↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/77

第59話 排するな

 (今日、何かが起こるかもしれない)

 武藤は朝食後のお茶を飲みながら思った。


 (今日は……30日目……もう1ヶ月もこんなところにいるのか……。感覚が鈍っている……慣れ過ぎている……)

 彼は見事に磨かれた木製の座卓に反射する朧げな自分の顔を見つめた。ともすると血色がよくなっているようにも見えるし、この空間にいることに緊張もなく違和感もなく感じているように見える。


 (ともかく、今日、何かが起こるかもしれない。今日は5の倍数の日……5の倍数の日には何か、このゲームが大きく動く出来事がある……気がする)

 武藤は湯呑を持つ手と逆の手で何かを指折り数えた。

 (まず、吉野さんがメンバーを毒殺して投票されたのが25日目だ……)

 彼はまず初めについ4日前に起こったことを思いだした。彼が広間に入室したとき、既に隅の方に遺体が3人分並んでいた。わざわざ近づいてみることもなかったが、遠目からでもその光景はばっちり脳に焼き付いていた。微かな消臭スプレー独特の芳香もはっきりと記憶に残っていた。


 (野口君が死んだのが15日目……)

 武藤の頭に先に浮かんだのは話し合いを仕切りたがる野口の姿であった。それから彼の立ち回りが終わると、透明なケースの中で口をパクパクとしている姿が思い浮かんだ。武藤は頭をブンブンと振って記憶から追い出そうと試みた。

 (影山さんが死んだのが10日……)

 初日から参加者を引っ張っていく姿が浮かぶと同時に武藤はお茶を飲み込んだ。温かく豊かな香りと味が体中に染み渡り、グロテスクな光景に繋がる出来事を洗い流していく。おかげで彼は頭がザクロのようになる影山と関口の姿を思い出さずに済んだ。


 (全部、5の倍数だ……。25も、15も、10も……)

 武藤は体を震わせた。熱いお茶のおかげで体は温かいはずなのに、指先や足先に冷たい何かが触れたような感覚がする。

 (だからきっと5の倍数の日には何か運命的な物が定められているのかもしれない)

 そこまで思いついたところで彼は早速矛盾を見つけた。


 (5日目の田川さんはそんなに目立っていなかったし、話し合いでこれということもなかった)

 思い出せることといえば透明なケースに入った後、正中線から真っ二つになる姿だけであった。具体的なことを思い出さないように、武藤は思考を飛ばし飛ばしで回していく。


 (10日目は元々濱崎君が投票されていたし……)

 濱崎はいつも野口の近くに座っていた。その姿は割と印象に残っているが、それだけであった。死に方の方はただ何かでタコ殴りにされたようなものであるが、記憶に残っていた。


 (20日目は長堂さんだ……)

 彼女の場合、死ぬ間際よりも広間のフリースペースを使ってサッカーの練習をする姿の方が印象に残っていた。


 (彼らの死が何か影響力があったかというと……ない……。彼らが亡くなっても、話し合いの流れが大きく動くことはなかった……)


 3人の死が特に目立たなかったわけではない。その証拠に武藤はそれぞれの死にざまをはっきり思い浮かべることができてしまった。慌てて彼はお茶を口に運んだ。


 (それに別の日にも、もっと大事なことがある……。ニニィが参加者の一番大事な人を分かるようにしたのは18日目だし、それで君島さんが死んだ……)

 君島の死は自然と思い浮かんだ。その表情は比較的穏やかで、君島が騙っていたのかいなかったのか、苦痛を伴わないように見えていた。


 (松葉さんが死んだのは一昨日の28日目だ……)

 対して松葉の死に方も血しぶきが飛び散るようなものではなかったが、何かしらの苦痛を伴っていることは傍から見て明らかであった。


 (近藤が刃物を振り回して……宮本さんが亡くなったのは……3日目だ。5日目じゃない……)

