第4話 花園は凛と咲き誇り、ミツバチは群れ成して飛ぶ ~後編~
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「待ちたまえ、君の家の爵位は何かな?」
と、後ろから声がかかった。
振り向くと豪奢な金髪男性が立っている。
なにか、尊大な雰囲気がある男だ。
カロスタークより二つほど年上だろうか?
「男爵です」
思わず『準』を付けそうになりながら答えを返した。
「ふん。下級貴族か。私の家は伯爵だ。私が真ん中に座る。お前は右でも左でも好きなところへ座るがいい」
爵位が高いから偉いと言いたいらしい。
公式行事ならともかく、こんな私的な場で爵位の差など意味を持たないのだが・・・。
貴族と民衆の差は大きいが、貴族は上級下級にあまり差はないのが常識だ。
国王への謁見の順番とかであれば序列が付くが、それ以外では『貴族』で一括りになるものなのだ。
言っても無駄だろうな。
威張りたいなら威張らせておくさ。
席次にこだわりがないカロスタークは、素直に入り口側——真ん中の彼からすれば左の席——に腰を下ろす。
しばらくすると、随時人が増えて席が埋まった。
男女三人ずつだ。
男側は真ん中が伯爵家のジョルジュ、その右が子爵家のニコラ、そして左に男爵家のカロスターク。
女性側は真ん中が伯爵家クロエ、その右も伯爵家のエマ、カロスタークの前に座ったのはアンヌ・フォン・プリムヴェールという名で、子爵家だ。
これは男側の『真ん中』ジョルジュが、話の初めに聞き出した。
本人以外が『いきなり爵位かよ』と眉を上げたのだが、全員華麗にスルーして会話を始めている。
ここはさすがに『社交界』で鍛えられた貴族の子女だ。
それぞれに会話の花を咲かせていた。
「アンヌさん——アンヌでいいよね? 普段何しているの?」
「わたしは学院で領地経営を専攻していたので、兄の補助をしながら経験を積んでいます」
「なるほど。嫁ぎ先でも活躍できるようにしているのかぁ」
和やかに話が始まっていて、ホッとする。
のだが——。
なんなんだ、こいつは?
カロスタークは表情を変えないまま、横の男を見た。
のっけから目の前の女性ではなく、アンヌにばかり話しかけている。
もちろん、目の前の女性とだけ話をするルールはない。
他の女性とも会話して全然かまわないが、『だけ』はないだろう。
カロスタークはもともと「なんとしてでも」なんて意気込みはないからスルー出来る。
しかし、目の前に座っているのを完全無視して他の女とばかり話をされたのでは、真ん中の女性がいい気分になれるわけもない。
どんどんと不機嫌オーラが滲んできていた。
「・・・・・・」
「—————」
右側の人たちもそれに気が付いて、部屋全体の雰囲気が少しおかしくなり始めた。
「カロスタークさんはどうですか?」
「あっ、と? 私ですか、いろいろですね。雑務に追われるばかりで、『これ』とは言いにくいです」
アンヌも雰囲気に気が付いたのか、積極的にカロスタークへと話を振った。
「そうなんですか? なら、私も少しお手伝いしましょうか? 兄のところだけだと偏るかもしれませんし」
「機会があれば、ぜひ——」
「それならぜひ、俺のところを手伝って欲しいな。父も兄も領地経営はからっきしで」
カロスタークとアンヌが話していると、話を遮ってジョルジュが会話に割って入った。
「あ・・・えっと・・・」
困り顔のアンヌが、それでも礼儀正しく会話は続ける。
その後も、アンヌはカロスタークに話しかけるのだが、ことごとくセルジュが会話を奪っていくことが続いた。
場の雰囲気がどんどんと悪い方向に流れていく。
ジョルジュはアンヌが気に入ったのだろうことはわかるが、あからさますぎて周囲はドン引きだ。
「あの。カロスタークさんはお暇な時ってなにされてますか? あ。お忙しくて、お暇なんてないかもしれませんが」
「忙しいのは事実ですが、暇がないわけじゃありません。そうですね、暇があると———」
「そんなことより、アンヌ。今度うちの領地に遊びに来ない? すげーいいところがあるから見てほしい」
カロスタークが応えようとすると、またしても強引に割り込むジョルジュ。
「おい。いいかげんにしたらどうだ。さっきから人の会話を遮ってばかり、横で聞いてる俺たちも気分悪いぞ」
またしても、カロスタークの会話に割って入るジョルジュに、ニコラが注意した。
ジョルジュの態度に、みんな苛立ち始めているようだ。
「あーっと、そう言えばここにあるの王都の有名店で出してる焼き菓子ですよね。いろいろありますが、皆さんはどれがお気に入りですか?」
雰囲気が悪いと話もできなくなる。
それは回避しなくてはと、カロスタークが強引に話題を変えた。
テーブルに乗っているお菓子についてだ。
女性陣はさっきから、ちょくちょく手を伸ばしている。
きっと好きだろう。
アンヌと二人きりで盛り上がるとジョルジュが強引に割って入る。
これが雰囲気を壊しているのなら、二人きりで話さなければいい。
三対三で広く会話するなら角は立たない、はず!
「私はマフィンですね。もちもちしている口当たりとか好きです」
「普通にケーキかな」
「あ、私はクッキーです」
右から順に答えが返ってくる。
やはり、広く会話をすればジョルジュもカロスタークに突っかかったりはしない。
なんとか、その場の空気を建て直せた。
——と、思ったカロスタークだったのだが・・・。
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