第18話 彼方と此方を繋ぐもの ~後編~
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「日を改めた方がよかったのではないですか?」
馬車に向かい合って乗っているフランソワが聞いてきた。
下見が終わった足で、件の『亜人の町』を目指しているところなのだ。
「善は急げだよ。早め早めで動かないとな」
いつ終わるやらわからないと、カロスタークは小さく息を吐いた。
王国全土の道普請とか、こんな大仕事を『準男爵』ごときに丸投げしないでほしい。
『亜人の町』へは翌日の夕方に着いた。
一晩野宿ありでの旅程である。
セザール騎士団が野営の設営もしてくれたので、快適に過ごせていた。
「こちらへどうぞ」
町へ着くと、すぐに町の代表たちの下へと招かれた。
案内してくれたのは猫耳の女性だ。
ランタンの明かりで目が金色に光ったのがちょっと怖かったが、それ以外は柔らかな物腰で安心できた。
門前払いはされないのだと。
事前に使者を先行させて、話を通しておいたおかげだろう。
歓迎はされていないようだが、話は聞いてくれそうだった。
「久しいな。レッドルア家の末子殿よ」
案内されていった先、大きな建物の奥には町の代表たちが集まっていた。
声をかけてきたのは『耳長族』の長老だ。
「覚えていてくださったのですね。軽い挨拶しかしなかったと思いますが?」
意外だという顔で、カロスタークが言葉を返す。
実を言えば、カロスタークは代表者たちと面識が有る。
レッドルア家にいたとき、亜人たちの代表団が照会を訪ねてきたことがあった。
末端とはいえ一族の人間ということで、形ばかりの挨拶をしたことを覚えていた。
とはいっても、代表とは話す機会がなかった。
会談は亡き父と兄が受けたからだ。
一族の端に連なるとはいえ、子供の出る幕はなかった。
そのせいで『町』の正確な所在地も知らなかったのだ。
こんなところにあったとは。
「そうじゃの。お前さんは部下たちの世話係をしていたのだったな」
「おっしゃる通り。拙いながら務めさせていただきました」
会談に参加できなかった代わりと言ってはなんだが、随行員の世話役に回って働いた。
随行員たちとは仲良くなれていたと思う。
「部下たちの中には、わしの孫もいたのだよ。大変よくしてもらったとほめていたのでな。記憶に残っていた」
「そうでしたか。それはお耳汚しでしたね」
「なのでな。お主のために協力することはやぶさかではない」
「ありがとうございます」
予想外の高評価にカロスタークの声も期待に弾んだ。
「ただ・・・」
「なんでしょうか?」
濁された言葉に、カロスタークの顔も曇る。
こういう場合、何かしら問題があるものだ。
「リヴィエール伯爵のためになることならば手は貸せぬ」
「それは——」
「あの者らは我らを『害虫』呼ばわり、町に住む価値などないと言ってな。ここからも退去するよう何度となく脅された。我らを追い出し、人間の入植者を募る計画のようだ」
「バカな! そんな勝手が許されるはずないでしょうに!」
「いや、そうでもないのだ。各所領は領主の裁量権が絶対だからのう。国王といえども、そうそう横槍は入れられん」
「それは、——確かに」
王国の定法でそう定められている。
ひっくり返すことは王といえども容易なものではない。
「なら——」
私の領地に移りませんか?
そう聞こうとしたカロスタークの言葉が掻き消された。
建物の外で何やら騒ぎが起きている。
悲鳴や、怒鳴り声が聞こえた。
「何事か?!」
長老が声を張り上げるのと入れ替わるようにして、駆け込んできた者がいる。
蛇のような素早さで駆け込んできたその者は、カロスタークの前に跪いて報告を上げた。
曰く、「リヴィエール伯爵軍が町を包囲し、攻撃に転じる動きがある」と。
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