 宮本の死体もまた衝撃的であった。先の数人とは異なり、血に染まった作業着や生臭い臭いが強烈に記憶に残っていた。


 (やっぱり5の倍数の日の話は関係ないかもしれない。第一……)

 武藤は唾をゴクリと飲み込む。が、喉に引っかかるような感触がして再びゴクリと喉を動かした。

 (全員にとって、それぞれの人生が最も大事なはずだ……。それに重みを付けること自体が間違っている……)


 しかしながら、彼は未だその考えに未練を残していた。

 (でも、もし5の倍数の話が正しければ……今日死ぬのは……水鳥さん、笠原さん、それから――)

 何故ならば、その考えに則れば……自分が死ぬことはないからであった。

 (時田さんと中川さんと……あとは……そんなところか。俺は別に目立っていないから今日死ぬことはないんだ……そうであってくれ……。この理屈が正しいなら、俺は死なずに済むんだ)


 武藤は少し冷めたお茶をぐいっと飲むとため息をついた。

 (でも5の倍数の理論なんかにこだわって油断をしていたら……狙われる。殺される…。そうだ……そもそもそんなわけないんだ。何日目であっても基本的に死ぬ確率はそう変わらないんだ。何日目であっても流れが大きく変わる可能性はある……一寸先は闇だ……)


 彼は咳払いをしたのち頭を抱えた。


*



 柘植は寝室に山積みにされた地方紙を飛ばし飛ばしにして捲っていた。隣に貼り付くように座っている瑞葉も同じように地方紙の山と格闘していた。


 (しかし……佐原絹江の名前は見つからない……無論、まだ全国を調べたわけではないが……)

 柘植は地方紙の特定のページをピンポイントで捲り、ざっと流し見た。探している名前はない。彼はすぐさま翌日の分に移った。


 (と言っても佐原の姓が多い地域はすでに調べ終わっている……S県、A県、W県、N県、F県……)

 再びざっと流し見るも、目当ての名前はどこにもなかった。

 (佐原の姓を持つ人物自体は見つけることはできたが、佐原絹江の名前にたどり着くことはできなかった……。さらに、仮に佐原絹江の名前が見つかったとしても、それが瑞葉の一番大事な人であった佐原絹江のことなのかを調べる必要がある。しかし現状、その取っ掛かりさえ見つからない……)


 (今は他の人の一番大事な人を見つけるついでで探しているが……全員のが見つかったら、いや、この作業を1周終えたら……その後も探し続けるか?)

 柘植はチラリと隣の少女を見た。熱心に地方紙を開いては数ページ捲り、隅に寄せてを繰り返していたが、柘植の視線を感じると手を止めてそちらを向いた。


 「瑞葉、何でもない。大丈夫だよ」

 柘植がそう言うと彼女は少しだけ不服そうにむくれたが、すぐにニコニコと微笑んだ。柘植と目が合うだけで嬉しくて仕方がないと言わんばかりである。


 柘植が元の作業に戻ると瑞葉もまた同じ作業に戻った。部屋の中には紙を捲る心地良い音が流れている。


 (瑞葉は……どう思っているのだろうか……。探すのを止めると言えば抵抗なく受け入れるだろうが……それが本心からなのかは分からない。私に遠慮するかもしれない)

 柘植は瑞葉にそれを告げた時の想像をした。……空想の中の瑞葉は柘植の考えた通りの反応をした。予想をしているのも考えているのも同じ人物なのだから、一致することに何も違和感はない。

 (佐原絹江の正体を把握することは……私たちが生き残る確率を多少は上げるだろう。しかし、労力に見合うかと言われれば……どうなのであろうか?)

