第1話 前途洋々、ときどき多難 ~前編~
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「見合い、ですか?」
予想の斜め上の話を振られてカロスタークの声が上擦った。
男爵になって数か月が経過している。
そこへ突然の宰相府への召喚状。
差出人は当然宰相で、何の話かと戸惑いながら訪ねたら「見合いをしないか」だ。
驚きもする。
「男爵は若く、才気もある。にもかかわらず未だ正式には婚約者が居らんだろう?」
「才気はわかりませんが、他は仰せの通りです」
男爵であり、16になったばかり、そして正妻となるべき『正式な婚約者』はいない。
それは事実だ。
「実を言えば、我が一族とそれに連なる者たちの中にも婚約者の定まっていない子女がいてな。一度、そういう者たちを集めての見合いをしたらどうかと考えている。一対一ではないからそう堅苦しく考えなくていい。ようは、決まった相手のいない者同士で親睦を深めてはどうか? 結果的に関係が構築できれば重畳という話だ」
「そういうことですか」
不特定多数が集まる場だと、老若男女既婚未婚も入り混じる。
そうではなく、『相手がいない者だけ』を集めての会であれば親密になる者も出るだろうという話である。
だが・・・。
『これ、ぜったいオレを狙い撃ちに来てるよな?』
内心、カロスタークは汗を流す。
貴族の婚約なんて、基本は政略だ。
家同士の繋がりを作るための手段。
嫁や婿なんて、そのための『道具』でしかない。
本来なら、本人の意思など無視でことは進む。
それを『見合い』と表現しているだけだ。
まぁ、事実としてそういう『つながりを作る手段』の取りようがない、またはとる必要がないからこそあぶれている者たちなのだろうと予想はできる。
それなら『見合い』が行われるのも理解可能だ。
カロスタークもその点では『新興の男爵』で、いろいろ曰く付き。
まともな形での『婚約』はもうないだろうから、見合いするしかないのも事実ではある。
「一応聞きますが、断る選択肢はあるんですよね?」
「もちろんだよ。影響は——そうだな。私の顔が潰れるくらいか」
「あー、ナルホド」
選択肢はあるけど、そっち選んだら社会的に抹殺しますよってことね。
カロスタークの額に、リアルで汗が浮いた。
「お受けします」
逃げ道のない選択肢に、カロスタークは観念して頭を下げた。
「そうか。楽しんでくれ」
ポンポンと肩を叩いて、宰相が笑いかける。
その笑顔は、どこまでも穏やかで、どこまでも恐ろしかった。
楽しめるわけないだろ!
内心で毒を吐きつつも、カロスタークは静かに立ち上がる。
笑みの形に引きつった頬が痛い。
背中にじっとりと汗が張り付き、礼装の襟元がやけに窮屈に感じられた。
学園での『婚約交渉』の波を思い出す。
あれが再現されるわけだ。
しかもあの時とは比べるべくもないほど激烈になる予感がある。
社交界という名の戦場が待ち構えているのだから。
想像するだけで胃が痛くなる。
「はぁ。セザールに、なんて言おう……」
執務室を出たところでつぶやいた。
我知らず、天を仰いでいた。
頭の片隅に浮かんだその名に、胸の奥がチクリと痛んだ。
形式上の婚約者ではない。
だが、心は確かに彼女に向いている。
それでも、貴族社会はそんな感情を許してはくれない。
カロスタークは、重い足取りで宰相府を後にした。
扉の向こうに広がるのは、自由と責任が入り混じる、男爵としての現実だった。
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