第11話 燃えたモノは灰となる ~後編~
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「悪い友人に流された。そういうことですか?」
二日連続で呼び出された宰相の執務室で、カロスタークは平坦な声を出した。
貴族の子女による乱痴気騒ぎの全容報告を、聞き終えたところである。
発案者はとある伯爵家の第一夫人。
子供はメイドの手に預けられ、夫は若い愛人の許に足繁く通ってばかり。
退屈を持て余した挙句、別邸に若い男を集めてのいかがわしい遊びを始めた。
それが徐々に拡大。
より激しく、より大胆に。
気が付けば夫に相手されなくなった夫人たちや政略結婚の弊害で夫を愛せず不満を抱えた若妻らが集まっての『お祭り』にまで拡大していた。
アンヌは参加者の一人に誘われ、内容を知らぬまま参加。
いろんな意味でハメられた。
そういうことであるらしい。
彼女が積極的に関わったわけではないということだが、カロスタークとしては同情の余地はないと思っていた。
新婚の夫の誘いは袖にしておいて、友人の誘いに乗ってしまっている。
カロスタークに相談もなくコッソリと。
どれだけ仲が良かったのかは知らないが、これはダメだろう。
事前に友人から遊びの誘いを受けていると伝えられ。
行っていいかと相談されていたならば、どんな遊びなのか調べられた。
未然に防げたはずなのだ。
夫よりも友人を優先した時点で、同情に値しない。
「申し訳ない!」
報告を終えた風紀員が去ると、五体没地で謝罪が行われた。
同席していたアンヌの兄だ。
顔面蒼白で座っていたところから、崩れ落ちるように床へ這いつくばっての土下座。
流れるような動きで、カロスタークは思わず感心しそうだった。
務めて冷静でいようと気を張っていなければ、危うかったかもしれない。
「謝罪は結構です。それよりも、あとの始末をどうつけるか。それを話し合うべきかと」
そのために、この場所へ呼んだのだろうと上座に座る人物へと視線を向けた。
部屋の主、宰相だ。
アンヌの家が所属する一族の本家本元のトップである。
「婚姻が成立しておるからな」
婚約状態であれば破棄して慰謝料請求で終わり。
結論は一つしかない。
しかし、婚姻済みとあっては、そう簡単に結論が出せないのだ。
「試みに問うが、カロスターク子爵には腹案がおありか?」
「私が決めてよろしいので?」
「聞いてから判断する」
宰相にも都合のいいものならば採用、思わしくなければ再考を促す。
決定権を委ねているようで、そうではない。
忖度ありきの問いになる。
形式的な『当事者の意見を尊重しました』だ。
「積極性のなさと、ギリギリで摘発を逃れたことを配慮します。離縁するまでではあるまいと考えます。婚姻は継続とします」
「ふー」
カロスタークの発言が終わるより早く、アンヌ兄が安堵の息を吐いて脱力した。
離縁ということになれば、一族全体で恥をかくところだからだ。
同じく、宰相も胸をなでおろしている。
アンヌを勧めた責任があるからだ。
特に今回の婚姻には王家まで関わっている。
離縁は困るのだ。
正面切ってそれを言うわけにもいかず、カロスタークが考慮してくれることに期待しての問いかけだった。
「ただし、第一夫人にはしておけません。暫定的に第三夫人へ降格させていただきます」
「それは! ——やむを得ないかと」
「妥当なところだろうな」
アンヌ兄と宰相の同意が得られた。
彼女についてはこれでいい。
「ここからは提案ですが・・・」
言ってもよろしいですか?
無言の問いかけが、カロスタークから宰相へと掛けられた。
「言ってみろ」
腕組みをした宰相が、唸るようにして先を促す。
「今度の件で中心となった者たちの家から、一部の町を召し上げて王家直轄としてはどうでしょうか?」
「一考の余地はある。降爵や廃爵との意見も出ておるからな」
「それに伴い、旧リヴィエール伯爵領につきましては、正式にレッドルア子爵領に編入する」
ニヤリ。カロスタークの顔に人の悪い笑み——悪徳商人めいた笑み——が浮かんだ。
アンヌと離縁しないことで王家と宰相に売った恩を、領地で返させるという取り引きになる。
「ふ、ふふ、フハハハハっ! そういうことか、お主も悪よのう」
「いえいえ。宰相閣下には及びもつきません」
物語にありそうなセリフで笑い合う。
取引は成立しそうだ。
これが成れば、カロスタークは確実に伯爵位を得られる。
いよいよ、上級貴族へと昇ることが叶うだろう。
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