美少女は!?」
「貴女よツバキ丸ちゃん」
驚きのポイントがちょっとおかしくないツバキ丸ちゃん?
まあ、そんな感じで初対面を果たしたのだけど、ツバキ丸ちゃんはその後は結構どうでも良さそうに「いくらでも増やしてくれてかまわんでござる」と言っていた。
曰く「自分が多い方が楽できそうでござろう?」とのこと。
思考が怠け者すぎる……。
それにしても、ツバキ丸ちゃんとツバキ丸ちゃんが出会ってしまうと何かおかしなことが起きるんじゃないかとハラハラしていたけれど、特に変なことは起きなかった。
いや、もう、これ自体がおかしなことなんだけどね?
そして今現在、一ヶ月後、もうツバキ丸ちゃんが2人なんてレベルはとうに越してしまった。
この家には、ツバキ丸ちゃんが32人いるのだから。
「拙者が言うのもなんでござるが、拙者をこんなに増やしてどうするつもりでござるか」
「貴女こそが言うべきことだと思うわよ」
木で作られた落ち着いた雰囲気のログハウス、その室内でわちゃわちゃと妹の買ってきたボードゲームに興じているのはツバキ丸ちゃんたちである。
寝ている子もいるので、この場にいるので32人全員ではないけれど、もう今現在ですでに恐ろしい光景だ。
……だ、大丈夫かなこれ!
やってしまった後で言うのもなんだけど、なんだかすっごい怖い!
人体実験な趣がある!
「お姉様は気にしすぎですよ。ツバキ丸ちゃんはメンタルだけは超強いですし、主のためなら家に籠るのも平気へっちゃらです」
「そもそも拙者、家でぐーたらするのが夢みたいなところあるでござるからな」
「それでいいのツバキ丸ちゃん……」
心配する私をよそに妹とツバキ丸ちゃんはもう平然としている。
私がおかしいのだろうか……い、いや、そんなわけは……。
「さて、ツバキ丸ちゃんを増やしたわけですが、もちろん趣味で増やしたわけではありません!」
「違ったのでござるか!?」
「違いすぎます! あのですね、妹はおかしな出来事はおかしな出来事を生み出しやすいと考えているのです。それはお姉様と過ごしたことでよく分かりました」
「それは、まあ、そうかもしれないわね」
バグとは要するに仕様外の行動をしているわけだから、バグのままに進めていくと、途中で進行不能になったり、新たなバグを発見したりする。
私と共に行動したことで悪の魔術師(幼女)や魔王の娘や魔界神を仲間にしたことで、妹はおかしな存在はおかしな存在を呼ぶと考えたらしい。
考えてみれば私もバグといえばバグなキャラだからね。
「それでツバキ丸ちゃんを大量に生み出すことで、この世界そのものをどんどんおかしな方向へ持っていき、最終的に神々もおかしくさせて、ぶっ倒そうという考えなのですが」
「とんでもない考えしてたのね」
「いくらなんでも無茶があると思うでござるよ。そう思うでござるよな、ツバキ丸」
「思うでござるなぁ。そもそも、こうして家にこもっていては、何もおかしなことなど起きんでござるよ」
「いや、この状況がすでにおかしいのでござるよ?」
「いくらおかしくても、もう拙者たちにとっては日常。それに世界レベルで変なことが起きているとも思えんでござる」
「ツバキ丸たちの言う通りでござる! 拙者たちはゴロゴロできて寝てても飯がくるから幸せでござるが、それで主は満足でござるか?」
「ご、ごめん、あの、ツバキ丸ちゃんたち一斉にしゃべらないで!」
ガヤガヤと賑やかにしゃべりだすツバキ丸ちゃん。
もうどれがオリジナルのツバキ丸ちゃんか分からなくなるので、なるべく個別で話してほしい!
オリジナルって表現が正しいかも怪しいけれども!
