第50話 救え
今月は頑張れるのか? 早くも雲行きが怪しくなってきましたが、何とかやりたいと思います。
笹川と山田は早々に終わったミーティングの後笹川の部屋に集合すると、遅めの夕食を摂り始めた。
2人が今夜のメニューに選んだのは味噌ラーメンであった。笹川と山田が用意したものはそれぞれの好みに合わせられた異なるものであったが、どちらにしても極上の味であることには変わりない。
北国の旨味がギュッと凝縮されている中太の黄色い縮れ麺に濃厚なスープが絡みつく。一気に啜り咀嚼すると抜群の旨味が口いっぱいに広がり、胃袋まで流れていく。今まで寒空に長居していてやっと屋台でありつけたかのような幸福な熱が体中に染み込んでいく。室温も勝手に下がっていくことで旨さを一層に引き立てる。
「美味しいね」「うん、美味い」
メンマは歯ごたえにアクセントを加え、トウモロコシは濃厚なスープの塩気を緩和する。チャーシューは箸でギリギリつまめるくらいの柔らかさで、口の中に放り込めばそのままトロリと溶けそうなくらいである。違いと言えば山田の方には爽やかな甘みを加えるバターが載せられており、笹川の方にはちょうどよくしんなりしたもやしがトッピングされている。
あっという間に丼は空になった。温かいものを食べたことで彼らの疲弊した心はゆるやかに落ち着いていった。
食後の余韻に浸る山田は俯くと「別に容姿……僕も人のことを言えないんだけど……」と弱々しく呟いた。
「いろいろ考えがあると思うんだけど、個人の自由、だよね。ほら、今日死んだあの、吉野さんとか見ていたら……」
2人の脳裏に今日に限らずこれまでの話し合いの際に立ち回る吉野の姿が浮かんだ。その姿はあまりにも醜かった。
「うん。僕もそう、思う」
笹川はややどもりながらも賛成する。
「それに、あるフリゲ、あっ、フリーゲームに『魅力』ってパラメーターがあるんだけど、その数値が高いとアイテムを高値で売って安値で買えるんだ。他にも演奏とか色々なスキルと関係しているんだけど別になくてもゲーム自体は進めることができて……」
考えのまとまらないうちに話し始めたせいで、笹川はだんだん何を自分が話しているのかよく分からなくなってきた。しかし日頃小説を書いているおかげで何とか話しながら軌道を修正することができた。
「じゃなくて、それで、ゲームってことは装備やバフがあるじゃない? 魅力のパラメーターを上げる装備もバフも当然あるんだ」
「あっ、うん、ゲームの基本だよね」
山田は素早く反応した。
「魅力のパラメーター自体を上げてもいいし、装備で上げてもいいし、バフをかけてもいい。プレイヤーがそうやってゲームを進めていってもいいし、別に筋力と耐久を上げて脳筋プレイでもいいし、魔力上げて魔法覚えて色んな状況に対応するのでもいいし」
笹川は何度も周回したそのゲームのプレイスタイルを並べていく。それほどのめり込むくらいに面白いのであるが、またしても本筋から逸れかけていることに気付いた彼は「じゃなくて」と言って話を戻した。
「だからさ……、現実でも、別に……、魅力のステータスを上げるのに化粧することもいいし、そうしないで別のパラメーターを上げて、人生を攻略していってもいいと思うんだ。化粧するのもしないのも自由だし……ってことは、こっちも相手の魅力のパラメーターで対応変えてもいいんじゃないって……」
「そうだよね……。普通の店だとないかもだけど、個人でやっているところだったら、美男美女相手なら割引とか1つおまけとか、普通にあることだよね」
山田は一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をした。
「人間関係を有利に進めるのには見た目とか……あと、愛想とか、大事だよね。実際、そういう研究結果も出ているし」
「うん……。それに、元々の魅力の数値が高いのも実力だと思うし羨ましいけれど、それを伸ばすかどうかも個人の自由だと思うんだ。自分にできないんだったら別の部分で勝負するのも生き方なのかな……って」
笹川は俯き続ける山田をちらりと見た。表情は変わらず暗いままである。
