朝山妃那美の研究②
「新メンバーの歓迎会をしよう」
研究会へ到着し、先に待っていた香月先輩から発せられたのは、そんな言葉だった。
見ると中央のテーブル上には、ペットボトル飲料やお菓子の類が並んでいた。
香月先輩が用意してくれたようだ。
お菓子類に目を輝かせた朝山先輩と神崎は、我先にと席へ着くと、好みのお菓子について談義を始めた。
香月先輩が俺を呼び出したのには、こういう理由があったらしい。
今日は研究活動ではなく、親睦を深めることが目的のようだ。
二人に続き、俺も席へと腰かける。
なんとなく、定位置というものが既に決まっているようだった。
俺の向かいに香月先輩、左手側に神崎、右手側に朝山先輩という形だった。
「各自好きな飲み物は手に取ったかな? ではでは、岩倉君と怜菜の入会を祝して、乾杯といこう」
香月先輩の音頭に合わせ、四人でペットボトルを合わせる。
それが、歓迎会はじまりの合図となった。
「あ、これ春季限定のやつだー。食べてみたかったんだよねー」
「それ、私も気になってました」
「おー、じゃあ二袋あるから二人で半分こしよー」
「なんだ、二袋しかないのか。それは残念だ」
「あ、小夜子も欲しい? じゃあ、はい。あーん」
「え? ああ……あ、あーん」
「おいし?」
「うん……美味いな。だが、その、あーんといのは少し照れるんだが……」
女三人寄れば、姦しいという言葉がある。
その言葉通り、女性陣は和気あいあいとしていた。
大人しいイメージの神崎でさえ、好きなお菓子を前に、いつもよりかはテンションが高く見える。
適当なお菓子をつまみながらそんな事を考えていたら、神崎の目がこちらを向いた。
こいつがこの目をするのは、いつだって唐突だ。
俺の苦手な、あの目。
「……何か言いたい事でもあるのか?」
「別に。貴方がいま何を感じているのか、ふと気になっただけ」
イチゴ味のポッキー片手に、そんなことを言われてもな。
なんだそりゃ、という感想しか沸いてこない。
「岩倉君も食べる? はい、あーん」
「え?」
急に目前へと迫ってきたイチゴ味のポッキーと朝山先輩の顔に、俺は思考停止に陥った。
向かい側にいる香月先輩が、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべているのが視界の端に映る。
「いや、あの……恥ずかしいので、自分で食べます」
俺は朝山先輩が差し出したポッキーを、口ではなく手で受け取る。
「ほら、だから言っただろう? 親しい仲でも、そういう事は恥ずかしいものだって」
「えー、別に友達同士でそういうの、普通だと思うけどなー」
「いや、普通じゃないな。岩倉君の反応で、それが普通でないことが実証された」
「俺を実証実験に使わないでくださいよ」
テーブルの上にあったお菓子があらかた消費された頃、話題は研究会での今後の予定についてになった。
「コンピューター研の部長と話がついてね。岩倉君と怜菜用に、使用されていない端末を借りられる事になった」
「端末って、パソコンですか?」
俺の質問に、肯定だと頷いた香月先輩が話を続ける
「そうだ。といっても、低スペックのタブレットPCだけどね。まあ、何か調べものをしたり書き物をしたりする分には、十分機能するものだ。週明けまでにはセットアップを済ませておくのでね、以降は自由に使ってもらって構わないよ」
それは、とても良い話だった。
自分用のPCを持っていない俺からすると、専用の端末が使えるようになるというのは、とても有難い事だ。
折角だし、存分に活用させてもらおう。
「それと、今週の金曜日には妃那美、君に成果発表をしてもらおうと思っているのだが、大丈夫かな?」
「うん! ちょっと緊張するけど、がんばるよー」
そう言って、朝山先輩は両手のひらをグッと握りこみ、やる気を見せた。
その目には、確かに少し緊張の色が見えている。
「でもさー、小夜子の後に発表するのってハードル高いよねー。小夜子と比べちゃうと、私の研究なんてほら、趣味が高じたお遊びみたいな感じだし」
「そんなことはないさ。とても興味深い内容だし、大多数の人間が持つ願望を叶えるための、面白い試みだとさえ思っているよ」
香月先輩に、そこまで言わせるのか。
それは本当に、興味深い研究内容なのだろう。
見れば神崎も目をキラキラと輝かせ、早く聞きたいと意思表示をしている。
「新メンバー達も、妃那美の発表する内容に興味津々のようだね」
「うわー、どんどんハードルが上がっていく。あのね、そんな凄い内容とかじゃないから、あんま期待とかしすぎないようにね?」
朝山先輩にそう言われても、彼女の研究内容がどんなものか俺は興味津々だった。
大多数の人間が持つ願望を叶えるための、面白い試みか。
さて、一体それはどんな研究内容なのだろうか。
金曜日の活動が楽しみだった。




