第2話 前途洋々、ときどき多難 ~後編~
2/5
「これでいいのかね?」
カロスタークが退室すると、宰相は続き部屋にそう声をかけた。
「ええ。ありがとうございます。大叔父上」
30手前らしい青年が出てきて、返事をした。
茶髪をオールバックにした男だ。
「その呼び方はやめろ。お前は妻の従妹の息子。血の繋がりなどないのだからな」
「貴族がそれを言ってはおしまいですが?」
「お前以外には言わんよ」
「宰相閣下は私がどうやらお嫌いらしい。なら、どうして『お願い』を聞いていただけるので?」
お手上げ、と手を上げて問いを投げる。
「なに。わたしも、あの男には興味がある。お前の目論見が何かは知らんが、面白いかもしれん」
「あははは。見世物扱いですか」
やれやれと首を振る青年。
「で? 実際なにが狙いだ?」
「たいしたことじゃありませんよ。順調に進むなら、次の次が私の領地になる。その前に為人を見極め、できることならお近づきになっておこうってだけのことです」
「ちょっかいをかけるのではないのかね?」
「ご冗談を。災難があるたびに出世するような人に手出しなんてするものですか」
「ただの偶然だろう」
くだらないと一蹴しようとする宰相を、青年は冷めた目で見返した。
「そう思う人が、『まだ』多数派でしょうね。ですが、災難が起きるのは偶然でも、それを乗り越えているのは実力だ。私はそこのところを間違えたりはしませんよ」
「ふん。つまらんな」
「見世物ではありませんので」
にっこりと笑い、青年も退室していく。
「実力か。そうなのだろうな。クククッ」
閉じられた扉を見つめ、宰相は喉の奥で笑っていた。
道整備は順調に進んでいた。
モンモラシー男爵領とミヌミエーラ男爵領の『行速』道路は完成。
レッドルア男爵家もそうだ。
旧リヴィエール伯爵領も半ばを過ぎている。
工事の先端はもうじき領域外に出るだろう。
なんといってもミヌミエーラ男爵が指揮する貴族軍の活躍がすさまじい。
総勢3000の兵を三つの隊——各領地333ずつプラス1の1000を3つということ——に分けて順に使うローテーションによる作業——鍛錬——を行っているのだが、日に日に熟練度が上がっていくのだ。
いまや、『王国軍と肩を並べる軍隊』ではなく、『土木業者』そのものだった。
『竜鱗族』が対抗意識を持つほどに。
そのせいだろう。
『貴族軍』VS竜鱗族を主体とする『亜人組』の競争が起きていた。
旧リヴィエール伯爵領の『亜人』たちも作業に参加してくれているのだ。
もちろん無料奉仕ではなく、きちんと賃金を払って雇い入れている。
雇用対策にもなって大助かりだ。
そして、競い合うことで、双方の速度と精密さが目に見えて上がっていく。
順調に進んでいる所以だ。
次の領地である子爵家当主は好々爺然とした年寄りで老獪な人物だった。
カロスタークとの会談はほとんどが孫の自慢。
道路づくりの件はルートを聞き、いくつか回避してほしいポイントを示しただけ。
それ以外はフリーハンドでやっていいとの許可をもらっている。
『亜人組』はもちろん、貴族軍と民間の作業員の領地入り、領内の人員の使用許可までもらっていた。
さすがに貴族軍を作業に回すのは現場の指揮官から謝辞されたというが、民間は個人の意思で参加するなら制限はつけないということで、モンモラシー男爵領他と同様の条件で作業員を募集する予定だ。
作業に掛けられる人手が飛躍的に増加することになる。
読了・評価。ありがとうございます。




