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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【女将軍】編~戦場に立つ資格~

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第9話 大敗と大勝利、その後 ~後編~

4/5

 


「王国は存外もろいな」

 マルガリータは酒杯を片手に、そう独り言ちた。

 戦地ゆえ豪華ではないが、一応は酒もふるまわれての酒宴が帝国軍の陣地では開かれている。


 先の勝利により、帝国兵の士気は高まっていた。

 王国に侵攻してからこっち、いくつもの町を占拠し国土を切り取り続けている。

 初めてのまともな戦いでも大勝利。

 士気が高まるのも当然だろう。


 彼らの目の届くところには、全裸で立ち尽くす敵将もいる。

 その女は、今や彼らの目の保養をするためのインテリアだ。

 観賞用であって実用ではないが、王都に着いたら擦り切れるまで使うことが許されている。

 今から待ちきれないという者たちが大勢いた。


「平和が長すぎたのですよ。体面では『大戦に備えて用意する』などと言っていても、戦いがなければ衰えるものです」

 参謀の一人がしたり顔でそう述べた。

 それが、参謀たちの結論だったからだ。


 建前では『大戦への備え』で学院を作り人材育成をしていたとしても、現実の戦争がなければ経験値は上がらない。

 知識ばかりで戦争に勝てるものではないのだ。


「その分、建築技術は進歩しているようだ」

 うらやむように呟いたのは技術団の長である。

 道なき地に道を、川には橋を。

 行軍を円滑にするために働く者たちを率いる立場の者だ。

 自分たちでも道を作るがゆえに、土木技術への興味は人一倍ある。


 その彼が熱い視線を送っているのが、『道』だ。

 戦いの後、斥候が発見した。


 しっかりと踏み固められた道が通っていたのだ。

 真ん中を高くして左右には溝。

 明らかに水捌けをよくしようとの工夫が見られる。

 幅は荷馬車が三台は並びそうだった。

 これは、二台の荷馬車が余裕をもってすれ違えるようにするためだろう。

 細かいところにも気を配った、素晴らしいものだと感心しきりなのだ。


「確かに、いい道だ。おかげで侵攻もやりやすい」

 ありがたいことだと、マルガリータは盃を掲げた。

 明日は、この道を使って移動する予定にしている。

 道はきっと、町に繋がっているはずだから。


「勝利に!」

 音頭をとるマルガリータ。


「勝利に!」

 幹部たちが唱和した。




 翌朝、帝国軍は『行速』道路を使って移動を開始した。

 整備された道ゆえに、行軍がスムーズに進む。


 だから、進む先に中規模の町を見つけても、驚きはしなかった。

 むしろ当然のこととして受け止める。


「また、空なのではあるまいな?」

 町があった「とて」とマルガリータは眉を顰めた。


 王国に入ってからというもの、見つける町や村が全て無人だった。

 ここもそうなのではないかと、疑心が湧きもする。

 マルガリータは慎重だった。


 捕虜にした敵兵へは苛烈にして無慈悲だが、将としての人望は篤い。

 味方には優しく、部下からの信頼も高かった。

 紛れもなく、マルガリータは忠誠を受けるにふさわしい将軍なのだ。


「先行した斥候によれば、人の気配ありとのことです」

 参謀が確認済みだと知らせてくる。

 ここにきてようやく、王国国民の住む町へと至ったようだ。

 あるいは「ついに」と言うべきか。


 敵兵には容赦なく振舞えるマルガリータだが、無辜の民へはどうなのか?

 マルガリータ自身経験が無く、確実なことは言えないのだ。


「ひょっとすると、この町が近いために焦っていたのかもしれませぬな。先日の軍は」

「ありえるな」

 参謀の一人の言葉に、マルガリータも頷いた。


 そう考えれば、脆過ぎた敵軍に理由が付けられるのだ。

 気の回し過ぎというものだが、帝国軍は敵兵を尋問して情報を得るということをしない。

 下手に話を聞いてかき乱されるよりも、自分たちで見た物だけを信じて進むべきという考えがあるためだ。




 何代か前の皇帝が敵将を尋問、相手の「俺は囮に使われた。同期のやつが大軍を伏せさせて待ち構えている。このまま進めば、お前らは全滅だ」という言葉を信じて撤退したという故事から来ている戒めだった。

 事実は、その敵将の率いていた軍が最後の戦力で、そのまま進んでいれば国を一つ滅ぼせるはずだった。

 だが、それを知ったときには相手の国は再軍備に成功していて、手が出せなくなっていたという逸話があるのだ。

 なので、こういう判断にもなる。




「力攻めをしてもよいが、ムダに疲弊することもないな」

 マルガリータは酷薄な笑みを浮かべ、町を見据えた。


 その町は、壁で囲まれていた。

 いわゆる城塞都市である。

 立派なのは見た目だけだろうとは思うが、こんなのでも攻めるとなると大変だ。

 搦め手でいこう。

 マルガリータは、そう考えたのだった。



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