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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【女将軍】編~戦場に立つ資格~

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第6話 目を閉じて虚言を聞く。鼠は乗る船を選ぶ ~後編~

1/5

 


 敵の存在を知らぬまま、下士官以上の者たちが先行していく。

 彼らが騎馬であるからと、後続のために速度を緩める気づかいをしないためだ。

 休憩を入れもしない。


 歩兵は引き離され、期せずして騎馬部隊——第三軍の中核部隊——は孤立した。

 そこへ、敵の伏兵が襲い掛かる。


 その付近には、浅いながら窪地があった。

 兵が身を隠すのに充分なだけの窪地が。

 一般兵はそれを知っていたが、偵察を舐めた下士官以上の者は知らずにいた。


 完璧な奇襲。

 第三軍の中核は一瞬にして瓦解することになる。



「だと思っていたよ!」

 これを遠視した一般兵たちは、踵を返して振り返ることなく、逃げた。

 『優秀な』、士官たちに殿を任せて。



 この戦いで、敵に叩きのめされたのは全体の1割強。

 三千ほどだった。

 下士官以上の中核五千のうち半数以上ということになる。


 シャリィア司令以下、軍の中枢ばかりだ。

 大多数の一般兵は、彼女、彼等に放置されていたおかげで助かったことになる。


 

「負けた?!」

 伝令からの報告を聞き、カロスタークは目を剥いた。


 国軍が出撃して行ってまだ十日も経っていない。

 移動や陣立てなどを考えるに、一戦しただけの頃合いだ。

 にもかかわらず、いきなり負けただと?

 あれだけ大口叩いておいて、だ。


「国軍は総崩れ。全軍上げて敗走中であります!」

 万が一に備え、後をつけさせていた偵察部隊からの報告だ。

 保険のつもりだったのだが、ここまで役立つことになるとは予想外である。


「役に立たぬやつ!」

 吐き捨てるように叫んで、カロスタークは怒りを発散させた。


 まずは冷静にならなくてはならない。

 第三軍は総崩れ、新たに援軍が来るには時間がかかる。

 早くて十日後といったところか。

 宰相の言っていた第二陣が来るのが、だ。


 宰相の考えでは合わせて6万あれば大丈夫と考えていたはず。

 それが、第一陣が総崩れでは話にならない。

 第二陣。第四軍だろうが、これが第三軍よりましな軍である保証もなかった。



「ミヌミエーラ男爵に連絡。第三軍の兵士を可能な限り救出。自軍に取り込めとな!」

 兵は数だ。

 全滅させずに吸収して軍を再編成する。

 そのうえで、逆撃を加えて撤退に追い込む。

 これしかない。


「はっ!」

 伝令が走っていく。


 国軍に頼り過ぎたことで時間を無駄にした。

 もう、救援も避難も間に合わない。

 ここで迎え撃つしかない。


 この町を奪われたら、被害は甚大。

 取り戻すことは困難となる。

 カロスタークは覚悟を決めた。


「町中に触れを出せ。非常事態を宣言する。全ての物、人をかき集めて防御を図る。急げ!」

 民間人を徴収してでも、この地で決戦を。

 そして勝つ。



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