 まだ完全にやりきったわけでもないが、望みが薄いように柘植には思えた。


 (まあ、見つからないのは悪いことばかりではない……)

 手を休めずに頭を動かしていく。一層集中する必要があるが、柘植にはその方が楽であった。

 (他の参加者が探そうといても見つけられないということでもある。下手に瑞葉の記憶がないことや今の一番大事な人が私であることを知られれば死につながる……)



 (しかし……必要なページだけを抽出してくれることがなかったのが残念だ。『何々新聞の地方欄のみ』と『ににぉろふ』に指示を出すことができるならば、ここまで大量の紙に囲まれることもなかっただろう)

 柘植は息を漏らした。2人は段ボールに詰められた大量の地方紙の山に囲まれていた。ベッドとサイドテーブル、それから2人が座っている空間以外には山積みにされた保存食などとともに新聞の山が置かれていた。


 (一応ここにある分と瑞葉の部屋に置いてある分を合わせて最後だ。見終わった分はどこかに分けておけば勝手に、というか無意識の内に自分でゴミだと思えば、部屋の方もゴミと判断して処分してくれる……。これはありがたいが……)

 柘植は調べ終わった新聞の山の上にさらに新聞を重ねながら思った。


 (特に何もなければあと数日で片付く……。次に何をするかだが……。空いたスペースには食べ物と飲み物でも置いておくか……いつ何が起こるか分からないからな……)

 地方紙の山を機械的に処理しながら柘植は考える。

 (それから……それから、やはり見つけた誰かの一番大事な人を掘り下げていく方がいい。再び広く浅くをやるだけの情報源はこのゲームで準備できるものの中にはない。それに、再びやって得られる情報量は明らかに少なくなる。やはり佐原絹江については諦めてもらう他ないのかもしれない)

 (それに、このゲームが終わったら瑞葉は元の家に戻ることができる。その頃には記憶も声も戻っているだろう。ニニィは元通りに戻ると言っていた。そうすれば佐原絹江の正体も判明する)



*



 (柳原さん……どこまで情報を漏らしていたんだろう……)

 袴田は生成り色の毛布を肩から掛けてソファの上で体育座りをしていた。部屋の中にいるのは彼女1人だけである。それ以外に音を出すものはない。

 (昨日、笠原先生も言っていたけれど……もし、守りの票を誰に入れているのか知られちゃったら……それ以外の人が無防備だって知られるのと同じだよね……)


 (怖い……)

 袴田は毛布をぎゅっと握った。

 (グループになっているから、もしかしたら、守りの票が集まっているかもしれなくて、だから投票先に選ばれないってこともあるのに……)


 (だって、昨日までは……長岡君が多分それで亡くなって……それ以外は大丈夫だったけれど……)

 彼女はぶるりと体を震わせた。今まで無防備であった日にもしかしたら死んでいたかもしれないと思うだけでその震えは止まらなかった。


 (今日、からは大丈夫だけど、今までの守りの票を入れる周期が知られちゃっていたら……推測されるよね……)


 恐怖で押しつぶされそうになる袴田に、一筋の光が差した。

 (待って……私が無防備だった日もあるけれども……笠原先生だって無防備だった日もあるし、先生の方がよく発言をしているから、言い方は悪いけれども狙う価値があるし……。でも、その先生がまだ生きているから、ということは……柳原さんも守りの票については話していなかったんじゃないかな? だって、裏切って仲間になったグループの方も一番知りたいのは笠原先生が無防備な日じゃないの……?)


 (だから柳原さんも、その……後ろめたさとかじゃなくて、単純に自分の居場所が壊されたら死ぬ確率が高くなるから……言わなかったんじゃないかな……)

 しかし、袴田に不安の影がまたしても襲いかかった。

 (でも、それとも、笠原先生を狙わないっていう条件付きで守りの票を誰にしているか教えていたとしたら……)

 袴田は膝を胸に寄せた。

 (そして、私たちが誰にどうやって守りの票を入れているのか、その法則に気付かれていたら……全然安全じゃない……)


 (笠原先生に言って、守りの票を入れる順番を変えてもらって……違う……)