「だよね……。吉野さんは……正直直視できない顔だったけど、多分、いろいろ勉強して、他人と交渉して、それで今のポジションとか、貯蓄とか手に入れたんだと思うし。まあ、上級国民だったから元々のベースが違っていたのも大きいと思うけど……」
だんだん山田の声がはっきり聞き取りづらくなっていく。
「うん……あとは諦めるのも手だよね。僕たちは上級国民みたいな生活できないし、親がそうじゃなきゃ遺伝もコネも貯金も……ムリじゃん……」
「そう、だよね……」
笹川は歯切れの悪い相槌を打った。
(言えないよね……。僕は中級国民の高校生だけど、ラノベ書いて何とかうまくいっているなんて……)
彼は経験上知っている。それが知れ渡れば妬み嫉みが始まって、根拠のない嫌がらせが始まり――。
(成功しているんだから我慢しなきゃ、とか言われるんだよね……。山田君がそんな人か分からないけど……でも……)
*
吉野がいなくなった場合どこでミーティングを開くのか、彼女のグループの間でこの話題が出たことはなかった。吉野の死はこのグループにとって全くもって予想外の出来事であったのである。しかし現実、起こってしまったのだからどうにかしなければならない。
にも拘わらず、特に揉め事もなく、ぱっと立候補した福本の部屋が次のミーティングルームに決まった。
「みんな、揃っているわネ」
部屋の主は全員の前に立つと部屋の装飾に似つかわしくない事務的なホワイトボードを背に、あまり張りがない声を出した。
メンバーの顔つきは一様に暗い。自分たちの防護壁となっていた吉野がいなくなり、昨日まで顔を合わせていた3人とも二度と出会えなくなり、一気にグループの勢力を失い、少なからず信用していた吉野に毒殺されていたかもしれなかった。
(吉野さんがあんなことするなんて、ホント、危なかったわ……)
室賀は寒気を覚えた。これまでもらって食べた菓子そのものを見るのも嫌なくらいでる。
「これから、どうする?」
まず音頭を取ったのは部屋を開放した福本であった。しかし、吉野が指揮を執っていた時のように建設的な意見がすぐに出されることはなく、みな黙りっぱなしである。
「どうするって……」
少ししてようやく利原が声を漏らしたが、それは全く回答になっていなかった。さらに声を出したというだけで他のメンバーよりも目立つこととなり、注意を引く結果となった。
福本らの視線を浴び続けた利原は眉間に皺を寄せて床を見つめていたが、やがて顔を上げた。
「とりあえず、今までやっていた役割はこれからも続けるってことでいいでしょ? いなくなった人の分は……元木さんの代わりを誰かがやるってことで大丈夫じゃない?」
今日欠けたメンバーの中で替えが利く役割を果たしていたのは元木だけであった。夏里と御法川は元々大した仕事はしていないし、吉野の代わりなど誰にもできることではない。
「なら誰がする? って言っても、何もしていない人ってもう……」
福本は全員の並ぶ顔を端から端へさっと眺め、ある1人に目を付けた。能力的に選択肢は限られている。他のメンバーもその人物に視線を向けた。
「わっ、私がやりま……しょうか?」
古柿がおずおずと手を挙げた。
「いいの? ……じゃあ、お願いしようかしら」
「そうね、それじゃあお願い」
彼女たちは空気を読んで名乗り出た古柿に役割を押し付けるとそれ以上余計に何かを言うこともなく再び黙った。
「あと、一応、こうだと思うんですけれど……」
今度は大浜が小さく開いた口から声を出した。
「私たちのグループの人数、減ったでしょ? それで、3人が亡くなったことは本当に残念だけど、まだグループ同士の潰し合いみたいなことが起こっているみたいだから……私たち、一旦その争いからは、離れることができたって考えてもいいんじゃないですか?」
「確かに、そう考えると……少しだけ……」
依藤の言ったように、その考えは彼女たちにわずかな笑みをもたらした。
「それで、明日の投票先は……誰になるの?」
鰐部が震える声で誰かしらに尋ねた。
(なるの? って、私たちで決めるんでしょ?)
