第12話 妹は断る
「あの、大丈夫ですか? 生きてます?」
「ま、魔王がこの程度で、しぬわけ、な、なからろう……」
「言葉に覇気も滑舌ないのですが……」
息も絶え絶えで何とか魔王は立ち上がる。
両膝に手をついてゼエゼエ言っている姿は完全にその辺のおっさんの姿だった。
登場時は威厳あったんだけどな……。
「娘にキモがられても魔界神復活はなさねばならないのだ! それが魔王の使命!」
「使命じゃなくてキメエって言ってんだよエロ親父」
「ごはァ!!!!!」
「やめてあげてキュキュさん! お父さん、血反吐吐いて血の涙流してるから」
これは優しさからの発言ではなく、逆上して襲い掛かられると不味いという事情もある。
そう、今は戦力がまるで足りていない。
妹が来るまでなるべく時間を稼がないと。
「あの、どうして魔界神を復活させたいのですか?」
「魔界神様を復活させると魔界のエネルギー問題が一気に解決する! また土地に対しての人口比の問題も、魔界神様であれば地を広げることで解決できるだろう」
「思ったより王っぽい理由!」
「あとは神々を打ち倒すのも我ら魔王の使命の一つ……貴様の魂があれば魔界神様を完璧な形で復活し、神々との戦いが可能になる!」
「えっ、目的同じですか?」
魔王の目的は魔界の民のためともう一つ、なんと神々に勝つことも目的の一つだった!
考えてみれば秩序を重んじて私を消そうとする神と、魔界の王と魔界の神は相性が最悪だ。
どちらも結局私を殺すもしくは消すという目的は同じでもそこには利用と正義という大きな違いが存在していた。
「なに!? 神々と戦おうとする愚か者が他にもいるとは……」
「愚かなのは魔王様だけだから。うちらには超強くて何でも知ってる女の子が付いてんだからマジサイキョーだし」
「ほう、我が娘がここまで褒め称えるとは珍しい。どんなお友達か見定めてやろうではないか」
「あっ、すいません妹はすぐにはこれなくて」
「ならば……待つのみだ! さあ、茶を用意しろ! いや、我が用意するから待っておれ! 牛乳の方がよかったりするかな?」
「あの、どちらでもおかまいなく……」
なんだかんだで人がいいのか、それとも妹への興味が強かったのか、魔王がその場で襲いかかってくることはなかった。
そして魔王と一緒に談笑すること数時間……なんと1日かかると言われていた塔を妹はその短時間で登りきり、私たちの前に姿を現した。
「オラァ! 魔王どこですか! そしてお姉様が死んでたら妹は貴方の魂のカスまで殺し尽くして11ループ目に入りますよ!」
妹は剣を振り回しつつ、怒声を上げながら最上部へと入ってきた。
ガラが悪すぎてもうまるで勇者っぽくは見えない!
「あっ、ハナ、速かったわね」
「ええ、いつものループより修行に身が入ってましたし、仲間のことも任せてたので余裕が……何故お茶を飲んでいるので?」
「貴様がキュキュちゃんのお友達か! 我が魔王だ!」
仲良く机を囲む私たちを見て、妹は一瞬覇気を失ったが、即座に取り戻し、魔王に対峙する。
「なるほど……サキュバスさんは魔王の娘でしたか」
「よく分かるわね!?」
「だてに10ループしてないので。やはり、普段全く仲間にしていないパーティで冒険すると、知らないイベントも増えますね」
妹にとって未知の存在。
それは私、サキュバスさん、ベルンちゃんの3人である。
ツバキ丸ちゃん以外が知らない人々なわけで、これだけイレギュラーが揃えば、妹の計算が狂うのも仕方がないのかもしれなかった。
……そういえば、あれ? ツバキ丸ちゃんは?
「ハナ、ツバキ丸ちゃんは?」
「全力の塔攻略に着いて来れなかったので……」
「置いてきたの!?」
「流石にそんなことはしません。これがツバキ丸ちゃんです」
そう言って妹が私に見せてくるのは腰に結ばれた荒縄である。
そしてその縄の先には……ズタボロのボロ雑巾のように地面に転がっているツバキ丸ちゃんの姿が!
「つ、ツバキ丸ちゃーん!?」
「引きずって連れてきました。まあ、頑丈さだけはそれなりなので大丈夫ですよ」
「とても大丈夫な姿に見えないのだけど……」
慌ててツバキ丸ちゃんのそばに駆け寄ると、ツバキ丸ちゃんはうわごとのように何かを呟いている。
私は彼女の口元に耳を寄せた。
「景色が、光のようにながれていくでござる……ああ、拙者、星になったんでござるね」
「なってない、なってないわツバキ丸ちゃん!」
「はっ! ここは……天国!」
「天国に行けるとは思ってるのね……ここは魔王城最上部よ」
「なら魔王相手に命捨てるチャンスでござるか!?」
「その認識はおかしいわ」
魔王の目の前にいることに気付くと、ツバキ丸ちゃんは先程までの姿が嘘のように立ち上がり、元気にその瞳を輝かせた。
この子、何度も確認するけどおにぎり一個の戦力なのよね?
忠誠心が強すぎて心配になるのだけど。
なんか無茶苦茶な形ではあるけれど、ついに勢揃いした我らがパーティを前に、魔王が威厳ある態度で口を開く。
「さて、勇者とでも呼ばせてもらうか。勇者よ! 我は魔王として貴様の姉を生贄にする必要がある! だが、どうやら貴様も神々を倒そうとする者らしいな。そこで一つ提案があるのだが」
「嫌です。乗りません。倒します」
「ハナ!? 塩すぎない!?」
魔王の側から交渉してくれそうな雰囲気だというのに、妹はそれをバッサリと叩き切った。
ま、魔王を仲間にするのも目的の一つでしょ?
すごいチャンスなんじゃないの!?
「いいですかお姉様、私はこいつをぶっ倒すことができるんですよ? だったら交渉なんてただの譲歩なんです! する必要がありません! 勝てばいいんです勝てば! 勝てば全てが手に入ります!」
「蛮族の思考だわ……」
妹はわざわざ交渉なんてしたら自分たちの利益が減るという考えらしい。
真理ではあるけども……!
相互の利益の方が将来的には良かったりすると思うよ!
「うちも妹ちゃんに賛成。魔王様はマジ一度ぶっ飛ばされておくべきだから」
「拙者も命捨てがまるは今と思うでござる! そもそも交渉とは武力が強い方がぶん殴って武力を見せつけてから行うべき行為でござるよ!」
「勝って得た方が楽しい」
「みんな物騒すぎるわ……」
キュキュさんもツバキ丸ちゃんもベルンちゃんもみんな脳内が戦闘民族すぎた。
これではもはや私がおかしいみたいである。
そんなに戦うのが普通の場面かなぁ!?
「ふんっ! 我としても貴様の強さを見なければいかん! キュキュちゃんのお友達だからと言って手加減するとは思わないことだな! この第一形態はまだしも、第二形態にそんな理性はないのでなァ!」
少し前まではおちゃらけたおじさんのような姿だった魔王は、周囲の闇をその身に集めると、貫禄ある鎌を生み出す。
ついに始まった魔王との戦い。
激戦になることは間違いないだろうけれど、多分、きっと、恐らく、絶対……ダイジェストで終わりそうな予感がする!




