第3話 猟師は猟犬を御して獲物を獲る ~前編~
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二時間後——。
『早馬』を使い、カロスタークは援軍となるべき王国軍第四軍が駐留する町へと降り立った。
帝国軍の侵攻があると確定的になって以降、連帯をいくつか合わせて編成された6個の軍団の一つである。
貴族軍ではないが、将軍ほかの幹部は貴族家の三男から下で構成されているはずだ。
そして、中核を占めるのは士官学校出身の士官や下士官であり、彼等の下には農民や商人の三男以下の一般兵がいる。
ついでに言えば、下士官以上は騎兵。
一般兵は歩兵と弓兵である。
総勢三万のうち、士官・下士官以上が5000余り、他はすべて一般兵だ。
平時でも常に訓練が行われており、全員が専門職の熟練兵である。。
その国軍第三軍は、なぜか町を反包囲するように陣を置いていた。
「なんなのあれ?」
その様子を眺めながら、セザールが眉を顰める。
「町の外に陣を置くのは当然として、なんで半包囲? 逆向きにしているのならまだ訓練の一環として理解できるけど」
半包囲陣は半月形だ。
この内側が町に向いていることを訝しんでいる。
外へ向いていたなら、町を守るために仮想の敵へ相対する訓練と取れるが、自国の町を半包囲するなんてことをして正気なのかと問いたいということだ。
「・・・威圧のつもりだろうな」
カロスタークは素っ気ない。
帝国が攻め込んでくるという時世にあって、自国の町に警戒心を持たせることほど愚かなことはない。
なのに、わざわざ煽るような真似をするのは無意味。いや、愚策だ。
「宰相は『優秀だ』と言っていたのに・・・」
これでは、あまり期待できないかもしれない。
「抗議に行こうかしら?」
「やめとけ。子供っぽい示威行動に、いちいちまともに反応するなんてくだらない。下手したら、言葉尻を捉えて騒ぎ出しかねないからな」
普通ならそんなことはしない。
するわけがない。
が、この様子を見るとやりかねないと思えてくる。
「なるほど。ケンカするのも話し合うのも、相手を見て。ですね」
一発殴れば気が済む。常識で話せる。
それなら、相手をしてもいい。
だが、殴られたら慰謝料だ、犯罪だと喚き、会談の席では机を足蹴にして暴れる。
こうした相手には、距離を置いて近付かないことが一番だ。
「見つかったようですね」
小さく息を吐いて、首を振ったセザールが視線を一か所で止めた。
第三軍から旗を持った騎兵が駆けてくる。
伝令だ。
「こちらも一応武装した一団ですからね。何者かと誰何にでも来るのでしょう」
後方任務とはいえ、戦場に出ようというのだ。
セザール騎士団は全員連れて来ている。
総勢にして約100名。
中隊規模の軍隊となる。
「そんなとこだろうな」
第三軍にはカロスタークが帝国侵攻の始まりを伝えることになっている。
彼らはまだ、事態が動いたことを知らないのだ。
町の外から来たのなら、伝令ではなく小隊の一つか二つが囲みに来るところだが、町の中から出てきたので伝令を出した。
伝令兵に、こちらの所属と目的を聞き出させようということだろう。
「役儀により問う。所属と、武装した集団を連れている目的を明らかにせよ」
「っ!」
いきなりの命令。
しかも、自分たちは名乗らずにだ。
ついでに、馬からも降りていない。
セザールが露骨に表情を険しくした。
「私は、カロスターク・カロ・レッドルア伯爵だ。第三軍に出撃要請に来た。後ろにいるのは護衛の騎士団だ。第三軍の司令官に御目通りを願いたい。そう伝えてもらえるか?」
本来であれば、こちらが身分も立場も上。
出向く必要はない。
向こうを呼び出すことも可能だ。
だが、時間がもったいないということもある。
カロスタークは自分たちが会いに行くと伝えた。
「いよいよか!」
伝令兵が喝采を叫んだ。
周囲の空気が重くなる。
軍人が戦闘開始を喜ぶのはわかる。
しかし、ここでそれはない。
まず、カロスタークは身分を明らかにした。
伯爵の証は宰相府に行った時から付けたままだ。
下馬して非礼を詫びる場面である。
それが、下馬もせずに叫ぶとか。
礼儀がなっていない。
「嬉しそうですな。王国では久々の実戦ですからね」
「おおとも。これで実力を示せる。よくぞ、第三軍が持ち番の時に攻めてきてくれた!」
本当にうれしいらしい。
「ところで、あなたはどこの農民ですか?」
「あ? なにを——」
「いえ。士官学校では貴族と馬上で話すような躾はされないはずなのでね」
「っ! し、失礼した!」
伝令兵が鼻白む。
囲んでいる騎士団員から失笑が漏れた。
失笑が出るほど、苛ついていたのだ。
今の会話で少しはガス抜きができているといいのだが、とカロスタークは思っている。
イラつかせたままでは士気に関わる。
ようやく下馬した伝令兵が、形ばかりの敬礼をして伝えるべきことを復唱した。
それでよし、とカロスタークが頷くや否や、再び騎乗して走り去った。
「士官学校の質も落ちたものだな」
カロスタークは呆れて開いた口が塞がらなくなりそうだった。
その場で騎馬して走らせたのでは、馬の樋爪が土を飛ばしかねない。
失礼になるので、数歩歩かせてから乗るのが基本なのに、それをしなかったからだ。
「本陣へはセザールだけが付いてきてくれ。あとの者は、あいつらと関わらないで済む程度に距離を置いて行動するように。あいつらのアホさがうつりでもしたら困る」
「それは確かに困りますね。全員、気を付けるように」
帝国と戦わなければならないというのに、こんなことを話さないといけないとは情けない。
頭が痛いカロスタークだった。
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