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第16話 妹は増やす


 ところ変わって学園の近くに存在している森の中。

 鬱蒼と生い茂る木々と茂みを分け入って分け入って、枝葉を折って突き進んでいく。


 なんで魔界から急にこんな初期マップみたいなところに来ているのかといえば、妹曰くツバキ丸ちゃんを活用するためには場所が大事という話らしい。

 場所が大事というのがもう意味不明だけど、もう私としてはついて行くほかない。

 一体、どこに連れていかれてしまうのか。


「ハナ、どうして場所を移動する必要があるの? しかも、わざわざ2人きりで」

「理由は色々ですが、前者はそこでしか起こらない現象だからで、後者はあまり多くの人に知られたくないからです」

「だからって、とうのツバキ丸ちゃんを置いていったら意味がないじゃない」

「それが大丈夫なんですよ……ここですお姉様! そこの大木の根本を見てみてください!」


 やや興奮したような妹の声に流されるように、前方へ視線を向ける。

 樹齢何百年か分からない立派な大木、その木の根を枕にするように1人の女性が倒れていた。

 

「えっ、行き倒れ!? 早く助けないと」

「お姉様、よく見てください」


 よく見ろと言われても、どんな容姿でも行き倒れは行き倒れに違いないはずなのだけど……。

 しかし、言われるがままに女性の姿を見てみると確かに変わった容姿をしている。

 ポニーテールで鉢巻をして和服を着たその女性の身なりは特徴的で、どこかで見たことがあった。

 あったっていうか……ツバキ丸ちゃんだよね!?


「ツバキ丸ちゃん!? えっ!? 寮でもう寝ているはずじゃないの!?」

「はい、ツバキ丸ちゃんはお疲れもお疲れだったので、一歩も動かないって感じでしたよね。まあ、目の前のツバキ丸ちゃんも一歩も動けないって感じなんですが」

「ど、どういうこと!? 急いで先回りしてここに寝たの!?」

「どういう状況ですかそれは」

「でもそれしか考えられないから!」


 魔界から帰るや否や、即座に自室に戻り眠りについたはずのツバキ丸ちゃんが、何故、こんな森の奥で眠っているのか。

 夢遊病とかでもないと説明がつかない状況に、私はたただた慌てふためく。


 そんな私の目の前で、妹は指を2本立ててピースサインをしてみせた。

 それは私は元気ですイエーイ!みたいな意味ではなく、どうやらこの異常事態に関する説明の一環のようで。


「ツバキ丸ちゃんが2人いるなら成立すると思いませんか?」

「ふ、双子ってこと?」

「双子ではないですね……2人以上いても成立しますから」

「ええっと……ツバキ丸ちゃんと目の前のツバキ丸ちゃんは別人ってこと?」

「それも難しいところです。同じ存在ともいえますし、別人とも言えますから」


 妹の話を聞いていると、ますます何が何やら分からなくなってくる。

 もはやツバキ丸ちゃんという存在そのものが哲学の領域に踏み入っている気がするくらいだ。


「つまりどういうことなの!?」

「ツバキ丸ちゃんはですね……おにぎりをあげると仲間になるんですが、おにぎり以外をあげて仲間にすると、次の日、何故か新たなツバキ丸ちゃんが同じ位置に現れているんです」

「おにぎりが関係してくるの!?」


 というかそれって……つまり完全なバグ!?

 そ、そんな急に露骨なバグが現れるなんて。


 でも、確かに、この世界はゲームの世界。

 だったらバグもあるのは当然なのだけど、まさかツバキ丸ちゃんのそんな根本的なところにバグが潜んでいたとは。

 

 恐らく理屈としてはおにぎりを上げることで仲間にする正規の手順が正しいフラグ管理なのだけど、それがなされないことで同行させているけれど仲間にしていないという状況が生まれて、仲間にしていないから元の位置にツバキ丸ちゃんが現れるのだと思う。

 元々ゲームの中にあったバグなのか、それともループを繰り返すうちに世界の何処かがおかしくなってしまったのかは分からないけれど……。


「そんなわけでツバキ丸ちゃんは量産できるんです。私がこれを知ったのは偶然で、おにぎりじゃなくておにぎらずをあげた時、ここに落とし物をしたんです。それで取りに帰ったら、ツバキ丸ちゃんがいましてね……」

「かなりホラーな体験ね」

「さすがの妹も不気味に思って封印してたんです。けれど、そのことでこの世界が何かおかしいことには気付けました」


 なるほど、妹がここまで不可思議な出来事に出会っていたのなら、世界そのものに対して疑いを持ったのも頷ける。

 まさかこんな分かりやすいバグがあったとは……。


「とりあえずツバキ丸ちゃんに話しかけましょうか。ツバキ丸ちゃーん! さっさとこれを食ってください!」


 妹は目の前の不気味な存在に躊躇なく近付くと、手に持った骨付き肉をツバキ丸ちゃんの口に放り込む。

 

「ごふっ!? だ、誰でござるか!? いや、ありがたいでござるけども、拙者はおにぎりの方が……」

「いいから食ってください! 腹に入れば全部同じです!」


 ツバキ丸ちゃんは困惑しつつも、よほど空腹だったのか、怪しむそぶりも見せずに肉を頬張る。

 その姿はいつも見ているツバキ丸ちゃんと何も変わらない。

 ……というか、仲間にしなかったらずっと空腹でここで倒れてるってこと?

 ゲーム的には普通なんだろうけれど、実際に見てみるとすっごい違和感がある。


「やっぱりツバキ丸ちゃんはどちらもツバキ丸ちゃんなのね」

「ええ、旅の記憶がないだけで、ツバキ丸ちゃんはツバキ丸ちゃんです」

「なんかとてつもなく不穏な話が続いているのでござるが、しかし命の恩人! 拙者、全身全霊でお仕えするでござる!」


 ツバキ丸ちゃんはこちらを訝しみながらも、正座して頭を下げつつ、あっさり仲間になってくれる。

 噂通りチョロい!


 でも、こうして行き倒れている姿を見ると、確かにこんな山奥で食料を分けて貰う一生の恩人であり、忠誠を誓うのも無理はないのかもしれない。

 おにぎり一個で命を救われていたんだなぁ……。


「それで、ツバキ丸ちゃんがヤバいことは分かったけれど、どうやって世界の外側云々の話になるの?」

「それはここからツバキ丸ちゃんを増やし続ければ分かります!」

「増やし続けるの!?」

「えっ、拙者増え続けるんでござるか? 分身の術?」


 バグで増えたツバキ丸ちゃんだけど、これからさらに続々増やしていくらしい。

 えぇ……そ、それでどうなるっていうの?

 ついにバグ技に手を出した妹の次の手段は果たして……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 草ァ! 初代ポケ○ン思い出しますねえ
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