 彼女の呼吸はいつも間にか荒くなっていた。

 (守りの票が誰にどんな風に入っているのか分からないから意味がある……。分かっていると思われているだけで意味、ない……。だって……確率的にそっちの方が大きいんだから……。それに、今の笠原先生がそんなことを聞いてくれると思えないよ……)


 (柳原さんは言っていなかった、言っていなかったはず……。だって、私たち、長岡君以外、投票で選ばれていないんだから……佐藤君のは例外で、そうなんだから、きっと言っていないはずだよね……。もし言っていたらもっとたくさん犠牲者が出ているはずだし……)

 毛布を体に巻き付けながら袴田はそうであってほしいと強く念じた。強く思えば思うほどそうなってくれるとも言わんばかりの祈りようであった。



*



広間には何人かの参加者が滞在していた。何かしらの目的があってか、あるいは単に早め早めでゲーム開始に間に合うように来ていたのか、とにかくそれぞれがそこにいた。そこに新たに訪れたのか妹尾だった。


 (っと……どこに座ろうか……)

 ざっと広間を見渡すと、壁に寄りかかって座る参加者と、広間中央に白いブロック群に腰を掛ける参加者の姿が見える。妹尾はすぐに壁際の人のいないところを目指した。誰彼の視線を感じるが、彼女はそれを無視して目的地にたどり着くとそこに腰を下ろした。


 (今は別宮が見張りに着てやがります)

 妹尾が真っ先に目を向けたのは同じグループと言えば同じグループの別宮だった。彼女は白いブロックに座りながらタブレットで何かを読んでいた。しかし、本の内容に集中していないことは明らかであった。

 (松葉がいなくなってもやっていることはあまり変わらないですね。でも、松葉がいなくなった分、グループの勢いは大分弱まっている)


 妹尾は端からざっとそこにいる全員に目を向けた。

 (まず……水鳥のところの中津と加藤がバラバラに座っていやがります。私と同じように監視に来ているんですね。よく見かける2にんですし。また5日前みたいなのが出てこないとも限らないですからね)


 (それから……)

 次に自身と同じく壁際に座る高邑に目を移した。

 (あいつは時田たちのグループから来ているやつですね。といっても、何か目的があるというより、単に広間にきているだけに見えるんですよね。……時田たちはあれでいてそんなに死んでいやがらねえんです。野口たちの残りとも上手く協力し合っているみたいですし、意外とやり手がいるのかもしれねえです。ま、野口たちの残りはもう勢いはなくて数合わせくらいにしかなっていなさそうですが)


 そこから視線を横に動かしながら妹尾は広間の壁際に目を通した。

 (あとは有象無象がいるばかりですね。グループを作っていない連中に、笠原のところの……小野がいやがります。最近はよく見かけますね。あのグループは大丈夫なんでしょうか? 笠原も中々イかれてやがりますし……。って、私が心配することでもないですけど……)


 (後は……ブロックに座っているのだと……)

 妹尾は視線を別宮に向けるとその左方を目にした。

 (古柿がいやがります。吉野が死ぬまでは広間で見かけることは少なかったですが……大量に人数が減ったせいで色々変わっていやがるみたいです。吉野の死とあと3人の死のせいで勢いは大きく削がれているし、後のメンバーに吉野並のリーダーシップもないですから、もうグループとしての力はないようなもんですね)


 妹尾は古柿をチラチラと見始めた。

 (グループの力関係もだいぶ変わっていやがります。まだ勢いを残しているのは時田のグループですね。あそこは何故か変わらないです。笠原たちも変わりませんが元々勢いなかったですし)


 目線を少し外し、妙な動きをしたら分かるようにしながら聞き耳を立て、妹尾は相手から注意を逸らさないように集中する。

 (弱まっていてもまだ力があるのは水鳥たちですか? 水鳥のカリスマで保っているグループだから奴のいる限り何とかなりそうですね)