福本は毒づくも心の中に止めている。死にかけたかもしれない人間に鞭を打てば自分がグループから外されてしまう。しかし片眉はピクリと動いていた。
「中川は? それか、時田は?」
真っ先に室賀が提案した。しかし、とりあえず思いついたことを口にしているだけというのが表情からも、タイミングからも、福本にはよく分かった。
「あの2人は守られているから難しそう……じゃないですか?」
政所が首を傾けながら目線を合わさないようにして柔らかく否定する。
「だったら畚野でいいんじゃない?」
再び室賀が提案する。またしてもあまり考えずに話していることは明白であるが、こちらの方はまだ可能性があると福本は思った。同じく、政所を含めた他のメンバーも否定の言葉を放たない。
(でも……)
福本は手のひらを見つめ、指をピクリと動かした。吉野のいない今、物事をはっきりと決めるための何かが欠落している。
「だったらまた明日の朝も話しましょう?」
「明日?」
部屋の中が、ともするとキーンと耳鳴りが聞こえそうなくらいなまでに一層静かになった。
(明日の朝? 今までみたいに仕事がないときは自由でいいんじゃない?)
室賀同様、ほとんどのメンバーは諸手を挙げて賛成していない。
「多分、今思いつかないことって明日になっても思いつかないかと……」
利原は福本をじっと見つめた。
「そう、よね。でも、明日また話すのは……」
福本は手のひらから目を逸らすと拳を握り「やっぱり、明日は畚野にしましょう?」とやや力のない声で言った。誰も反対することなく、かと言って明確に賛成することもなく、この話は終わった。
「吉野さん、いなくなったのよね……」
利原がぼそりと言った言葉はただの事実確認のようで、しかし、吉野並の仕切りを行えない福本に対する当てつけのようにも聞こえた。
(これで2000万円はなくなったのよね……)
室賀には思い描いていた使い道があれこれとあったが、それが水泡に帰したことを改めて実感してしまった。
(ああ、ローンが……)
(でも……死ぬよりはマシ……なのよね? だってあのまま吉野さんが残っていたら私だって毒とかで殺されていたかもしれないし……)
他のメンバーも心のどこかで2000万円を失ったことを思い出し悔やんでいる。
「あっ」
室賀が唐突に沈黙を破った。
「そう言えば、福本さんが次のリーダーになったのよね?」
部屋にざわめきが生じる。概ねが先の発言を肯定するようなものであり、当の本人も否定していない。
「福本さんは生き残ったら私たちに何をくれるの?」
しかし、部屋は再び静かになった。
「冗談よ、冗談。こんなときにそんなこと本気で言うわけないじゃない」
室賀は笑いながら手を上下に動かした。
*
時田の部屋は大勢の笑い声が、グラスが割れそうなくらいに響いていた。彼らは紫煙でくすんだ照明の下でアルコールを飲みながら、ステージ台の上で繰り広げられる素人芸の数々を鑑賞し、また自身も演者となって技を披露していた。
「水野、三転倒立しながら灯油ポンプで芋焼酎飲みまーす!」
片手を上げてそう宣言すると水野は口にポンプの端を加え、四つん這いになって頭を床面につけた。
「いや無理だろ!」
「ワンちゃんあるんじゃね?」
時田と中川がビールを片手に予想する。台上では水野がデモンストレーションとして軽く反動を付けながら真剣な顔をしていたが、覚悟を決めると「ひひあーす」とくぐもった声を出した。
彼は勢いをつけて両脚を天へと持ち上げた。そして、メンバーが期待と不安の入り混じる視線で見つめる中――。
「ごへっ!」
無理だった。焼酎は気管の方に流れかけ、反射的に呼吸をしようと体が動くも口は焼酎で塞がっている。
「げほっ、えほっ、おえぇ」
