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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【女将軍】編~戦場に立つ資格~

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第5話 目を閉じて虚言を聞く。鼠は乗る船を選ぶ ~前編~

5/5

 


 出撃から五日後——。


「チッ、むさくるしい本隊から離れられるとはいえ、退屈だな。村の一つでもありゃ、楽しめるのによ」

「あ? なんだ。お前、ど田舎の村娘が好みなのか?」

「王都のおしろいくせぇ女には飽き飽きしてんだ。たまには泥くせぇのも味わってみたくなるさ」

「物好きだねぇ」

「ま。その泥くせぇ女もいねぇけどよ」

「わざわざ、避難させるとか。ここの領主もバカだよな」

「廃爵されかけて、降爵されたらしいからな」

「いまの当主は三男坊だと、ゴミクズなんだろうよ」

「ちげぇねぇや、ギャハハハハハッ」

 本隊に先駆けての偵察を命じられた小隊が、あからさまにサボっていた。


「報告します!」

 訂正。

 サボっているのは士官学校出の下士官たちで、彼等の部下である一般兵は任務を全うしていた。


 周辺偵察を終え、報告に戻ってきた。

 騎馬の前に膝をつき、声がかかるのを待つ。


「あ? 報告だ?」

「なんだ? 仕事してましたアピールか?」

「ダッセ! どうせなんもなかったんだろ?」

 せせら笑う下士官たち。


「い、いえ。大量の足跡を発見しました。敵軍はすでに、この辺りにまで侵攻しているものと思料されます」

 広い範囲で確認できていることから、相当の数が付近にいるだろうとの報告がなされた。

 しかし——。


「はん! んなわけあるかよ。敵は町をいくつも占領してるっていうじゃねぇか。今頃は略奪の真っ最中さ」

「こんなとこにいるわけねぇよ」

 下士官たちには鼻で笑われた。


「で、ですが!」

 見たことを伝えようと、食い下がる兵士。

 その体が後方へと飛んだ。

 馬上から蹴られたのだ。


「るっせぇよ。テメェみてぇな虫けらが何を見ようと関係ねぇ。俺たちの言うことが正しい。黙ってろ、バァーカ」

「ヒデェ! ギャハハハハッ」

 笑いながら馬首を巡らし、下士官たちは帰っていった。

 徒歩の兵たちを置き去りにして。



「兵長! 大丈夫ですか?!」

 蹴り倒された兵士を、幼さの残る兵士が助け起こした。

 胸には二等兵の徽章がある。


「どうってことはない。慣れているからな。だが——」

 やれやれと立ち上がり、兵長は首を巡らせた。

 視線の先がむけられたのは、下士官たちが去っていたのとは逆方向。

 敵のいる方向だ。


「この戦い、負けるかもな」

「勝てないんすか?」

「あんなのが威張っているんだ。大将の器も知れるってもんだろ?」

「ロクなもんじゃないだろうとは思うっす」

 二等兵は素直だ。


「そういうことだ。いいか? 戦いが始まったら、なるべく後ろに居ろ。で、こりゃダメだとなったらさっさと逃げろ」

「逃げろって。いいんすか、それ?!」

「よくはねぇが、この戦いはお前のような若いのが命かける価値はない。生き延びてマシな指揮官の下で活躍することだ」

 兵長のこの言葉はその後、第三軍の一般兵全体に広まることになる。


 年長のベテラン兵全てが賛同し、自分の部下に伝えたからだ。

 そして、時は来る。


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