 (後は、私たちもだいぶ弱くなっていますね。猪鹿倉さんには悪いですけれども、影山さんや君島さんが亡くなって私たちの発言力はかなり失われています。それから、藤田のグループと笠原のグループは元々勢いがない連中ばかりですし。リーダーを失って完全に弱体化したのは野口たちのところと吉野たちのところですね)


 古柿は何か本を読んでいる。

 (野口たちは時田たちに寄生しているとして、吉野のグループは吉野なしにどうやっていくのか、よく見ておかないとどうなるか分かったもんじゃねえです)

 妹尾は再び広間全体をざっと眺めた。

 (やっぱり要チェックなのは古柿ですね)



*



 定刻になると広間の照明は落ちた。

 「はーいっ、『透明な殺人鬼ゲーム』、30日目の始まりでーす。参加者は全員! 投票は10分後! では、開始してください!」

 モニターの中のニニィは何故かバトンを回しながらゲーム開始の合図を告げると、その姿を消した。


 「さて、今日も裏切り者を見つけるということでいいでしょうか?」

 開始早々水鳥が音頭を取った。


 「ええ」

 「そうですね」

 笠原と藤田がそれぞれ賛成をする。反対意見は……ない。今日の話すテーマが決まったところで藤田が立ち上がった。

 「昨日のリアクションを見る限り、明らかに裏切り者と分かる人物はもういません」


 「ンなこと分かってんだよ」

 時田がヤジを飛ばすが藤田はものともしなかった。

 「ですから、裏切り者を見つけるための簡単なフローを説明しましょう」


 「まず、その人の提案した投票先に従うと妙に上手くいくという人物はいませんか? スパイをしているということはグループの投票先をスパイ先の投票に合わせることができますから、その投票通りの結果が得られる確率が上がります」

 藤田は自信に満ち溢れた顔つきで全体を見渡した。


 「そうやってそいつに投票先を合わせんのか?」

 中川が大声で注目をかっさらおうと試みる。

 「その通りです。ですから、わざわざ誰、と口に出さなくてもいいはずです。全員の頭の中で候補者が浮かび、結局、名前を出さずともその裏切り者に票が集まって選ばれるわけです。もちろん裏切り者の方は自分が選ばれそうだと思ったら名乗り上げて弁明することもできますが……いますでしょうか?」


 当然誰も名乗り上げない。責任逃れの方法に苛立ちを見せる者はいたが、それくらいだ。


 「ああ、要は俺たちはお前の言ったようにしていればいいってことか?」

 時田が冷たい視線を向けた。


 「はい。その次ですが、違うグループのリーダーと思われる人物たちに妙に親し気な視線を向けている人物はいませんか?」

 藤田は意気揚々と再開した。


 参加者たちは藤田の指示に従って裏切り者を特定しようとしている。あるいはまったく相手にすることなく他の参加者の顔色を窺っている。


 「それからですね、例えば『7SUP』で声をかけても反応がやけに遅かったりしませんか? 他のグループのリーダーのところに行っていればすぐに反応できませんからね」

藤田は意味ありげに足を開いた。

 「それとも眠そうにしていませんか? 裏切り行為を夜中の内にやっている可能性がありますからね」


 藤田の誘導は特にクリティカルな質問でも何でもなく、当たり前のことを言っているに過ぎなかった。しかし、その当たり前が裏切り者を見つけるのには重要であった。


 「後ろめたくて目を逸らすなどはないですね。昨日みたいなことがあっても平然としていますし、むしろ正当化している感じです」

 藤田がチェック項目を増やしていく。


 「つうかそんな一気に言われても出てくるものも出てこねえって。紙かなんかにまとめろよ」

 中川が自分の不出来を逆手にしてケチをつける。


 「そうですね」

 水鳥が滑らかに入り込んだ。

 「1.投票先の予想がよく当たる人物、2.他グループのリーダーと親しげ、3.『7SUP』の返信が遅い、4.眠そう、5.怯えていないというようにまとめられますね」


 「最初から水鳥みたく分かりやすく言えばいいんだよ」

 中川が毒を吐きかけた。


 (自身が劣っていることを認めたくないんでしょうね)

