毛布の下の共犯者
――ジリ、と。
タイトスカートの狭い裾の隙間を縫うように、シュンの長くしなやかな指先が、ストッキング越しに私の太ももの裏側を這い上がってくる。
「ひゃっ……⁉ んんっ……!」
声にならない悲鳴を、私は両手で自分の口を強く塞いで必死に飲み込んだ。
外の極寒の空気で冷え切っていたはずの彼の指先は、暖房の効いた車内と私の体温に当てられ、すでに生々しい『男の熱』を帯びていた。
薄いナイロンの生地越しに伝わってくる、ゴツゴツとした骨張った指の感触。
それが、膝の裏の柔らかい部分から、じわじわと、まさにスローモーションのような焦れったい速度で、太ももの内側へと侵入してくる。
「っ、だめ……しゅんすけ、やめ、て……っ!」
私は毛布の下で、必死に彼の腕を掴もうとした。
しかし、シュンは仰向けに私の膝を枕にした体勢のまま、空いている方の手で私の手首をあっさりと絡め取り、座席に押し付けるように固定してしまった。
「しーっ。だから、声大きいってば」
毛布という暗闇の密室の中。
私の膝に頭を乗せたシュンが、下から私を見上げて、悪魔のように艶やかな笑みを浮かべる。
吐息がかかるほどの至近距離で、彼は声を潜め、私の耳元に甘く掠れた声を落とした。
「前のおっさんたち、ちょっと寝返り打ったよ。……ここで春奈が暴れたら、絶対起きる」
「っ……!」
「『シュン君、その後ろでマネージャーと何してるの?』って、毛布剥がされるかもね」
ビクンッ、と。
最悪の想像に、私の身体が大きく跳ねた。
もしここで見つかれば、トップアイドルのスキャンダルどころの騒ぎではない。
現場の空気は最悪になり、私のマネージャーとしてのキャリアも完全に終わる。
絶対に、見つかるわけにはいかない。声を出すことも、大きく動いて抵抗することもできない。
私のその恐怖と葛藤を、狡猾な年下のオオカミは完全に理解していた。
私が抵抗を諦め、ビクビクと肩を震わせることしかできなくなったのを確かめると、シュンは満足げに目を細めた。
「……賢い。いい子だね、春奈」
褒め言葉と共に、スカートの中を這っていた彼の手が、さらに奥へと進む。
太ももの内側の1番敏感な柔肌。
そこを、彼の少し荒れた指の腹が、じっくりと確かめるように撫で回し始めた。
下から上へ、ゆっくりと引き上げるような愛撫。
ストッキングのナイロン生地が肌に擦れる微かな摩擦音が、毛布の下でやけに大きく響く。
「あ、あっ……んっ……」
声を出してはいけないという極限の緊張感が、逆に身体の感覚を恐ろしいほど鋭敏にさせていた。
彼の中指と人差し指が、太ももの内側の柔らかい肉を軽く摘み、ゆっくりと円を描くように揉み解してくる。
まるで、美味しい果実の熟れ具合を確かめるような、ねっとりとした執拗な愛撫。
指先が円を描くたびに、火花が散るような強烈な快感が脳天を突き抜け、下腹部の奥がきゅうぅっと熱く収縮していく。
「……すごい。春奈、足、ガクガク震えてる」
「ちがっ……これは、怖くて……っ」
「嘘ばっか。俺の指が動くたびに、春奈のここ、ビクビク跳ねてるじゃん。……すげー可愛い」
シュンは意地悪く囁きながら、さらに指を深く滑り込ませた。
ストッキングの最深部、太ももの付け根の柔らかい肌。
これ以上進めば、下着のレースの縁に触れてしまう。
まさに『絶対領域』の境界線へと、彼の手が差し掛かった。
「やだっ、そこは……っ、お願い、もうやめて……!」
「やめない。……あんな男に笑いかけた罰。春奈が誰のモノか、もっと身体の奥まで教え込んでやる」
シュンは酷薄なほど美しい笑みを浮かべ、あえてその『境界線』のギリギリの場所――足の付け根の窪みに沿って、指を深く沈み込ませた。
最も敏感な場所のすぐ隣を、熱を持った男の指が執拗に行き来する。
上へ、下へ。そして再び、円を描くようにねっとりと。
「ああっ……! んんっ、ひぅっ……!」
直接触れられていない焦燥感が、かえって狂おしいほどの飢餓感を煽ってくる。
太ももの付け根から広がる熱が、下腹部をドロドロに溶かし、限界まで高まった波が溢れ出しそうになる。
声を殺さなければならないのに、喉の奥から勝手に甘い喘ぎ声が漏れ出てしまう。
私は必死に唇を噛み締め、シートの背もたれに頭を押し付けて耐えた。
前方の席からは、スタッフの静かな寝息が聞こえている。
