第3話 花園は凛と咲き誇り、ミツバチは群れ成して飛ぶ ~前編~
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宰相の召還から一月後。
カロスタークは未だに慣れない貴族の正装を着て馬車に揺られていた。
幸いにも貴族令嬢が二人掛で仕上げてくれたので、見た目は完璧に『貴族』している。
だが、正直気持ちは憂鬱だった。
「考えてみたら初めてなんだな」
宰相の一族に連なる者たちの見合い会場だという、とある子爵家の邸宅へ運ばれながらカロスタークは呟いていた。
母と住んでいたボロ屋に父が迎えに来たときには、セザールとの婚約が決まっていた。
見合いもなにもない。
会ったこともなければ名前すら知らないまま、『男爵令嬢』の婚約者になるのだと言われたのだ。
それ以前は食べるのに必死だったし、そのあとはセザールしか見ていなかった。
ある意味、異性を異性として意識して見るのが人生で初と言える。
さすがに緊張の色が隠せない。
「大丈夫ですよ」
従者トマが言ってくれるが・・・。
「気休めをありがとう」
何の根拠もない。
カロスタークは『礼儀上笑顔を作りました』って顔で笑った。
「気休めではありません。現在ではセザール様とフランソワ様、お二人の間でうまくやれています。女性経験値が以前と比較してかなり上がっていると言えるでしょう」
「——トマ・・・」
「はい?」
「お前は全然わかっていない!」
貴族令嬢という枷が無くなっている二人と、貴族令嬢としてがっついてくる子女は別の生き物だと思え。
カロスタークは真顔で諭すのだった。
トマは、よくわかっていなさそうだったが。
邸宅に付くと、会場には貴族しか入れないからとトマは別棟へ。
カロスタークは執事に邸宅の一室へと案内された。
「ここでお待ちください」
そう言われた部屋にはスイーツが盛られた菓子器がいくつも乗った長テーブルと、向かい合うように置かれた六個の椅子——3対3で向かい合う形——のある部屋。
どう見ても待機部屋とは思えない。
そう考えるには菓子器の質が高すぎる。
「ここ、待機部屋ではないですよね?」
明らかにおかしいので確認をとった。
すると、執事は完璧なポーカーフェイスを少しだけ崩した。
「さすがに商人出身だけありますな。一目で見破られるとは思いませんでした」
カロスタークの素性はきっちり把握済みのようだ。
「相手のもてなし方を見て本気度を測るのは商談時の必須能力ですからね」
実は乗り気がない、乗り気だが経費は最低限で済ませたい。
そんな態度がチラついたら、即撤退が基本だ。
角が立たないよう朗らかに、もっともそうな理由を付けて「今回は縁がなかったということで」と言い合って終了。
事業で失敗しないための初歩スキルだ。
「メインで大人数をいきなり合流させてもうまくいきませんでしょう」
「それでうまくいくなら普通の社交界でもなんとかなっているはず、ってことですね?」
大多数が集まる場でうまく会話し続けるというのもコツがいる。
そのコツがないと、個室で一対一でないと話が進まないなんてこともあるものだ。
「ええ。ですので事前に年齢や出身地、その他検索可能だった情報を基に相性のよさそうな方を小分けいたしました。まずは少人数で会っていただこうとの趣向でございます」
「それ——。絶対発案はどこかの夫人ですよね」
考え方というか手口が女性的だ。
細かな配慮とかも。
「さて。わたくしにはわかりかねます」
執事の顔に戻って一礼された。
少々踏み込み過ぎたようだ。
さて、どこへ座ろうか?
執事が去ったので、とりあえず座ろうと席を見る。
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