口から透明な液体を吐き出す姿に爆笑の嵐が起こる。水野は口を押えながらペコペコと頭を下げて台から降りて、そのままダイニングの死角の方に消えていった。
「次! 次!」
時田が誰ともなく次の芸を要求するとジョッキのビールを勢いよくあおった。中川が隣にいる三石の肩をパンと叩く。
「お前行けよ、おい!」
彼が今日、特に盛り上がっている理由は明らかである。このゲームにおけることはもちろん、単純に生きているのみにおいても目の上のたんこぶである、気に入らない参加者の吉野がいなくなった。まして、今日はそれ以外に3人も死んだのである。一気に自分たちが生き残る可能性が上がったのだから盛り上がるのも無理はない。
「あーっと……」
三石は考えるような音を出すと、誰かの椅子の脚に蹴りを入れつつ壇上に上っていった。
「水野さん越えある?」
「いやあれはハードル結構高そうだわ」
高邑と田名網は若干引きながらもステージの方に意識を向けている。
三石は他の参加者に背を向けながらスマホを何度か操作すると、何かを「ににぉろふ」で取り出した。
「これ、こうします」
振り返った彼の口には何かが入っていて、少しはみ出したものが見えている。それがクラッカーであると周りが気付くか気付かないかのうちに三石は思い切り紐を引っ張った。強烈な破裂音が時田の部屋に炸裂する。
「あ、終わり」
三石は耳を小指でほじりながらステージの上から降りた。
「おい、平気なん?」
三石が席に戻ると中川はその背中に尋ねた。
「いや、結構キーンてなる」
「だとよ! あれ、やっぱすげえわ。普通出来ねえって」
中川の声を合図にして彼らは大きく手を叩いた。
宴会は狂ったように盛り上がる。昨日加藤が死んだことなど誰も話題にしていない。心に眠気もハイテンションで消えていく。
「水野さんダイジョブっすか?」
「いや結構吐いた。やっぱ無理するもんじゃないわ」
ようやく戻ってきた水野に畚野が尋ねた。
「次ぃ! 橋爪ぇ!」
時田が怒鳴りつけるような大声で橋爪を台の上まで上がらせる。
「まじで超えろよ! レベル下げんなよ!」
「じゃあ、じゃあ、あれ! キャンプファイヤーやります!」
プレッシャーに押されながらステージ上に上がった橋爪は目の焦点が定まっておらず、汗をダクダクとかいている。彼は学ランとワイシャツを脱いでステージの隅に放り投げると上半身裸になった。部活で鍛えた肉体が露になる。
(やっべ、いい筋肉……)
小嶋は熱っぽい視線を送り、他のメンバーも期待の籠った視線を浴びせる。あれ以上の迫力のある「キャンプファイヤー」をもうすぐ見ることができる。
「いきっ、いきます!」
橋爪は左腕を高く掲げると右手でライターに火を灯し、「なろう規制」にかざした。たちまち焦げ臭さが元々漂っていたタバコの臭気に混じり合う。
「キャンプッ、ファイヤー!」
「おまっ、それは反則だろ!」
笑いながら時田が突っ込みを入れると、橋爪はほっとした表情を取った。そしてそのまま左右に回転して燃えている部分が全員によく見えるようにした。
しかし、演者の予想に反してそれ以上火が燃え広がることはなかった。汗をかいていたことも含め、それは案外燃えにくいものであった。油を塗っておくかを何かをすればタイトル通りキャンプファイヤーのように煌々と燃えたのかもしれない。ただ、何にしても熱いことには変わらないと橋爪の表情が物語っている。
「いや、まあ、うん……」
予想とは異なる結末に時田は何とも言えなかった。しかし、これ以上派手なことをすれば怪我人が出かねない。結局彼は橋爪に「ナイスファイト!」と声を送り、それで終わらせた。
しかし無論、彼は橋爪の身を案じているだけではなかった。自分の芸を凌駕するものが披露されるかもしれない。そうなれば今の地位も危うくなりかねない。潜在的にそう見抜いていた。