ほんの数メートル先には人がいるのに、この毛布の下の暗闇だけが、完全に狂った熱帯夜のようだった。
「んっ……はぁっ、しゅんす……けっ……もう、だめぇっ……!」
「……春奈のその顔、俺以外の誰にも見せたくない。……俺の前でだけ、もっとぐちゃぐちゃになってよ」
シュンが私の太ももから起き上がり、毛布の中で私の顔のすぐ横に手をついた。
そして、太ももの付け根をじりじりと焦らすように責め立てている手はそのままに、空いた手で私の顎を強引に掴み、唇を塞いできた。
「んんっ……⁉ ジュゥッ……チュパッ……」
悲鳴をすべて吸い取るような、深く、暴力的なキス。
下の熱と、上の熱が同時に私を襲う。
彼の熱い舌が私の口腔内を深く抉るようにかき回し、唾液を絡め取る卑猥な水音が、毛布の下にいやらしく響き渡る。
息ができない。思考が追いつかない。
(あ、ああ……私、おかしくなっちゃう……っ)
頭のどこかで「ダメだ」と叫ぶ理性の声は、すでに彼の与える強烈な快感の波に完全に飲み込まれていた。
私はもう、彼の腕を振り払おうとはしていなかった。
無意識のうちに、塞いでいた両手を彼の広い背中に回し、そのシャツの生地をギュッと握りしめて、彼にすがりついてしまっていたのだ。
太ももの内側を這う指先が、さらに動きを早める。
布越しの摩擦が極限の熱を生み出し、私の身体はビクン、ビクンと自分の意思に反して跳ね上がった。
あと少し。
あと少しで、その先へ行ってしまう。
声を出して、すべてを暴かれてしまう――その、破滅の1歩手前の快感に溺れ、目の前が真っ白に弾けそうになった、まさにその瞬間だった。
――ガラッ‼
「おーい、みんな起きて! クレーンのセッティング終わったよ! シュン君、出番――」
突然、ロケバスのドアが勢いよく開き、外の極寒の冷気と共に、ディレクターの大きな声が車内に響き渡った。
「っ……⁉」
私の心臓が、文字通り止まりそうになった。
一瞬にして全身の血の気が引き、絶頂に達しかけていた快感が、急速冷凍されたように行き場を失う。
前方の座席で寝ていたスタッフたちが、「うおっ……」「はいっ、すぐ行きます!」と慌てて起き上がり、バタバタと準備を始める音が聞こえた。
終わった。見つかった。
そう絶望して、私が目を固く閉じた、その時。
バサッ!
私とシュンを覆っていた毛布が、一瞬にして剥ぎ取られた。
「……はい、今行きます!」
私の横に座っていたシュンが、何事もなかったかのように立ち上がり、前方に向かって爽やかな声で返事をしたのだ。
彼の手は、ディレクターが声をかけた瞬間に、すでに私のスカートの中から完全に引き抜かれていた。
乱れていた私のスカートの裾も、彼が立ち上がる動作のついでに、見事に元の位置へと直されている。
「お、シュン君、起きてたのか。後ろの席にいたんだね」
「はい。ちょっと仮眠取ってました。安藤さんも、お疲れ様です」
シュンは、前方から歩いてきたディレクターに完璧なアイドルの笑顔を向けながら、私を見下ろした。
私は、顔を真っ赤にして、荒い息を繰り返すことしかできなかった。
ギリギリのところで寸止めにされた身体の奥には、どうしようもないほどの渇きと疼きが、ドロドロに残されたままだ。
それなのに、当の本人は。
たった今、私をあそこまで狂わせていた男は、一切の動揺を見せることなく、涼しい顔をして立っている。
「じゃあ、俺行きますね。……安藤さんも、後でちゃんと外、来てくださいね」
ディレクターが先にバスを降りたその一瞬の隙。
シュンは私の耳元に顔を近づけ、誰にも聞こえない声で、悪魔のように囁いた。
「……すげーいい顔。そのまま俺の部屋に連れ込みたい」
チュッ、と。
私の耳たぶに熱い吐息だけを残し、シュンはそのまま、颯爽とロケバスを降りていった。
「…………っ」
1人、最後尾の座席に残された私。
冷たい風が車内に吹き込んでくる中、私は両手で顔を覆い、自分の膝をギュッと抱きしめた。
太ももの内側には、まだ彼が円を描くように撫で回した指の感触が、火傷のように生々しく残っている。
限界まで焦らされた身体は、ひどく熱く、重く、どうしようもないほどの飢餓感を覚えていた。
(……勝てない。私、もう……彼に、逆らえない……)
私は震える息を吐き出しながら、自分が完全に、あの年下のオオカミの『共犯者』に堕ちてしまったことを、絶望と、甘い敗北感と共に噛み締めるしかなかった。