 藤田はいつも通り心の中でブルーカラーを見下すと「まあ、そういうようなことです」と適当な相槌を打った。


 「ねえ、それって……」

 「ぽくないか?」

 方々からひそひそ声が聞こえる。

 「なあ、あいつの言っているやつって、当てはまるよな……。あいつに……」

 「あいつだろ? 俺もそう思った……」


 「それからですね――」

 藤田が新しく付け加えようとする条件は前述したものとそう変わらない。水鳥も笠原も他の条件を口に出そうとしない。

 (誰も反対しない……これなら思った通りに行けそうだ)

 藤田は心の中でニヤケ顔を浮かべていたが――。


 「なあ、出澤さん? あんた当てはまり過ぎてねえか? 藤田の言っている裏切り者の条件によぉ」

 時田が突然声を張った。


 「え?」

 藤田が素っ頓狂な声を上げる。


 「だからよ、お前の話通りにすると出澤さんが裏切り者ってことになるんだよぉ!」

 時田は大声のまま肩を張った。


 「いや、でもそれは言わないでおく手筈だったと思いますが……」

 顔を赤くした藤田がしどろもどろに説明するも、もはや手遅れであった。

 「私ですか? そんなわけありませんよ、裏切るだなんて!」

 出澤が肩を怒らせて叫んだ。


 「いや、そうじゃなくて……」

 藤田が何かを言おうとするも、とっさに言葉が思いつかない。

 「何にしても出澤さんには弁明の機会を与えるべきでしょう」

 その隙を水鳥は見逃さない。見事に言葉を滑り込ませた。


 「だよな!じゃあまず、出澤さん誰とでも仲良くしているじゃねえか? あれ、何なん?」

 早速時田が眉間に深く皺を寄せる。


 「いやー、あれはですね、まあ、偶然ですよ。人と仲良くなるのは子供のころから得意でしたからねえー」

 先程の怒りはどこへ行ったのか、出澤は愛想笑いを浮かべる。しかし、時田たちの感情を静めることはできなかった。


 「じゃあ、あれよ、眠そうにしていたのは何なんだよ?」

 中川が眉を吊り上げるも出澤は表情を変えない。

 「……いやあ、それは単に寝付けないからですって」


 「んなわけねえだろぉが! ベッドに入っていれば勝手に眠くなるだろ!」

 「いやあ、そう上手くいかないのが人間の性分でして……」

 中川が吠えるのを出澤がなだめすかす。しかし――。

 「いや、あのベッドに横になっていればすぐに眠れるだろ」

 今度は時田が余計な口を挿む。


 「いやぁ、私は元々寝つきが悪くてですね、中々……」

 出澤は親しみを顔に貼り付けて対応するが、全く信用されていない。


 「待てよ。出澤さんが投票先に口を出した後って……結構上手くいってね」

 「偶然ですよ、偶然」

 だんだん言い訳が苦しくなってくる。


 「でも、藤田の条件の5つ中、4つも当てはまるじゃねえか。予想がよく当たって、他のグループのリーダーと親し気で、眠そうで、怯えていない。もうお前だろ、これ」

 中川が牙を剥いた。


 「いやいやこれはですね、バーナム効果といいまして、漠然とした言葉が何にでも当てはまるように聞こえてしまう心理学的なものですって」

 出澤はわざとらしくたじたじと振舞う。


 「そうか?」

 時田は頭に疑問符を浮かべて数秒間黙り、静寂を破った。

 「おい、今関係ねえ奴のこと考えたけどよ、全然当てはまらねえぜ」

 そのこめかみには青筋がはっきりと浮き出ている。


 「いやあ、それはそう思うから逆に当てはまらないように見えてしまうんですよ、とにかく、参ったなあ……」

 一触即発のような怒りを時田や中川から向けられていても出澤はあくまでも余裕の振りを続けていた。そうしなければ……死ぬからだ。しかし、脂汗がダラダラと体中から出ているのは明らかであった。