やや勢いが下火になったものの、宴会が盛り上がっていることに変わりはない。タバコの煙が部屋中に充満し、ビールや焼酎のにおいと混ざり合っており、そこで焼鳥や唐揚げや枝豆や……とにかく腹の空く間もないほどである。
「あ、じゃああの芸人のネタっぽいことやります」
ステージ上にいる坂本が大声で言い放つ。
「神は言いました。紙がなくて尻が拭けねえ!」
「天にマシマシニンニクマシアブラカラメ」
「神は言いました。髪がなくて禿げ頭!」
「天にマシマシニンニクマシアブラカラメ」
「神は言いまみた。噛みまみた」
「天にマシマシニンニクマシアブラカラメ」
「神は言いました。私の加護は腹痛の人とたくさんお金をくれた人だけにあるのです」
「天にマシマシニンニクマシアブラカラメ!」
*
鈴木は長めのミーティングを終えた後でようやく自分の部屋に戻ると慣れた手つきでネクタイを緩め、ジャケットをハンガーにかけた。それからすぐ彼はアプリの「ににぉろふ」を立ち上げ、スマホに向かって「ペレット、水、日本酒の冷」と声をかけた。あっという間にテーブルの上にそれらとおしぼりが現れる。
椅子に座るとまず彼は徳利からお猪口に日本酒を注ぎ、静かに口をつけた。遅い夕食のような晩酌のような、残業で帰宅が遅くなったときのような気持ちに鈴木はなった。しかし、そこには妻の声も子供の姿もない。
(……)
彼はすぐにその温かい光景に蓋をすると、その幸せなイメージから意識を逸らすように今日の話し合いと関連するこのゲームで生き残るにはあまり意味のない考え事を始めた。
(私たち人間は動物だから、やはり子孫繁栄が遺伝子の中に組み込まれています。あくまでも本能の話で、決して差別意識があるわけではありません。ですから……潜在意識で健康的な姿に惹かれるものです。左右対称の体つき、顔つき、美しい肌つや、発達した筋肉、適度な脂肪、病気になりにくい肉体……)
動物は進化の過程で生き残り、次世代にバトンを渡すことで今日まで多くの種が生き残ってきたことは否定しようがない。
鈴木は頭の中でプレゼンをするように話を組み立てていく。傍から見ればただ食事をしているだけであるが、彼は大体のことを話せる第三者と会話しているような状況を想像していた。
(だからですね、いわゆる美男美女に対して異性が贔屓するのは、当然のことではないでしょうか? 別にその手のことを考えているかどうかは関係なしにですね、そういうものだと本能に刷り込まれているわけですから)
従って、一般常識を基にした反論めいたものも想像していた。
(もちろん差別することは決して許されることではありません。ただの区別です。人間は動物ですから、そういう本能で動くのは何も間違ったことではないと思うのです)
鈴木はペレットを1粒袋から摘まみ出すとしげしげと眺めた。酒の肴として食べると何となくツナの角煮を乾燥させたもののような味がするのである。
(飽食の中でも人間が未だ糖や脂質を必要以上に求めるのですから、スナック菓子やファーストフードが廃れないのでしょう。それも人間が昔から持っている生物の本能で、似たようなものですよね……)
(何のために生きるのかというのは哲学的なテーマではありますし、いろいろな考えがあることは理解していますが、人間、あるいは動物としての宿命の1つに後世に遺伝子を残すことがあるのはまあ、事実でしょう)
鈴木は体が温かくなるのを感じた。水もペレットも常温であり、日本酒はそれ以下であるが、アルコールとペレットの組み合わせが余計に体を火照らせている。
(栄養、エネルギーを摂る、身を守る、そして、より後世に残りそうな遺伝子を持つ相手と遺伝子を残す……。それをのべつ幕無しに否定するのは何とも言えません)
