第10話 妹は潜入する
いつものメンバーでやって来たのは海が一望できる荒れ果てた崖の上。
そこには朽ちて風通しの良くなった教会が建っていた。
海風を通し、塩をその身に纏った教会の中を、私たちはズラズラと歩いていく。
妹、私、サキュバスさん、ツバキ丸の並びだ。
ベルンちゃんは影の中でお休みしているので、この場にはいない。
まあ、夜遅くだしね……。
祭壇の裏にある色鮮やかなステンドグラスの前に立つと、妹はそのガラスに軽く触れる。
すると指がズブリと吸い込まれていった。
どうやらこれが目的の場所らしい。
「この教会は逆十字の悪魔教会でして、このステンドグラスは魔界への入り口なんですよ」
「洒落た入り口ね」
「こういうのは世界中のあちこちにあるので、これを破壊したらもう魔王こっちにこれないのでは? というのは無しです!」
「そんなこと考えるのは貴女くらいよ」
少しだけ考えたけれど、まあそんなにうまい話はないだろうと思っていた。
しかし、教会の中に魔界の入り口があるなんて、なんとも不思議な光景だった。
「入ったらすぐに魔界のダンジョンが広がっていて、そこから魔王城に入場してもやっぱりダンジョンが続くのですが、恐らく、今回ばかりはお姉様の魔物避けも怪しいと思います」
「それは私も思ってたわ。サキュバスさんとか普通に話しかけて来てたし、ある程度強いと関係ないみたいなのよね」
「意思も強いのでしょう。なので妹は考えました! これが秘策の服です!」
そう言って妹がリュックから取り出したのは……なんか水着みたいな服だった。
これを着たらもう間違いなく全身の肌色率が80パーセントを超える。
そのレベルの露出度!
それはもう服を着ているとは呼べないと思う!
「これでサキュバスさんを先頭にサキュバスのふりして侵入しましょう!」
「最悪の手段だわ……」
妹はその辺の羞恥心が死んでいるのか、平然とその服を持っている。
でも私は、いかに世界のため自分のためとはいえエッチな格好はしたくない!
サキュバスさんもエッチなのNGだっていってたし!
「格好だけならうちはセーフ」
「セーフなの!?」
「そりゃサキュバスだしうち」
言われてみれば確かにサキュバスさんはサキュバスだった!
サキュバスの格好を嫌がるわけがなかったか。
「拙者はエッチな格好するだけで役に役に立つなら構わんでござる!」
「ツバキ丸ちゃんは危ういところがあるわね……」
努力以外はなんでも受け入れちゃう系侍はこの状況をすんなりと受け入れ、すでにサキュバス衣装、略してサキュ衣装を手に持ち、自分の体の前に当てがっていた。
その和服は飾りかツバキ丸ちゃん!
侍キャラが死ぬよ!?
「ベルンちゃんには流石に着せられませんが、まあ影で寝ているようなので良かったですね」
「起きていたら着せていたかのような発言はやめてちょうだい。ベルンちゃんに着せるくらいなら私が着るから……いや、着たくないんだけどね?」
「お姉様が嫌なら、こちらの案もあります」
そう言って妹が取り出したのはごっつい首輪である。
「ハナ、それはなに?」
「これを首に繋いでさらわれた人間っぽく見せます!」
「嘘でしょ? 首輪と水着の二択?」
過去最低の二択だった。
どちらも嫌すぎるのだけど、首輪するだけならまだマシ……?
いやでもなんか嫌な予感もする……安易に首輪ルートにすすむとひどい目に合いそうなそんな予感が!
「早く決めてくださいお姉様! 時間がかかるようなら、サキュバス衣装で首輪してもらいますよ」
「最悪の組み合わせだわ……分かったみんなと揃えるわ」
流石にここで一人だけ別の衣装では問題があるだろう。
仮にもみんな私のために頑張ってくれているのだし……本当にそうかなって感じだけど!