 「畚野はどう思うよ?」

 時田は隣に座る男に声をかけた。男はビクリと背中を震わせると、「やっぱそう見えてるってことはそうなんじゃねっすか?」とシンプルな相槌を打った。


 「畚野さん、考えてくださいよ。僕がそんなことするはずないでしょう?」

 出澤は相手の良心に訴えかけるも、畚野は無視をした。


 それから、中川と時田は周りのメンバーにどう思うのかを尋ねていった。その度に出澤は否定の言葉を繰り返していく。


 「大体僕がそんなことするはずないじゃないですか? ずっと一緒に協力し合っていたでしょう? 時田さん? 中川さん?」

 偶に違うことを言おうとすれば、水鳥が聞き取りやすい声で全員に向けて言葉にする。

 「自分からそういうのは却って怪しく聞こえますね」



 「終了! 投票の時間でーす」

 ニニィの掛け声とともに参加者たちは暗黒の中に閉じ込められると、そこで投票を行った。藤田の指示通りの人物はいったい誰になるのか、出澤になるのか、それとも……投票をしながらわずかに考えて、そして――。


 「今日の犠牲者は出澤信也さんでしたー」




*



 (なるほど……。どうやら上手くいったみたいですね)

 藤田は他の参加者の――特に時田たちのいる辺りを遠目で見た。あれだけ色々と言った分、誰も意外そうな顔をしていない。むしろ怒り半分すっきりした感じ半分と言ったところだ。つまり、藤田の誘導によって透明なケースの中に入れられた出澤は彼らから見たら裏切り者であった。


 「それじゃ、始めるねー」

 ニニィが間延びした声で言うと、参加者の意識は透明なケースの中身の方へ強制的に向けさせられた。



 出澤は脂汗をびっしょりと流しながらニニィに向かって土下座をしていたが、ふと耳元の空に手をやるとそこに何かがいるかのように払った。しかしまたしてもすぐ反対の耳の方に手をやり、また反対と手をやって、両手で耳を強く塞ぎ、大きく口を開けて、うずくまり、ぎゅっと目を瞑り、次第に出澤の体は細かく振動し、細かく激しく振動し、開いた口から蒸気が立ち、そのままの形で横に倒れて振動し、全身から白い煙を出して……死んだ。


 「それじゃ、また明日ねー」

 ニニィがモニターとともに姿を消すと透明なケースが床に沈んでいく。沈み切ったところで参加者は体の自由を取り戻すと、あっという間に姿を消していった。

 (これからは私が中心となってゲームをすすめるということですね)

 藤田はニヤリと口角を持ち上げると意気揚々とスマホを操作して、そこから姿を消した。




**



 今日の犠牲者 出澤信也

 一番大事な人 娘


 誰にでもよい顔をする八方美人。自分が常に飴役を担い、常に誰かに鞭役を押し付けることで今までの人間関係を乗り切っていた。

 自分が誰かと誰かを仲介することで役に立っており、またその人たちをコントロールしていると思い込んでいるが、情報伝達においてただ邪魔なだけの存在である。人脈は大事だし人付き合いも大事だけれども、それは自分の中身が伴ってこそのものであって、すっからかんの責任逃れじゃ、ねえ? そういう奴周りにいるでしょ? でも、そういう奴に限ってその手の立ち回りだけは一人前なんだよね。大体権力のある能無しとの間にあるコネを使ってまともな考えの人を妨害することが多いし。

いつも読んでくださってありがとうございます。

もしよかったら、ブクマ登録評価感想のどれか1つでもいただけますと本気で助かります。それが執筆のモチベに繋がります。書籍化できるかな、なんて幸せになれます。

<(_ _)>どうか、お願いします。本当にどうか、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。