(私たちは人間として当然差別などしてはなりませんが、しかし、完全に平等に扱うことなど不可能でしょう。つまり、差別ではなく、公正に扱うということです。人間は動物なのだから、その本能を完全に排して生きることは無理でしょう)
ペレットはあっという間に鈴木の胃袋に収まった。最後に1杯だけ残った日本酒を名残惜し気にちびちびとやりながら彼は大分ぼやけた頭で考えた。
(片方に偏るのは当然、してはならないのですから、反対側に偏り過ぎることもまたよくないことだとなんとなく思うのですよ。中庸が一番ではないでしょうか、と言ったところです)
お猪口が空になった。同時に鈴木は先の考え事を終わらせて、水を飲んだ。
「さて、そろそろ風呂に入りましょう」
彼は独りもの寂し気に呟いて立ち上がると、ワイシャツのボタンを外し始めた。
(これからは早く家に帰って……子供たちと一緒に風呂に入りたいものです)
*
(人が人を変えることは、できない)
夜遅く、柘植はベッドに横たわっていた。瑞葉はすでに彼女の部屋に戻って眠っている。つまり彼は現在独りであった。
(変えるというのは動かすということでもあるが。吉野はそこの加減を間違えた)
彼は天井の暗闇を鋭く眺めながら今日ガラリと変わったこのゲームの参加者の構成を浮かべていた。
(どうやっても他人の意識を変えることはできない。どんなに憎い相手でも、どんなに怠慢な相手でも、相手が変わることなどない。できることは自分が変わること、だけだ)
(その相手に対してどういった意識で向かうのかということでもあるし、どういう距離を取るかということだ。相手が変わることはない……)
柘植は静かに目を閉じた。
室内には少女の残り香が仄かに漂っている。
(吉野は自分の金と権力で大抵はどうにかなると思っていたのだろうが……)
瞼の裏であってもそこが闇であることに変わらない。従って、柘植は変わらず参加者間の関係をあれこれと描いていた。
(『透明な殺人鬼ゲーム』……。全員が全員の敵だ。そもそも見知らぬ人間……他人を信用して、心を許すものではないんだ。グループを作っても、誰かと仲良くなったようでも……)
何人かの顔写真をひとくくりにしたところにまた別々のくくりを作ってその上下や左右の位置を入れ替えて動かす。もし某が裏切ったら、あるいはどこかのスパイならば……と今まで集めた情報に仮定を加え、人物間に矢印を引いていく。
(切り札を隠しているに決まっている。単なる隠し事……、このゲームと関係のないところでの隠し事ならともかく、ここではそれが死に繋がりうる。意図的に隠していても、些事だと判断していても、そもそも思いついていなくても……結果は変わらない。意図的に隠している物の方が多いだろうが)
動かしているうちに矢印はこんがらがり、平面だけでは処理しきれないものを三次元に拡張したことで情報量が一気に増え、だんだん端の方からぼやけていく。今日の出来事は明日以降の予想を一層複雑なものにしていた。
柘植はそれ以上考えるのをやめて眠りに就くことにした。
(明日瑞葉に聞くか……)
**
あらすじ
ぷりびあすりぃおんとうめいなさつじんきげーむ……。「どうして私が……」「母さんの仇!」「マニア10!」「ああーっ! 頭領が食べられた―っ!」「おっじいさぁーん!」「やめて! そんなことしたら燃え尽きちゃう! お願い、まだ頑張れる! あんたが今ここで倒れたらあの約束はどうなっちゃうの? 次回! 『○○ 死す』来週もすらっぷすらっぷー!」 え? 誰か気になる? もしかしたらL87星雲のルキシノペ星人から垢BANされて続きが見られなくなるかもしれないよ? 知りたかったら「ニニィちゃんかわいい」と心を込めて呟くのだ!
いつも読んでくださってありがとうございます。
ブクマ登録評価感想のどれか1つでもいただけますと本当に励みになります。助かります。
よろしくお願いします…φ(゜∀゜*)




