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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【女将軍】編~戦場に立つ資格~

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第7話 敗軍の将のあり方

2/5

 


 大打撃を受けた下士官以上の者たちの運命は苛烈だった。


 下士官たちは、そのほとんどがその場で殺された。

 首を刎ねるのではなく、自分の剣や槍で腹を貫かれ、自らの血にまみれ息絶えた。


 士官たちは捕虜となった者もいたが、ある意味死ぬよりもつらい境遇となる。

 狭い檻に押し込められ、劣悪な環境で座ることもできずに立ち続けねばならない。

 意識を失いでもすれば、仲間に踏みにじられ息絶えた。


 帝国は本気で王国を撃ち滅ぼすつもりでいる。

 滅ぼす相手と身代金交渉はしない。


 人質や捕虜に意味がないのだ。

 ただただ、戦闘で荒んだ自軍兵士の士気向上に役立てるだけだ。


 そんな中——。


 シャリィアは、生きていた。

 正確には、死なせてもらえなかった。


 帝国軍に捕らえられた彼女は、他の士官たちとは異なる扱いを受けていた。

 理由はただ一つ。

 敵将マーガレットが、彼女に『興味』を持ったからだ。


「女の将軍とは珍しいわね」

 マーガレットは、まるで珍しい玩具でも見つけたかのように目を細めた。

 自分のことは棚に上げている発言だが、身分が違う。

 彼女は『司令官』であって『将軍』ではない。


「殺せ。さっさと終わらせろ」

 シャリィアは地面に膝をつき、唇を噛みしめながら言い放った。

 だが、マーガレットは首を横に振った。


「いいえ。あなたには、まだ『役目』があるわ」

 その声は甘く、けれど冷たい。

 まるで氷のように、じわじわと心を凍らせていく。


「敗者には、敗者の務めがあるの。あなたはそれを、学ばなければならないわね」

 そう言って、マーガレットはシャリィアの顎を指先で持ち上げた。

 その仕草に、シャリィアは顔を背けることしかできなかった。


 その後、彼女は『特別な待遇』を受けることになる。

 将軍としての威厳を剥がされ、名も、階級も、衣服すらも奪われた。

 与えられたのは、帝国の従者たちが着る粗末な布切れと、名もなき囚人としての番号札。


 シャリィアは命こそ繋いだが、将としての尊厳はすでに地に堕ちていた。

 帝国の将マーガレットは、彼女を『生かす』ことで、より深い恥辱を与えていた。


 命はある。だが、尊厳は奪われた。

 それが、敗軍の将に与えられた『罰』だった。


「これであなたも、ようやく『平等』ね」

 マーガレットは笑った。

 その笑みは、勝者の余裕ではなく、敗者を弄ぶ者のそれだった。


 シャリィアは、ただ黙って耐えた。

 怒りも、屈辱も、すべてを押し殺して。


 だが、彼女の瞳だけは、決して折れていなかった。

 その奥底に燃えるものを、マーガレットは見逃さなかった。


「ふふ……いいわ。もっと見せてちょうだい、その目。あなたがどこまで耐えられるか、楽しみにしているわ」


「嬲るつもりかっ!」

 下劣な者め! と敗残者が罵声を吐くが何とも思わない。

 むしろ楽しいとマーガレットは感じている。


「そなたは負けたのだ。負けたのだから敗者として振舞わねばならんぞ?」

 敗者とは、処刑されるか奴隷となるか、国外追放で野垂れ死ぬものと決まっている。


「だから、殺せというに!」

 眼光鋭く睨みつけられた。

 しかし、床に這いつくばったままでは、怖くなどない。


「この戦争が終わったら、『解放』してあげるわね」

 場所は王都の広場がいいだろう。

 煩わしいものすべてからの解放だ。


「楽しみね?」

 帝国の侵略は勢いに乗りつつあった。




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