第7話:商人の逆襲
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時は少し遡り、舞踏会が行われた翌日のこと。
太陽が中点を過ぎ、下降を始めようという時刻。
モンモラシー男爵家は酷い騒ぎに見舞われていた。
何十という冒険者が詰めかけ、屋敷の中を我が物顔で歩き回る。
「いったい何が起きているのですか?」
怯えた男爵夫人が尋ねるが、震える妻を抱きしめる男爵も真っ青な顔を振ることしかできずにいる。
王都にあって、貴族を束ねる機関である『貴族院』。
その議長が発行した許可状を手にした役人が、男爵邸を訪ねたのはわずかに1時間前のこと。
それからのたった一時間で、男爵邸は廃墟同然の姿に変わろうとしていた。
家具や調度、美術品から宝飾品。
屋敷の中にあるありとあらゆるものに、会計局の腕章を嵌めた者の手で値札が貼られていく。
同時に、それは冒険者の手で運び出されていった。
二時間後。
もぬけの殻となった男爵邸には数人の商人と護衛、そしてモンモラシー男爵夫妻だけがいた。
「いったい何が起きているのだ? 説明を求めたい!」
怯えつつも、貴族たるものの誇りを総動員して男爵は強気を演じた。
椅子もなくなった剝き出しの床に座ったままだ。
腕には妻を抱きしめて。
震える声と足が内心を如実に表していたが、そんなことにも気づかずに。
「簡単な話ですよ。男爵様の借金を回収に来たのです」
代表となる権利を押し付けられた商人が、嫌々説明を始めた。
「な、なにをバカな。それは、しばしの猶予を与えてもらうことで話が付いているはずだ」
「ええ。『これまでは』ね」
意味深なことを言う商人の代表。
「これまでは? 今は違うというのか? なにがあったというのだ?」
訳が分からず混乱する男爵。
「あなたのお嬢さんがレッドルア家との『婚約破棄』を宣言したのですよ。オルトレオーネ子爵の三男と『婚約』すると言ってね」
「は?」
寝耳に水でまったく知らなかった男爵は呆けたように目を見開いて、固まった。
「知ってのとおり、『猶予』はレッドルア家との婚姻が正式に行われたときに、レッドルア家が全額を肩代わりするとの条件で行われたもの。『婚約』が破棄されたら無効になるのです。こうなると、レッドルア家が借金の返済を肩代わりしてくれる可能性はないに等しいわけで、私どもとしては今のうちに財産を差し押さえねばと考えた次第です」
「そ、そんな。セザールがそんな愚かなことをするわけが——」
「ですが、したのです」
噛んで含めるように、商人の代表は答えた。
そうでなければ、『貴族院の了解』は得られず、これがなければ貴族家に商人が踏み入ることなどできはしない。
「くっ。・・・わかった。事情は呑み込めた。だが、君たちはなぜまだ居座っているのだ?」
差し押さえが終わったのならとっとと帰って欲しい。
そう言おうとした男爵の前に、紙の束が突きつけられる。
「全然足りていないのですよ。差し押さえた財産を全て足してみても利息分を回収するのが精いっぱい。元金がほぼ丸々残る。これでは困るのです。奥さんでも売りますか? 大した額にはならんでしょうけどね」
じっとりとした視線を男爵夫人に向ける商人代表。
「ひぃっ?!」
悲鳴を上げて体を丸める男爵夫人。
「なっ」
土気色の顔で口をパクパクさせる男爵。
「・・・・・・」
債権回収の難航確実で顔を見合わせる商人たち。
男爵邸は冷たい沈黙に沈んだ。
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