第19話 猛る目は敵のみを見据えて、他を映さず ~前編~
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「生意気な小僧め! 袋の鼠だ!」
『亜人の町』を包囲していたのは伯爵夫だった。
事務方の仮面が完全に剥がれ落ち、野蛮な本性が露になっている。
妻であるカトリーヌに先んじて布陣していた彼は、カロスタークが町に入ったと聞いて『今が好機』と判断したのだ。
カロスタークが殺されるのを待つまでもない、と。
確実に殺されてくれるという保証もないのだ。
ならば、『駆除』予定の『害虫』諸共に葬ってしまえばいい。
相手は虫けら、自分の手足となる兵士たちにかかれば簡単に潰せるだろう。
鎧と槍で武装した兵士の一団に囲まれている安心感が、彼の思考を好戦的な方へと向けさせ、加速させていた。
「騎士団を突っ込ませろ!」
命令を出した。
近隣で活動していたのをかき集めて従軍させている。
これを先行させ、伯爵家子飼いの貴族軍を温存させる判断だ。
「俺たちを使い潰す気か」
命令を聞いて鼻を鳴らすのは、第一騎士団を率いる騎士だ。
第一というのは、騎士団の招集に一番に駆け付けたという意味である。
帳簿の一番だから、第一騎士団。
騎士団にはそれぞれ、設立した騎士の想いが詰まった名称があるはずだが完全無視。
覚える意思を一切感じられない扱いである。
そこへもってきての、「使い捨てます」と言わんばかりの命令だ。
モチベーションが上がるわけがない。
「全員、その場に留まれ。命を懸ける価値はない」
「まったくもってその通り、ではありますが。大丈夫ですか? あとで問題になるのでは?」
「かまうものか!」
一応言っておきます。
そんな口調で指摘した副長に騎士——団長——は怒鳴った。
「報酬は減らされるだろうが、罪を問うことはあるまいよ」
むしろ問うてくるなら、こちらも罪を問うまでのこと。
文句は言わせない。
「考えようによっては突っ立っているだけで金がもらえる楽な仕事だ。安い報酬でも我慢できるってもんだろ」
「ですね。部下にも伝えておきます。ですが、それだとどこも動かなくて話が進まないのではないですか?」
「どうだろうな。血の気の多いのはどこにでもいるからな」
十数隊、周囲にいる騎士団を見回して、第一騎士団団長は首を振った。
度し難い、と。
第一騎士団団長の予想は当たっていた。
どの隊よりも前に出ていた第四騎士団に動きがある。
「待ちかねたぜ。ヒャッハ―!」
手の中でナイフを弄びながら、第四騎士団団長が奇声を上げた。
「殺戮と略奪の始まりだぜぇ。野郎ども、ハデにイクぞぉ!」
「オォォォォォォォォォ!!!!!」
歪みまくった歓声を上げて、町へと突っ込んでいく。
そのあとに二つか三つほどの騎士団が続く。
その数およそ300。
町の住民を蹂躙するには、充分な戦力である。
——『人間の』町であったならば——。
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