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第69話 惑わすな

 竹島は朝食のペレットを食べ終えた後、ケトルでお湯を沸かすと緑茶のパックを湯呑に入れた。

 (やっぱり朝はお茶がないと……何か気が散っちゃう)


湯呑に湧いたばかりのお湯を適量入れて待つこと1分、竹島は抽出を終えたパックを流しにおいてテーブルに戻っていった。


 (やっぱり美味しい……パックでも全然違う)

 少し口をつけると、緑豊かな味が口に広がる。渋みの少ない落ち着いた味である。


 竹島は少しだけお茶を啜ってほっと一息ついた。

 (こんなゲームをやっているとこういう落ち着くのが大事になるわ)

 そしてストックされたティーパックを見つめた。ゲーム終了前までの分はあるとはいえ、だいぶ減っている。

 (自分だけが心のゆとりを持っているのも申し訳ないって思って、妹尾さんたちにも配ったし……)


 (やっぱりそっちの方が落ち着けるのよね。独り占めしても多分嫌な気分になるだろうし……)

 再びお茶を飲むと、一層気分が楽になる。

 (妹尾さんは私と同じでケトルを持っていたからよくて、猪鹿倉さんは電子レンジでお湯を作れて、東さんと鈴木さんはなくても大丈夫って言ってくれたから……)


 (私、やっぱり全員で生き残りたいな……。こんなゲームをしているのにこんなこと考えるのもおかしいのかもしれないけれど……)




*



 時田たちの顔はどことなくこざっぱりとしているように見える。それはルール通りそこに来る前に喫煙を控え、着替えて口をゆすいでいることももちろん、後ろめたさを覚えることなく堂々としていられるからでもあるだろう。しかし、臭いものは臭い。悪臭は体中に染み込んでいる。


 「『透明な殺人鬼ゲーム』35日目を開始します。参加者は全員、いつも通り10分後に投票します。では、始めてください!」

 モニターの中のニニィがそう告げると、モニターは古いブラウン管のように消えた。


 「では、今日はどうしましょう?」

 真っ先に口を開いたのは藤田であった。


 「あれだろ。裏切り者探し」

 時田が投げ捨てるように言った。


 「と言っても、もう裏切り者なんていないんじゃない?」

 福本が妨害に入る。今日もこの2グループは対立していた。


 「んなもん分かんねえだろ? なあ藤田さん?」

 時田が問いかけると「まあ、そうですね」と返事が返ってきた。


 「じゃあ今日は何をするのよ」

 利原が冷ややかに口にした。藤田は「あーっと、ですね……」と言うばかりで特に何も具体的な話をしない。



 「そう……ですね」

藤田はたっぷりと間を空けて考えた。

 「せっかくですから裏切り者探しを行いましょうか。まず、その人の提案した通りにすると妙に上手く行く人物はいませんか? あくまでも考えるだけで名前を出す必要はありません」


 「それから、他のグループのリーダーと妙に親しそうな人物はいませんか?」

 参加者は頭を働かせる。

 (そんな人いないんじゃないの?)

 (俺らの中にはもういないだろ)


 「それから、『7SUP』で声をかけても反応が遅かったりする人物はいませんか? 他のグループのリーダーのところに言っていれば反応が遅れるでしょう?」

 藤田が数日前の台詞を繰り返していく。

 「最後に、いつも眠たそうな人物はいませんか」


 「あとは……何か条件はありますでしょうか?」

 藤田が問いかけた。返事をする者は……いない。


 「では、その条件で考えてみてください」

 最後に藤田がそういって締めると広間に沈黙が訪れた。


 (それ以外にないのかよ)

 (どうすればいいの?)


 誰も話さない。沈黙は続く。


 (早く終わって……お願い……)

 (あいつは? 違うわよね……)


 衣擦れの音がする。荒い呼吸音が聞こえる。隣とのひそひそ声は本当にひそひそ程度でしか行われていない。もし、大きな声を出して目立てばこの状況を打開する何かを求められてしまう。

 スマホを小さく操作する者もいる。誰かと「7SUP」で連絡を取っている。

 しかし時間は過ぎていくばかりである。


 「はーい、投票の時間でーす」

 ニニィの掛け声が聞こえると、参加者たちは暗闇の中で各々の思う裏切り者に投票をしたのか、あるいはまったく関係のない人に投票したのか、一瞬のうちの闇が明けると参加者たちは広間に戻った。


 「今日の犠牲者は藤田純さんでしたー」



*



 (ま、当然だよな)

 時田の内心は微かに表情に現れていた。

 (邪魔なだけだもんな)


 「始めまーす」

 藤田は透明なケースの壁を激しく叩いていたが、止めるものもなく叩いていたが、叩いていたが、突然鼻血を噴き出し、それを手のひらで拭うと同時に膝をつき、全身を震わせながら緩慢にケースの壁によりかかり、頭を抱え、涎を垂らして倒れ……死んで、髪の毛がはらりと抜けた。


 「あっ、安心してね。ケースの外には何も漏れていないよ。それじゃまた明日ね」

 ニニィは一声かけてからモニターとともに姿を消した。それとともに透明なケースも床に沈んでいく。




 体の自由が戻ると二瓶は急いでスマホを取りし「ガイガーカウンター」と呟いた。「ににぉろふ」は起動しない。

 (大丈夫なの? 本当に放射線は漏れていないの?)


 二瓶は混乱の中、渡辺と日高の手を取ると「カードキー」を使って自分の部屋に戻っていった。



**



 今日の犠牲者 藤田純

 一番大事な人 妻


 典型的な日本の公務員。責任を取らないようにすることに長けている。彼らの話をよく聞いていると、上手に語尾を操作しており、こちらの言いたいことをぼかし、曖昧な対応を取って誤魔化しに走る。公務員なのに己の保身と利益が最優先。

 まあそんな屁理屈が通じるかって普通の人は思うけれども、彼らの中や法律や裁判ってなってくると、その言い逃れがいい具合に作用してしまう。当然先代のやったことを否定しないので、不祥事は補償されることなく、新しいシステムが導入されるのも遅い。

 とは言え最近はそうでもないとニニィは思うよ。お役所に行くと結構分かりやすく説明してくれるし、仕事も速い(場合が多い)よ。まあ腐っているところは腐りきっているけれども。

いつも読んでくださってありがとうございます。


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