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第13話 妹は大技を放つ

「こ、小石投げ!」

「攻撃力倍倍倍からの光速剣メテオーラ!!!!」

「サンダーサキュパンチ!」

「獄炎大瀑布」

「三段切り!」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!? これはまさか!?」

「第二段階は飛ばさせてもらます!」


 第一段階の普通のおじさんみたいな姿でも魔王はかなりの強さを発揮し、妹たちと互角の戦いを繰り広げた。

 ……いや、魔王と互角はおかしいよね?

 なんで互角で戦えてる魔王すごいみたいな空気になっているんだろう……本来圧倒的に劣勢じゃないとおかしいはずなのだけど。


 もちろん、第一段階はまだ全力ではないというのと、理性的であり、こちらに遠慮があるという理屈もある。

 行動パターンやどんな攻撃をして来るかも妹は全てお見通しなわけで、対策も立てやすいし、有利な要素は結構多いのかな?

 でも、一番はこちらを試そうとする魔王の慢心こそが互角の戦いを生んでいるのだろう。

 そしてそんなあからさまな隙は見逃さないのが妹である。


 妹は全員で攻め立てながらも、第二段階に移行しないギリギリを見極め、攻撃力を高める魔法を自身にかけ続ける。

 そして全員で同時に大技を決めると……魔王の姿は一瞬だけ何か滅茶苦茶強そうでかっこいい姿に変化し、即座に撃退され元の姿に戻った。

 第二段階の出番は1秒で終わってしまった!

 なんか申し訳ない!


 兎にも角にも、作戦はどうやら成功したらしい。

 ちなみに私が石を投げたのは、あれで第二段階に移行させてそこに全員攻撃をぶち込むためなので、一応意味はあったりする。

 私の初の活躍シーン、まさかの小石投げ。


 己の不甲斐なさにショックを受ける私をよそに、魔王はヨロヨロと立ち上がり、妹を睨みつける。

 その姿には魔王らしさが生きていた。

 まだ戦いは終わってはいない。


「まさかこんな方法で我が第二の姿を完封するとは……貴様、どういう思考回路をしておる!?」

「10ループすれば誰でもこれくらいは思いつきますよ」

「思いつかないと思うわよ?」


 妹は軽く言ってみせるけれど、どれだけループを繰り返しても、私にはこんな反則じみた方法を編み出せるとは思えない。

 妹は元々ちょっとずる賢いところあるんだなきっと。


「時を繰り返しているということか……なるほど神々を倒そうとするだけはあるではないか! 面白い!」

「面白がってないで早く負けを認めてくんない?」

「ぐわっはっはっはっは! まだまだ甘いなキュキュちゅっわんよ! 我が娘にも秘密にしていたこの第三の姿、最終形態を貴様らに見せてくれよう!」


 ボロボロの体で娘の暴言を浴びつつもなお豪快に、魔王は力強く最終形態へ移行を宣言する

 異変はすぐに訪れた。

 魔王の体が泡立つように、ボコボコ音を立てて、ゆっくりと変化しているのだ。

 ……ゆっくり変身するこの隙に攻撃すればいいのでは?

 

「この間に攻撃したいんですけど、この状態の時は無敵なんですよね」

「色々やっているのね……」


 考えうる方法は大体試した後らしい。

 まあ、私の浅知恵を妹が試してないわけないよね。


 仕方ないので大人しく魔王の変身を待っていると、魔王は煙を噴き出しながらどんどん小さくなっていく。

 そして煙が晴れ最後に残っていたのはまるで子供のような魔王の姿だった。


 さ、最終段階が小さくなるタイプのラスボスだったのか!

 いわゆるフリーザ様パターン!


「おおっと、見た目に惑わされるなよ! 我のこの姿は魔力を極限まで研ぎ澄ませた言わば芸術的な……ん? 何をしておるんじゃ?」


 魔王の講釈に耳もかさずに、妹は頭上に剣を掲げるとじっと目を瞑り何かを唱え始めていた。

 よく見てみると、少し輝いているような……。

 人体ってそんなに輝くものだっけ?


「ハナ、魔王さん困ってるから、何か言ってあげないと」

「妹は今、旅の思い出を思い出しつつ剣に込めているところです!」

「ああ、イベント戦闘みたいな感じなのね……」


 そういえば、だからこそ第二段階がなければ楽勝という、そんな話だった。

 ラスボス戦に関しての妹の知識はほとんど完璧で、隙が存在しないあたり、妹の苦労と苦心が窺えた。


 しかし、旅の思い出といっても私たちは一ヶ月ちょっとでここまで来たわけで、魔王を倒せるほどの思い出が果たして存在するかは謎なのだけど。

 そこは大丈夫なのかな?


