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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【アンヌ】編~枯れた花から種を得る~

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第1話 固める関係 ~前編~

1/6

 


「カロスターク・カロ・レッドルア男爵よ。王国へのそなたの献身、他の及ぶところではないと評する。よって、その功をもって子爵への昇爵を許す」

「身に余る栄誉。応えるに非才なる身の全霊をもって尽くす所存であります」

「うむ。励めよ」

「ははっ」

 謁見の間、重臣たちも居並ぶ中でカロスタークの昇爵が国王によって正式に公表された。

 これをもって、カロスタークは子爵となったのである。



「ときに、そちは未だ妻、妻となるべき婚約者が居らぬであろう?」

 国王に代わり宰相が貴族証を付け替えている中、国王が声をかけた。

 先ほどと異なり、少し柔らかくなった声音での問いかけだ。


「はい。縁に恵まれておりませんようで、妻の席は空席でございます」

 宰相が離れるのを待って、答えを返す。


 これまで、三度婚約したが、どれもうまくいかなかった。

 まさしく「恵まれていない」のだ。


「そうであろう。そこでだ。宰相がそなたに妻とすべきものを紹介することとなった。余からも祝いの品を下げ渡すゆえ、娶るがよいぞ」

 宰相と国王の連名で妻を斡旋する。

 否やはあるまいな、との脅しだ。


 当然、裏には「これまでにも増して働け」がある。

 これまでも、宰相が繋がりを深めようとしてきてはいたが、本格的に取り込もうというわけだ。

 王家すらも巻き込んでのもので、断る選択肢をくれる意思は0。


 ちょっとまてぇぃっ!

 叫びたい感情をカロスタークは必死に抑え込む。

 謁見の間に重臣たちも居並ぶ中でのそれは、死を意味する。


「あ、ありがたく。お受けいたします」

「うむ。妻を娶るのだ。仕事に邁進し、王国のさらなる発展に寄与すること、期待しておくぞ」

「ご期待に添えますよう、粉骨砕身尽くしてまいります」

 カロスタークは深々と頭を下げ、引き攣った笑みを隠すと場を辞したのだ



「お久しぶりです。カロスターク様」

 宰相府。

 宰相の執務室へ通されたカロスタークは、中にいた人物の挨拶を受けた。


「え? あ、お久しぶりです。アンヌさん」

 人がいると思っていなかったことでまごつきつつも、カロスタークは何とか挨拶を返すことができた。

 見知らぬ人物ではなかったことが大きい。


「覚えていてくださったのですね。とても嬉しいです」

「もちろんですとも、アンヌさんのような素敵な女性を忘れたりなどするものですか」

 自分でも言い過ぎかと面映ゆい思いをもちながら応える。

 ここは多少無理やりにでも、褒める場面だ。


「す、素敵だなんて」

 赤く染まった頬を両手で挟んで、恥じらうアンヌを可愛らしく思いつつ。

 カロスタークは彼女を見つめた。

 心なしかホッとする。


 さっきの今だ。

 関係ないけど偶然居合わせました、なんてことはあるまい。

 宰相が用意した妻とは、彼女のことだろう。


 どこかから見繕ってきた娘を、どこかの貴族の養女にして・・・。

 そういう強引な婚姻もあり得ると覚悟していた。

 そうでなかっただけでも、気が楽になる。



「ほう。なんだ、随分と仲がよさそうではないか。陛下に推薦した甲斐があったな」

 カロスタークの背後から宰相が出てきて、ニヤニヤする。


「クッ!」

 宰相がいることを忘れていたカロスタークが忌々し気に顔を歪めた。

 半分は演技である。

 時に弱さを見せるのも駆け引きだ。


 ・・・単に照れ隠しだったりもするが、そこは流すのが武士の情けだ。


「若いというのはいいものだな」

 まぁ、そんなことはバレバレで、それも笑われてしまうのだった。



「さて。お楽しみはあとにするとして、まずは仕事の話をしよう」

 互いにソファへ腰を落ち着けたところで、宰相が切り出した。

 先ほどのニヤニヤが嘘のような真顔だ。


「お願いします」

 カロスタークも浮ついた気持ちを鎮めるように息を吐き、居住まいを正した。

 アンヌも真剣な顔で座っている。


「子爵になることだし、領地が増える。ただし、加増ではない」

「と、申されますと?」

 領地は増えるが加増ではない、それはどういうことなのか。


「現在、王家直轄となっている旧リヴィエール伯爵領を子爵に任せるということだ」

 自領とはならないが、管理地、すなわち支配地域は増えるということ。

 遠回しに『発展させて返せ』という命令だ。

 管理を任せられるだけだから、王家の意向でいつ返せと言われるか知れず拒否権はない。


 まぁ、そんなところだろうな。

 妥当なところだと、カロスタークは頷く。


「わかりました。お預かりします」

「うむ。頼むぞ」

 発展させて税収を増やせよ!

 無言の脅迫が恐ろしい。



読了・評価。ありがとうございます。


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