第5話 花園は凛と咲き誇り、ミツバチは群れ成して飛ぶ2 ~前編~
5/5
「あーっと。ごめんなさい、ちょっと化粧室行きます」
クロエがそう言って席を立った。
「あんたも来なさい」
「え? あ、はい」
アンヌを追い立てるようにして部屋を出て行く。
「あ、わたしも」
エマも出て行った。
女性だけで話したいことでもあるのだろう。
というか、男どもが険悪になりつつあるから、今のうちに何とかしろということか。
場の雰囲気を建て直したとはいえ、ジョルジュが態度を改めないと元の木阿弥になるに違いないのだ。
「席替わろうか?」
「ダメだ!」
とりあえずの解決策で口にしたが、ニコラに一喝された。
「アンヌさんはカロスタークと話したがっているじゃないか。彼女の気持ちを踏みにじるのか?」
男側のツゴウだけで、どうにかしていい話ではないと諭された。
確かにその通りだ。
ここにきての席替えはアンヌに、引いては女性全員への礼を失する行為になる。
「君も貴族、それも上級貴族なら、わきまえろ」
ジョルジュのことも窘めるニコラ。
「チッ。うるせぇ」
わかったのかどうなのか、顔を背けるジョルジュは不満そうだ。
あまり、解決になっていない気がする男性陣。
一方、女性陣の方はと言うと・・・。
「誰かれ構わず媚びを売るな!」
化粧室へ入った途端、クロエがアンヌに詰め寄った。
「いや、この子は悪くないでしょ」
追いついたエマが応えて、二人の間に割って入った。
「なんでよ!」
「この子は普通に前の席の人と話そうとしているのに、ジョルジュってのが割って入ってるのが悪い」
「こいつがちゃんと拒否すれば、こんなことにならない。こいつが悪い!」
「ちょっと待って」
エマが遮って、頭を抑えた。
不審そうな視線がクロエに注がれる。
「本気で言ってる?」
「・・・・・・」
クロエは口を閉じて睨みつけた。
感情だけで言っている自覚はあるらしい。
「文句言うのなら、貴女から話しかけたら? 黙っているだけだからダメなんでしょ!」
「わかったわよ」
不承不承、引き下がるクロエ。
「あんたもどっちつかずにならないように、誰と話したいのかキッチリ意思表示しないと。カロスタークだっけ? 相手にも迷惑よ」
「そ、そうですね。わかりました。カロスターク様に迷惑をおかけするわけにはまいりません」
拳を握って、アンヌは気合を入れた。
で、舞台は戻って、話が再開するのだが——。
「なんだかんだ言っても、男爵家じゃ先は見えてるぜ」
「そうよ。伯爵家に敵うわけないじゃない」
女性陣が戻ってきて、仕切り直しになった。
先ほどまでの雰囲気の悪さはなくなっている。
ただ、どういうわけかカロスタークが敵視される事態になっていた。
ジョルジュがカロスタークを下げる物言いをし、クロエがそこに乗っかってくるのだ。
発端はクロエだ。
家の爵位に差がある相手とは釣り合わないという趣旨の発言に、ジョルジュが熱心に同意したことが始まりだ。
伯爵家のアンヌと男爵家のカロスタークがうまくいくはずがない、この一点で意気投合したらしかった。
ようやく自分の存在を受け入れられたと、クロエが少しほっとしたような顔をしていた気がする。
「上級貴族の伯爵家令嬢と下級貴族のそれも男爵なんて、ご主人様と犬みたいなものだろ?」
「エサを貰えて尻尾を振るのでしょうけど、愛玩動物としか見られないのね。可哀そう―」
ニタニタ笑いながら、言葉を投げてくる。
ようやく落ち着いて話せる状況になったと思ったのにこれだ。
さすがのカロスタークの眉間にも、シワが寄る。
戻ってきて即行、ジョルジュがアンヌに声を掛け、キッパリと「カロスターク様とお話ししたいので、あまり話しかけないでください」と言われたのがショックだったのだろうとは思う。
味方してくれたクロエの存在が嬉しかったのだとしても、敵愾心があからさますぎた。
「なんで自分より下、それも底辺の男爵なんかと話したがるのか私には理解できないわ」
「あっははは。きっと高度で崇高な理由があるのさ。ぜひ、ご高説を賜りたいね」
「教えて、教えてぇ」
「あれば、だけどねぇ」
他人の神経を逆撫でする声音、小ばかにした態度。
不愉快な言葉が二重奏で耳に押し入ったアンナとカロスタークの表情が引きつったものになっていく。
そして、致命的な一言が撃ち出された。
「こんなのを相手にするようじゃ、貴女の程度も知れるわね。いっそサルにでも嫁いだらいかが?」
読了・評価。ありがとうございます。




