第11話 妹は登っている
全ての仲間が消えてしまい絶体絶命の状態で……私はベルンちゃんにカバンにしまっておいたプリンを与えていた。
一緒に持ってきていたシートに腰掛けて、気分はピクニックである。
魔王城最上部でピクニック……意味不明だと思うけれど、ふざけているわけではないです!
起きたばかりのベルンちゃんに栄養補給しないと、力が充分に出せないから!
「ママ、クソ美味しい」
「美味しいにクソ付けちゃダメよ」
口では叱りつつも、私は草食動物のように、周囲を忙しなくキョロキョロと見渡す。
どこからいつ敵が現れるか分からない上に、今は二人しかいない状況、
危機感で動悸はヤバいことになっていた。
そう、この場で頼りになるのはベルンちゃん一人……こんな幼児を頼りするのは心苦しいけれど、もうそれしか手がないのも事実。
この状況を作り出したのもベルンちゃんなんだけどさ!
「ママ、ここ、敵はいない」
「えっ? そう? ……い、いや、それってベルンちゃん基準の話じゃない?」
ベルンちゃんは正義臭いという謎の理由で仲間を放り出してしまうくらいなので、悪=味方くらいに思っていても何も不思議じゃない。
慎重に話を聞かないと大変なことになるのはもうこの状況で証明済みだ。
「というか誰もいない」
「あっ、そうなんだ」
まあ、考えてみれば常に部屋に誰かがいるわけではないはずで、その辺の事情は魔王城最上部でも同じなのかも?
いや、でも、ゲーム的にはいないはずないしなぁ……。
その後も持ってきていたお弁当に舌鼓を打ちながら、ベルンちゃんと朗らかな時間を過ごした。
服もこの隙にこっそり制服に着替えたけど……まだ敵地だけど大丈夫だよね?
サキュバスの服はもう着ていると不安がすごいから許して!
しかし、このままバレなかったら丸一日、魔王城でピクニックをする羽目に?
敵に見つかるよりはマシな結末かもしれないけども……。
バサバサと羽ばたく翼の音が聞こえたのはそんなことを考えている時だった。
ついに敵が!?
「お姉さん無事ー?」
「あっ、サキュバスさん!」
空を飛んでやってきたのはピンク色なサキュバスさんだった。
いつも通りの笑顔でこちらに元気よく手を振っている。
そうか! サキュバスさんは空を飛べるから一足先に助けに来てくれたんだ!
「今、妹ちゃんたちは全力で駆け上がってきてるところ。そんで、うちだけ先行して来てみたけど……平気そうじゃん」
「心細さはすごかったよ!」
ベルンちゃんがいたとはいえ、私史上最大の危機だったのは間違いない。
サキュバスさんはパーティ屈指の常識人にして頼れる戦力なので、なんなら妹が来るより安心感があるかもしれなかった。
「まあ、最初から先行してくる予定ではあったんだけどね」
これでひとまず安心かな?なんて思っていると、サキュバスさんが不穏なことを口にする。
い、一気に安心感が消えたような……。
「えっ、ど、どうして?」
「魔王様倒すなら先に挨拶しとかないヤバいかもって……うち、一応、娘だからさ」
「む、娘というと……娘ってこと!?」
「そう言ってんじゃん! うちのパパ魔王様なんだけど、マジうざいから家出してたんだよね」
し、思春期な理由ー!
えっ、娘……娘って娘で娘な娘のことだよね?
こんな身近にそんな重要人物いたの!?
そういえばサキュバスさんの詳細はまるで聞いたことがなかったけれど、学園の裏で偶然出会った子が魔王の娘ってそんなことある!?
でも、なんか隠しキャラあたりならありそうな設定かもしれない。
魔王の娘あたりは仲間になりがち……そんな感じありませんか?
「そんでパパ……じゃなくて、外だと魔王様って呼ばないと。魔王様の前にいきなり行ったらすっごい取り乱してクソウザそうじゃん? だから先に牽制しとこうと思って」
「お、お父様と戦うのはありなの!?」
「えっ? ありよりのありっしょ。そもそも魔界は下剋上フツーだし」
「魔界の倫理感、怖いわ……」
魔界は世紀末な価値観で動いているらしかった。
それにしても、気付かないうちに魔王の娘を仲間にしていたとは。
えっ、実はパーティの善悪の割合、2対3なの?
もう殆ど悪のパーティでは?
「でも魔王様いないっぽいね」
「そうなのよね……どうしてだと思う?」
「テレポしたから気付いてないんでしょ。ほら、今、家の中に窓から侵入したみたいなもんだし」
「確かにそれは気付けないけど!」
庶民的なスケールで魔王城を語られても困ってしまう。
サキュバスさんからすれば実家なんだろうけどね?
「うちが来たから流石に気づくと思うけどね」
その言葉がきっかけだったかのように、急に魔王城は揺れ始め、赤い空が蠢き、並ぶ石像はゆっくりと下がっていく。
そして、石像の間にできた道から魔王は現れた。
そいつは髭面でマントを着た……普通のおじさんだった。
「キュキュちゃんー! 帰ってきてくれたんだね!」
「いや、帰ったわけじゃねぇし。喧嘩売りに来たんだけど?」
「えー!? 娘が家出から帰ってきたら完全に不良になってるんですけど!? パパ史上最大のショック!」
……凄まじく軽いノリの会話が目の前で繰り広げられている。
家族だから当たり前かもしれないけれど、それにしても魔王様が軽すぎるし、娘にウザがられそうな性格もすごい!
なんとなく家出された理由も察することができるよこれは!
「キュキュって名前だったのねサキュバスさん」
「……これ人間には分からないかもしれないけど超キラキラネームなんだよね」
一応、今まで不明だった名前について触れてみると、サキュバスさん改めキュキュさんは少し青筋を立てて怒りをあらわにしていた。
だ、だから名前を全く言わなかったんだ……。
可愛いと思うけどなキュキュさん。
「パ……じゃなくて魔王様! これから魔王様をぶっ潰す仲間が来るからマジ覚悟してよね!」
「何ぃ! お友達来てるなら早く言いなさい! そこの娘! いつもうちの子が世話になっているな! 我が魔界を統べる大魔王である!」
「あっ、はい、娘さんにはいつもよくしてもらっています……」
「うちの子は魔界一だからなぁ! はっはっはっは!」
「ちょっとマジ人前でやめてくれるパパ!」
笑う父に怒る娘。
どうしよう……いきなり家族の前に連れてこられた友達みたいなことになっているんだけど。
前世でも経験があるけど、すっごい気まずいんだよねこれ……。
「って、あれー!? 娘の友達ちゃん、もしかして超悪魂の持ち主!?」
「あっ、はい、そんな感じです」
流石に私の魂に気付けないほどバカではないらしい。
魔王の目的が私なんだから当然なんだけども。
これで気にも止められなかったらもう魔王失格すぎる。
既にだいぶ失格気味なのに!
「魔界神様復活のために必要な魂が、まさか娘の友達とは……」
そこで悩んでしまうあたりこの魔王、娘に甘すぎる。
しかし、そんな父の心を知ってか知らずか、キュキュさんは吐き捨てるようにこう言った、
「娘の友達の体狙うとか、最低も最低じゃん。キッッッッッッッッモ!」
「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
魔王が娘からのキモい攻撃により、悲痛な叫び声をあげながら地に沈んでいく。
パパの最大の弱点、それは娘の悪口らしかった。
……えっ、本当に死なないよね!?
もう死にそうな顔で白目剥きながら口から泡を拭いてピクピク痙攣してるけど、死なないよね!?




