第21話 同病相憐れむ、ささやかな慰めを添えて~前編~
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「捕まえましたよ」
貴族軍撤退より前、セザール騎士団の別動隊は獲物を捕らえることに成功していた。
襲撃があるとわかり、その首謀者が知れた時点で差し向けられていた者たちだ。
包囲の隙間を縫って脱出し、いまもまた包囲の隙間を潜って戻ってきた。
ようは、包囲と言いつつスカスカだったのである。
まじめに包囲戦をしていた者はいなかったという証左だ。
好戦的な者は突っ込むことしか考えていなかったし、他は突っ立っていただけだった。
スカスカにもなる。
「ご苦労様」
労いの言葉をかけ、『義姉上』と言いかけた言葉をカロスタークは呑み込む。
商人の妻ということで宝の持ち腐れとなっていた才能を、セザールに拾われた人物。
それだけのこと。
一番危険な任務で使うことを条件に、絞首刑を免除して『セザール騎士団』入らせた罪人だ。
『隠密行動』の才能があったとは意外だったな。
家族だったとしても、知らないことはあるものだ。
「さてと」
そんな些末なことはもういい。
視線を別の人物に転じる。
「何か言いたいことはありますか?」
「こ、こんな。わたくしにこんなまねをしてタダで済むと思ってますの?!」
後ろ手に縛られ、地面に転がされている身で強がるのはカトリーヌ・ド・リヴィエールだった。
暴れているせいで髪はバラバラ、砂や枯葉を巻き込んで鳥の巣のごとき有様になっている。
高慢ちきな態度以外、貴族とわかる特徴はなくなっていた。
ああ、無駄に飾りの多い服もあったか。
なんにしろ、どうでもいい。
「こんなまね、ですか。それはこちらのセリフだと思いますけどね」
肩をすくめるカロスターク。
「こちらは殺されかけたのですが?」
「『亜人ども』に捕らえられたのを救出に来てあげたのよ!」
「人質解放要求とか何もなしに? 苦しくないですか?」
「いたずらに時間を置いて準備させるよりも、一気に圧す方がいいって判断よ! そんなこともわからないなんて! これだから商人上がりの準男爵は困るのですわ! 伯爵ともなればいろいろと考えを巡らせるものなのです!」
ああ、なるほど。
カロスタークは頭を抱えた。
もう少しましな言い訳が聞けると期待した自分が、可哀そうになる。
襲撃が起きたのはカロスタークが町に入って二時間と経っていない時だ。
そこから現在まで三時間しか経っていない。
町に入った瞬間に捕らえられ、直後に救援要請に走った者がいて、たまたま付近を貴族軍の大隊が移動中だったので助けを求め、大隊の指揮官が当主への報告だけで動いた——ということでも起きない限りあり得ない速さである。
軍はそんな簡単に出動できないし、当主——カトリーヌ——がいる町は馬で二時間はかかる位置にある。
単純に言って、カロスタークが町に入ったと聞いてすぐに動いたとしても救援が来るのは明日の朝だ。
物理法則に反したことを堂々と言う神経に、めまいがしそうだった。
「はぁ。オレでは尋問できそうにないな」
早々に諦めた。
「専門家に任せるとしよう。とりあえず、捕虜収容所にした倉庫に入れといて」
侵攻してきた騎士団を殺さずに捕らえたので、閉じ込める場所が必要だった。
なので、町の中の物資倉庫——現在は空で使われていなかった——にまとめて放り込んである。
「・・・倉庫に、ですね?」
なぜか、セザールが確認をとった。
「いろいろあり過ぎて頭が回らないんだ。みんなも不慣れなことだし、多少の気遣いの欠如は仕方ないよ。あ、そうそう。夫の方も同様の処置をしておいてね」
疲れた、疲れた。
わざとらしくならない程度に頭を振って、カロスタークはその場を離れた。
「そうですね。初めてのことですし、突然過ぎました。手違いも起きますよ」
カロスタークの背中を見送って、無機質な呟きを零すセザール。
その視線が、なにを言われていたか理解できず、ギラギラした目で睨むだけの女に向けられた。
「これを捕虜収容所に放り込みなさい。そのあとは、専門家が王国政府から派遣されるまで食料の配給だけをしていればいい。ああ、それと『死人だけは出さない』よう捕虜にはきつく言っておいて」
捕えてきた女に命じた。
「仰せのままに」
ガクガク震えながら、女は首肯して指示に従った。
この夜から数日、捕虜収容所ではサルの奇声がやむことはなかったという。
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