第9話 燃えたモノは灰となる ~前編~
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第9話 燃えたモノは灰となる ~前編~
「あ?!」
席に着く直前、声が上がった。
アンヌのものではない。
もう一人の女の方だ。
「人がいたなんて気づかなかったわ!」
カロスタークをガン睨みして、腕組みまでしている。
かなりお怒りのようだ。
「なに? 息を潜めて盗み聞き? いいご趣味です事!」
癇に障る高音での罵声がポンポンとカロスタークに投げつけられた。
これでは、アンヌに気付かれるのも時間の問題だろう。
事実、仕切りの中で椅子を引く音がした。
立ち上がって、この女を援護しようとでも考えたのかもしれない。
「え?!」
仕切りから首を出したアンヌが、目を見開いて硬直した。
「どうしたの?」
見る見るうちに血の気が引き、震え出すアンヌに女が眉を寄せた。
「ぁ、ぁぁ」
答える余裕などなく、力なく首を振るアンヌ。
「あんた、何かしたの!?」
埒が明かないと判断して、こっちに迫ってくる女。
「なにもしてないよ。見てただろ?」
「なら、なんでこんなことになってるのよ!」
過呼吸まで起こしかけているアンヌを指さし、詰問してきた。
「なんでだろうね? 夫の顔を見ての反応じゃないし」
普通なら、だけどね。
カロスタークは意地の悪いツッコミを自分に投げかけた。
この場面であれば、この反応はごく自然と言える。
「はぁ? おっと? ——ぇ、まさか。夫?!」
「カロスターク・カロ・レッドルア子爵です。よろしく」
大げさな身振りで挨拶してみせる。
「ひっ」
意味を理解したらしい女も、顔から血の気が引いた。
「な、なんで?」
息をするのもつらそうな中、無理を押してアンヌが問いを口にした。
それだけは聞かないと!
そんな執念を感じた。
カロスタークが、ここにいるはずはないのだ。
驚くのも無理はない。
「宰相に呼びつけられてね。さっきまで宰相府にいたんだよ」
「——あ」
宰相とカロスタークの蜜月ぶりを思い出したのか、目を見開いて動かなくなるアンヌ。
「お互い運が悪いよな」
ニッコリ笑うと、カロスタークはその場を去った。
アンヌは足がすくみでもしたのか、仕切りに寄りかかって動けないで見送くるのみだ。
店を出ると、丁度良い具合に店員が戻ってきたところだった。
後ろに平民風の男女を連れて。
店員は何も言わず店に入り、二人はカロスタークにしか見えない角度で貴族院の者である証を見せてきた。
「レッドルア子爵だ。中にいる女性二人のことを調べてほしい。今日の午前中になにをしていたかを特に。それとこの後どう動くのかも」
予定通りに午後からも『楽しむ』のか、カロスタークに出会ったことで家へ帰ることにするのか。
気になるところだ。
「相手は何者ですか?」
「一人は妻だ」
「わかりました」
よくある話なのだろう。
二人は眉一つ動かさなかった。
『なぜ』調べるのか気が付かないはずがないだろうに。
それでも、誰も何も言わない。
貴族の婚姻とは、そういうものだ。
愛も、信頼も、最初から契約の外にある。
けれど——
せめて、裏切るならもう少し上手くやってほしかった。
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