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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【エルザ】編~蜜なき花に、蜂は寄らず~

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第9話 蜜なき花に蜂は寄らず

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 園遊会の場を騒がせない程度の速足で、カロスタークはエルザを追った。

 仮にも『婚約者』。


 これ以上おかしなことはさせられない。

 そう思ったからなのだが、杞憂だった。


 追いつく直前に、その光景が目に飛び込んできたのだ。


「この恥知らずめが!」

 シエルアージュ侯爵だ。


 婚約するときに会って以来の再会だが、エルザを引っ叩く場面で顔を合わせることになろうとは。

 なんと声を掛ければいいのやら。

 カロスタークは足を止め、茫然と突っ立っていた。


「カロスターク君か。すまない。娘がとんだ恥をかかせてしまった」

 カロスタークに気が付いた侯爵が居たたまれない表情で詫びた。


 大勢の前で恥をかかせたのだ。

 侯爵といえどこうなりもする。


「婚約解消と言われてもやむを得ないと覚悟はしている」

 固い口調で侯爵が言ったとたん、エルザが反応した。


「カロスターク様!」

 弾かれたような速度で移動して、カロスタークの腕に縋りつく。


「わたしの婚約者は貴方だと、ようやく気が付けたの。一からやり直しましょう」

「悪いけど、そんな気はないよ」

「え? 『あの方』・・・いえ。アレの話は二度としませんから!」

 『あの方』がいきなり『アレ』呼ばわりか。

 なんて節操のない女なのか。

 呆れ果てる。


「あのさ。そんなコロコロ態度を変えるような人間、信用できると思うか?」

「——っ。む、昔の思い出を美化しすぎて、ちょっと傲慢になってたことは謝るから!」

「ちょっと、ねぇ?」

 とてもじゃないが「ちょっと」で済むものではなかったとカロスタークが指摘すると、エルザは俯いて何も言えなくなった。

 下手に出たことがないので言葉を思い付けないのだろう。


「こういうわけなので、婚約は破棄で」

「そうか——。残念だが、やむを得ないな」

 復縁を拒否されたエルザは、父親のシエルアージュ侯爵に引きずられるようにして連れ去られていった。

 カロスタークにとって三度目の婚約者は、そうして姿を消したのである。



 その後。

 風の噂によるとエルザは、王国で一番過酷だとされる修道院に放り込まれ、世俗の穢れを払うべく身を清め続けているそうだ。

 朝から晩まで神に祈りを捧げ、水垢離をして心身を清める毎日だとか。

 よいことだ。

 男がいない環境であれば、頭がおかしくなるような妄想もできないだろう。




「ま、もうどうでもいいけど」

 見慣れてきたサロンの天井を見上げ、カロスタークはフランソワが聞き込んできた噂話を聞き流した。


 シエルアージュ侯爵の別邸は、今もカロスタークの居所となっている。

 もともとエルザのために建てたものだったのだそうだ。

 そのエルザが修道院に入ったからには不要だということで、慰謝料代わりにもらったのだった。


 使用人もそのままついてくる。

 賃金はシエルアージュ侯爵の負担だ。


 ただし、エルザ付きだった使用人は解雇された。

 エルザに妙な知恵を吹き込んでいたことが、他の使用人によって証言されている。

 侯爵家から解雇された初老の女・・・野垂れ死にがほぼ確定だ。

 同情はしない。



「ここなら、七・八人は側室がいても大丈夫ね」

 セザールが、なぜか楽しそうに言ってくる。

 広いということで、すでにセザールとフランソワも一部屋確保しているのだ。


「いや、そんなにいらないけど?!」

 側室だけで八人とか!

 妻入れたら二桁か?

 身が持たないだろ!?


 戦慄するカロスタークだった。



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