第8話 大敗と大勝利、その後 ~前編~
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「では、シャリィア司令官に落ち度があったと、君は主張するのだな?」
ミヌミエーラ男爵は普段とはまるで違う低音を響かせて、相手の言葉を確認した。
目の前には敵の攻撃から逃亡してきた国軍の兵士がいる。
服は血と泥に汚れ、目の下にはクマがあった。
かなり疲弊していると見えるが、そこは敢えて無視している。
「はい。王国を背負う将軍閣下、ましてや上官についてこのようなことは言いたくありませんが、一部の士官・下士官の意見ばかりに耳を傾け現実を見る目を失っていたかと思われます」
その兵長は、ボロボロの姿に似合わぬしっかりとした口調で、そう証言した。
「そうか・・・」
ミヌミエーラ男爵は顎に手を当てて考え込んだ。
ようやく、考えるに値する証言を得られたからである。
交戦地点から逃げてくる兵士を尋問するのは、彼で数十人目だ。
数は多いが得られた証言たるや、『司令官は一部の兵と先行していた』、『気が付いたら敵に押し包まれていて、助けに行くような隙はなかった』というものしかなかったのだ。
経過がまるで掴めていなかった。
それが今、明らかになった。
現場の一般兵からの報告が、司令の下に届いていなかったのだ。
直接的には、途中で握りつぶした中間の士官か下士官の失態だ。
だが、間接的には当然に司令官の失態でもある。
届かないような仕組みにしてしまっていた。
そういうことだからだ。
人事を握っているのは司令官なのだから、任命責任を負う義務がある。
下からの報告を上に挙げないような、偵察の意味と意義を否定するような者を任務に就けていた時点で、責めは免れない。
敗戦の原因は司令官にあったと判断せざるを得なかった。
「君は、それを証言できるか? 公式な場で、ということだが?」
「もちろんです。査問会でも、軍事裁判でも」
「君も責任を問われるかもしれないが?」
「事実責任はありますからね。軍規にはきちんと『末端の兵であっても、作戦遂行に害あると判じし時には司令官への直訴を許す』とある。法的に、俺には司令官に直接訴える権利があったが何もしなかったのですから」
軍規、文官たちに対するポーズで作られたお行儀のよい決まりごとのことだ。
現場ではほとんど機能していないことで有名な代物である。
「そうだな」
軍出身のミヌミエーラ男爵には痛いほど身につまされる話だ。
その事実をよく知っているから。
だが、これで第三軍の敗因はわかった。
敵に新兵器があるとか、無双の英雄がいるわけではない。
第三軍の司令官が人為的ミスで自滅しただけだ。
ならば、自分でも対応できる。
「王国軍第三軍は戦地徴収法に基づき、当地の領主たる我、ミヌミエーラ男爵の指揮下に置く。軍を再編成、防衛戦を続行する!」
周囲の兵たちにも聞こえるよう、声を張った。
戦闘の継続。
敗走したから終わりなんてことはない。
そんな甘いものではないのだ。
「我らが弱かったから負けたわけではない! それを証明します!」
目の前の兵長が、同じく声を張って立ち上がる。
「そうだ! 偉い奴らが愚かだっただけっす。俺たちは弱くないっすよ!」
部下らしいのが、追随した。
他にも、チラホラと同じことを言いながら立ち上がる者が出る。
そして、結局は第三軍の全兵士が、同様の宣言をすることになる。
彼らは一般兵だが、国を守る意志は本物。
意志をもって己を鍛え上げてきたのだ。
こんなことで敗者と蔑まれることも、故郷へ帰ることをも、よしとするはずがなかった。
「ひどいな」
敗因を聞いて、カロスタークは頭を抱えた。
第三軍を吸収・再編成したミヌミエーラ男爵軍と合流したところである。
敗因が、そんなくだらないものだったとは。
ついさっきまで英雄の誕生や、どうしようもない新兵器が出てくるのではないかと怯えていたのがバカらしい。
「兵数は確保できそうか?」
「大半の兵は無事に撤退できています。壊滅しているのは下士官と士官の五千ほど。充分でしょう。懸念があるとすれば中級の指揮官が敗死していることですが、元々仕事をしていなかったようなので影響もないと思われます」
「それも情けないが・・・まぁいい。やることは変わらない」
これ以上の侵攻を許すわけにはいかない、なんとしてもここで止めなければならないのだ。
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