「10回もループしている妹の思い出はもう絶大なので、魔王第三段階にはもうこれだけで勝てます! いきますよー!」

「ループも含めていいんだ……」


 だったら思い出パワーも単純に考えて10倍なわけで、確かに威力は足りまくってそうだ。

 思い出を数値換算するのもどうかと思うけども!

 

 妹の掲げた剣は気付けば極大な光の剣に姿を変え、空を貫くようにその身を輝かせている。

 い、今までで一番勇者っぽい!

 でも、どれだけ勇者っぽくても初手思い出パワーはなんか逆に正義っぽくない!

 愛と真逆の何かを感じるもの!


「ま、まて! 我を倒すと不完全なままで魔界神様が復活してしまうぞ!」

「知っています! 安心してください! 魔界神も仲間にして、神々は妹たちが打倒します!!!!!」


 そう言い放つと、妹は光の剣を魔王に向かって振り下ろした!

 超巨大な質量を前に魔王は避けることが敵わない。


「きゅ、キュキュちゃんをよろしく頼みますー!」


 振り下ろされた光は天を切り、空を裂き、地を抉り、魔王を両断する。

 幼い姿の魔王はその強大な一撃を受けると、娘思いな断末魔を上げつつ、浄化されるようにその身を光の粒へと変えていき、残されたのは元のおじさんみたいな魔王の倒れ伏した姿だった。


 どうやら複雑な過程を踏みつつも、なんとか魔王に勝ったらしい。

 さすが魔王だけあって容易ではなく、今までの戦いに比べてもかなりの苦労をしたほうだった。

 けれど、結局は一ヶ月で倒したわけでまた妹は最速を記録したのではないだろうか。


「お姉様、まだ安心してはいけません! 魔王を倒すとすぐに魔界神が現れます!」

「あっ、そ、そうよね!」

「まあ、別に気を張る必要もないのですが」

「どっちなの!?」


 適当なことを言いつつ、空を見上げる妹の表情はリラックスしきっている。

 そうだ! 魔王を倒すと魔界神が復活してしまうんだ!


 しかし思い出してみれば、妹は魔界神に関しては大丈夫デスという謎の言葉で誤魔化すばかりで、その詳細は語らなかった。

 そ、そんなに強くないとか?

 でも、いつかのループでは魔界神に負けたことで、魔界神が封印されたツボを破壊することを対策にしてたはず。

 つまり、正攻法では倒せないほど強いはずだ。


 なのに、この妹のだらけきった表情!

 一体、どんな作戦があるというのだろう。


「ほら、お出ましですよ。あれが魔界神です」

 

 妹の言葉に導かれるように、空を見上げると……そこには謎の巨大な肌色の丸が浮かんでいた。

 えっ、抽象的なタイプのボス?

 たまに叫びとか怒りとか恨みとか、形のないものをモチーフにしたラスボスがいるけれど、もしかしてその類?


 私のそのゲーム的な考えが間違っていると気付いたのはその丸をじっくりと眺めて数秒後のことだった。

 なんとそれは丸ではなく、指だったのだ!

 ずずずっと空から地面へ降りて来るその指は、この塔と同じくらいの大きさに見える、

 

 単純に超巨大なタイプのボスか!

 質量は実際、破壊的な強さに繋がるので、確かにこれは超強そう!

 妹が初戦で敗退したのも、正攻法を諦めたのも頷ける話だ。

 けれど今は何故か余裕そうな顔のわけで。

 

「ほ、本当に大丈夫なのよねハナ?」

「大丈夫デス」

「なんでロボみたいになるの! 不安になるから!」


 ハラハラしながらも、ゆっくりと姿を表す魔界神の姿を見守る。

 やがて巨大な顔と胴体も現れ、魔界神はその身を私たちに晒した。


 なんと魔界神は……美人な女性だった。


 銀色の髪はまるで雲のように空を漂い、もれる空気は風となり地を揺らす。

 冗談みたいな目の前に光景にクラクラしていると、魔界神はその大きな口を小さく開いて、こう言った。


「アンジェラちゃんー! ママですよー!」

「はい!? えっ……わ、私!?」


 アンジェラとは間違いなく私の名前である。

 珍しい名前ではないので他の誰かを呼んでいる可能性もあるけれど、この状況でそんなわけはあるまい。


 魔界神が私の名前を急に呼んだのも驚きだけれど、問題は後半の方だ。

 ママとは!?

 私のママはもっと普通のおばさんですよ!?

 

「見ての通り、魔界神はお姉様の悪魂を娘と認識しているんです」

「えええええええええええええ!?」

「だから、まあ、お姉様がいる間は大丈夫なんです」

 

 妹は呆れた顔で解説してくれるけれど、私の脳内は追いつけない。

 ただただ異常な事態に混乱するばかりだった。


 ……娘みたいな子ができたばかりなのに次は母なの!?

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