「ええ、籠っていては何も起きませんが……いや本当は起こっても良いのですが、どうやらツバキ丸ちゃんの順応性が高すぎるようなので、ここからは外に出て行こうと思います!」
「大量のツバキ丸ちゃんがついに外へ……」
「拙者は飛べなくなった小鳥か何かでござるかな」
「プリティーさと忠実さはわんこっぽいとは思うでござるが」
家の中から一斉に飛び立つツバキ丸ちゃんの姿を想像すると、割と癒される。
よし、ペットだと思えば恐怖心が薄れるからそう思い込もう!
「ツバキ丸ちゃんよしよし〜」
「ふにゃー!? 急になんでござるか!? 拙者の可愛さが罪すぎる感じでござるか!?」
「アンジェラ殿、別に拙者も撫でても構わんでござるよ」
「拙者も拙者も!」
軽率に撫でると、急にツバキ丸ちゃんたちが集まってきて、行列が生まれてしまう。
寝ていた子も起きたようで、全員を撫でるのはかなりの重労働だねこれ。
可愛いからいいけど。
私は順番に撫でていく。
「そこ! いちゃいちゃしない! ツバキ丸ちゃんをただ外に出すだけではないんですよ!」
「えっ? 違うの?」
「そんなの無策も同然じゃないですか! いいですか? 妹はループ中の経験でツバキ丸ちゃんを中心にした出来事も記憶しています。そこに32人のツバキ丸ちゃんを投入したらどうなると思いますか!?」
「大変なことになるわ……」
ツバキ丸ちゃんもゲームのキャラである以上、彼女をメインにしたエピソードもあるのは分かる。
そこに32人……いや32匹のツバキ丸ちゃんが現れるとどうなるか。
謎だ……謎すぎる。
普通に考えれば世界が固まってしまう気も。
「あとツバキ丸ちゃんにはツバキ丸ちゃんにしか扱えない武器があるんですが、それは本来、武器に出会った時点でツバキ丸ちゃんの元へ飛んでくのですが、こんなにいっぱいいる場合、武器は何処へ行くのかも気になりますね
「半分好奇心になってきてない?」
「拙者での人体実験は禁止でござる!」
「32人もいるからいいじゃないですか」
「あー! ついに言ったでござるね!? 拙者たちが思っていても言わなかったことを!」
ついに妹の口から禁断の発言がなされた。
完全に悪の思考だから言わなかったのに!
まあ、さすがに妹の冗談だと思うけれど、これだけツバキ丸ちゃんがいっぱいいると個々の扱いが雑になりそうだからそれは気をつけるべきかもしれない。
彼女たちは全員が愛すべきツバキ丸ちゃんなのだから。
こうして撫でるのもだから重要なはずである。
なでなで。
「いつまで撫でてるんですか! もう和みタイムは終わりです! 武器の場所にはキュキュさんを先行させているので、妹たちは取り敢えず前者の方法を試してみましょう!」
「キュキュさんいないと思ったらすでに行動を開始してたのね……」
キュキュさんに頼んだということは魔界方面にその武器はあるのかもしれない。
ちなみに魔界神のアルテヴァさんは魔界から出ることが叶わなかったので、私は2日に1回会いに行っている。
娘に合わないと怒りメーターが溜まって最終的に爆発しかねないらしい。
困ったママだけど、うちの最大戦力だし、割と良い人だからいいんだけどね……。
「さあ! 世界破壊大作戦を開始します! 頑張りますよツバキ丸ちゃんたち!」
妹が腕を頭上に突き上げると、ツバキ丸ちゃんたちもそれに呼応して腕を掲げた。
「もう何が何やらでござるが、主のためとあれば命を賭けるが拙者の生き様! 頑張るでござるよツバキ丸一同!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
31人の声が揃って家に響く。
気付けば神々を倒すために世界を破壊することになった私たちの運命は如何に。
……もう私、巨悪もいいところだよ!