「まあ、この作戦が成功するかは眉唾なんですがね。サキュバスさんが仲間になったのはこのループが初めてなので、確証はありません」
「確証なしでサキュバスな格好で魔界に行くって相当な勇気よ」
普通の衣装でも勇気のある者、勇者にしか入れなさそうな領域なのに、サキュバス衣装はもう勇気があるとかそんなレベルを超えて、変態に片足を突っ込んでいる。
もちろん、戦いを避けられるならそれが最善だから、エッチな格好くらい受け入れるべきなんだろうけれど……。
「じゃ、うちが着方教えるんで、それに従って着てね。肩紐とかちゃんと付けてたらマジ舐められるよ」
「ずらすのがデフォなんでござるか……」
既に私以外のみんなは率先して衣装に着替え始める。
この子達、順応力高すぎる。
考えてみればこのパーティは全員女性だからこそ可能な作戦であり、そこまで妹が考えているとしたら、なかなかの策士だった。
……私も覚悟を決めて着替えなくては。
海風が冷たく吹いて、私の肌を撫でる。
ああ、そういえば海だから水着回ってことなのかも……。
いらないよそんなの!
★
「魔界マジなつかしいんだけど! あー、今、目玉のアクセサリー流行ってんだ」
「クソみたいな流行りでござるな。目玉の目玉商品でござるか」
「そういえば四天王の一人がつけてましたね。あれ流行りでやってたんですか。……なんか流行に乗る四天王は嫌ですね」
「みんな平気すぎない?」
魔界の地では毒々しい色の沼が広がり、空は血のように真っ赤に染まっている。
周囲には恐ろしい魔物がうろついていて、たびたびすれ違うのだけど、何故だろうか、振り返って私の方を見ている確率が高いような。
みんなが堂々と歩いているのに対して、私が肩を抱くように胸を隠しているせい?
むしろ堂々と歩ける方が絶対おかしいと思うんだけど……。
「お姉様が目立っているのは悪魂のせいでしょうね。今は幹部の一人か何かだと思われてるんじゃないでしょうか」
「四天王にサキュバス入れたらそれ歴史上初めてで、マジ偉業っしょ」
「それで歴史に残りたくないわ……」
恥ずかしかろうと目立とうと、我らは進むしかない。
時に喧嘩を売ってくる魔物も多く、魔界の治安の悪さを味わったけれど、妹がもうボッコボコのボコにして地面に埋めていた。
世界最強のサキュバス軍団が誕生してしまった。
翌日あたりから超強い謎のサキュバスとして噂になるかも。
こうして比較的安全に辿りいついたのが魔王城である。
天を突くように高く高く伸びたその城は、城というより塔のようでもあった。
「あの一番上に魔王がいるんですよ。それで、その更に上に実は浮いてる島がありまして、そこに魔界神が封印されてます」
「登るだけで1日が終わりそうね」
「これはもう仕方ないですねぇ。空は流石にとべないので」
「飛べるよ」
てっきりサキュバスさんがその羽で飛べることを主張したのかと思っていたら、その声は私の足元から聞こえていた。
正確に言えば、私の影から聞こえたその声の主は、もちろんベルンちゃんである。
「ママ、飛びたいの?」
「飛びたいっていうか、あのてっぺんまでいきたいのよね」
私が魔王城の最上部を指差すと、ベルンちゃんは親指をぐっと立てて、サムズアップをしてみせる。
「じゃあ、飛ぶよりこっちで」
「こっち?」
一瞬、視界が歪むような感覚に襲われ気がつくと……空が近くなっていた。
「えっ!? ここどこ!?」
「最上部」
パニックのままに周囲を見渡すと、確かにそこは空の隣とすら言える場所、魔王城の最上部だった。
魔物たちの石像のようなものが立ち並ぶその場所には、恐ろしげな雰囲気が漂っており、魔王の存在を感じさせる。
ちょっと驚いたけれど、安心安全に最速で最上部にこれたのは超ラッキーだ。
妹に魔王は具体的にどこにいるのか聞こうとすると……妹の姿はどこにもない。
というか、サキュバスさんもツバキ丸ちゃんもいない!?
「べ、ベルンちゃん、他のみんなは?」
「あいつらは正義くさいから無理」
「無理なことないわよベルンちゃーん!」
この一ヶ月、私が集中的に世話をしたことの弊害が出てしまった!
えっ、私、魔王城の最上部で一人きり!?
しかもサキュバスの格好で!?
そんなことある!?




