第20話 猛る目は敵のみを見据えて、他を映さず ~後編~
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『亜人の町』。
実際には町として認められておらず、再三に渡って立ち退きを要求されていた。
襲撃があることは予想済みである。
撃退するものではないが、侵攻を遅らせる罠などもあった。
時間を稼いでいる間に、逃亡する。
そのための準備なら万全だったのだ。
慌てることなく、住民は町の避難所へと逃れていく。
無人となった街並み。
侵攻を妨げる罠。
ここに、30と少しの騎士団と狩猟を得意とする亜人——獣人と耳長族——が50。
全身が鎧の『竜鱗族』が100もいればどうなるか?
「なるべく殺さないようにね」
カロスタークが声をかけた。
襲撃されているにしては、どこかのんびりしている。
「面倒だけど。難しくもないわ。任せて」
セザールが頼もしい。
突然の戦闘状態だが、それは長く続かなかった。
町へと進行した騎士団の先行部隊が壊滅するのに時間はかからなかったのだ。
迷路状態の町で袋小路に誘導、矢の雨を降らせるだけでほとんどが無力化できる。
もっとも、矢を使うと殺してしまうため、実際は投石だ。
誰にでもできる簡単な作業である。
打撲や骨折はするだろうが、そうそう死ぬものではない。
逆に言えば、弓矢なら一本頭に受ければ痛みもなく死ねるものを意識がなくなるまで痛めつけられ続けることになる。
「やめろっ、もうやめてくれ!」
「降伏する—!」
「捕虜として正当な扱いを要きゅぶっ——」
無駄に強い体が意識を失うこともできず、延々と続く投石に音を上げる者が続出した。
悲鳴を上げては哀願する騎士団——無様な者——たち。
「知性は——?」
情けなさすぎて、セザールの口から蔑みの言葉が漏れていた。
「どうなっている?! なぜ、大半がとどまったままなのだ? 突入命令は出しているだろう!」
思うようにいかない現状。
伯爵夫が憤激しながら罵声を飛ばすが、誰もがかかわりをもたないよう目を逸らし続けていた。
王国には『亜人』を蔑視し、差別する風潮がある。
それは事実だ。
しかし、王国の法ではれっきとした住民として定義している。
紛れもない『国民』なのだ。
それを『虫』と呼んで殺戮しようとすることに正義などない。
リヴィエール伯爵家の貴族軍兵士は、そのことに気が付かないほど愚鈍ではなかった。
気が付いたうえで、それでも動くほど現当主のカトリーヌに忠誠心を持っていなかったのだ。
そもそも、彼等の主は兵に忠誠など求めたことがなかった。
心があるなんて考えたこともない。
命令すれば、動く。
その程度にしか考えていなかったのだ。
兵士たちは確かに、ここ数年は感情を排して任務に就いてきた。
まっとうな役目であれば、多少の無茶無体でも耐えられる。
貴族のお嬢様の我儘なら聞き慣れていた。
普段のパワハラならば、いくらでも受け流して働いて見せる。
だが、これは違う。
明らかな違法行為。
現然たる叛乱だ。
付き合ってられるか! というのが、兵たちの偽らざる本音だったのである。
だから、身長が140もないような小柄な何者かが接近してきても目に入れなかった。
自然な動作で遠のき、進むのを容認した。
「帰るか」
「そうだな」
喚いていた指揮官が『いつの間にか』いなくなって数刻後。
中間の指揮官たちが、ほぼ同時に同じ結論を口にした。
これをもって、貴族軍は撤退を開始することになる。
突入に参加しなかった騎士団も、同様だった。
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