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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【クロエ】編~前途洋々、時々多難~

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第8話 撃ち放たれた矢は飛び続けることは叶わず、戻ることもない~後編~

3/5

 


「で? 謝罪は?」

 事情がいろいろと判明したところで、話が戻された。


「伯爵家とはいえ妾腹の子が、男爵家とはいえ当主を殴った。タダで済むとお思いですか?」

 カロスタークを除く全員の顔色が変わった。

 同じ貴族という枠内ではあるが、立場が違い過ぎる。


 『貴族院』や『王家』が認めれば、カロスタークは不敬罪を適応できるかもしれない。

 つまり、ジョルジュを断頭台に送れるということだ。


「いや。これはもう、詫びてどうにかなる状況じゃないと思う」

「私たちという証人がいる以上、なかったことにはできませんわ」


「お前らが黙ってりゃいいだけだろ!」

 命の危機。

 必死の形相でジョルジュが怒鳴るが、声が大きいだけで張りも勢いもない。


「僕らが黙っていても意味はないさ」

「なんでだよ!」

「アンヌが言っただろ? 宰相が繋がりをもちたい相手を呼んだんだって。そして、この部屋に入るのに賄賂が有効だったと」

「だからなんだ?!」

「カロスターク君のことを気にかけていないわけがないんだよ。そうでしょう?」

 ニコラは誰とはなく、部屋の外を意識した問いかけを放った。


「よくお気づきになられましたな」

 静かに壁が開いて、カロスタークや他の者たちを部屋へ案内した執事が現れた。

 隠し部屋で様子を窺っていたらしい。

 あるいは監視だろうか?


「ことのあらましを主に報告せねばなりません。主はなかったことにはしないでしょう」

「主って誰だよ!」

 予想はできる。

 予想はできているが、問わずにはいられなかった。

 ジョルジュの命運を握る人物だからだ。


「宰相閣下です」

 その答えを全員が無言で受け入れた。


 『うん。知ってた』、と。




 パーティーは予定通り開かれた。

 数十を数える参加者がダンスや食事を楽しみ、談笑している。


 そんな中、カロスタークたち6人は壁際に寄り、ピリピリとした雰囲気で話をしていた。

 異様な雰囲気のせいで、誰も近寄れないでいる。


 といっても、6人が固まっているわけではない。

 4人と2人に分かれていた。


「呼び出されるのを待つか、自主的に行くか、だな」

 呼び出されないということはないだろう。

 カロスタークとの間に何かしらの繋がりを作ろうとしているのであれば、このトラブルも好機と捉えるだろうからだ。


「カロスターク様は、どう思われますか?」

 なんであれ、中心は貴方でしょうとアンナが問いかけた。


「全員が揃って行けるのなら、こっちから出向くのがいいと思う。時間を置くと、宰相閣下はきっと事を大きくして、政治問題化するに違いない」

「ああ・・・」

「それは——」

「あり得ますわね。確かに」

 宰相の手腕を知る者たちから、ため息が漏れた。


「それなら、明日にでも行く?」

「オレは問題ないよ」

「私もよ」

「僕もだ」

 四人は全員行けそうだ。


 となると・・・。

 残りの二人に視線が集まった。



「ってことなんだが、君らはどうかな?」

 放ってもおけないので、全員で確認に行った。


 パーティー会場の一隅で6人が輪を作る。

 ムダに目立つが、これは仕方がない。


「ふ、不敬罪で首を刎ねるの?!」

 そんなことは許さないと、クロエがカロスタークに嚙みついた。

 声量はかろうじて抑えているが、刺々しさはむしろMAXだ。


「冗談。首なんて貰っても銅貨一枚の得にもならないよ。とはいえ、宰相は慰謝料の支払いだけでは納得しないだろうな。何か考える必要がある。でも、首なんていらないってのはハッキリ言える」

「なら、いいわ。ね?」

「あ、ああ。それなら明日一緒に行くよ」

 いろんな意味で、ゾンビのようになったジョルジュも同意した。


 明日、宰相府を訪問することが決まったのだ。



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