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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【カトリーヌ】編~彼方と此方をつなぐもの~

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第18話 彼方と此方を繋ぐもの ~後編~

3/7

 


「日を改めた方がよかったのではないですか?」

 馬車に向かい合って乗っているフランソワが聞いてきた。

 下見が終わった足で、件の『亜人の町』を目指しているところなのだ。


「善は急げだよ。早め早めで動かないとな」

 いつ終わるやらわからないと、カロスタークは小さく息を吐いた。

 王国全土の道普請とか、こんな大仕事を『準男爵』ごときに丸投げしないでほしい。




 『亜人の町』へは翌日の夕方に着いた。

 一晩野宿ありでの旅程である。

 セザール騎士団が野営の設営もしてくれたので、快適に過ごせていた。



「こちらへどうぞ」

 町へ着くと、すぐに町の代表たちの下へと招かれた。

 案内してくれたのは猫耳の女性だ。

 ランタンの明かりで目が金色に光ったのがちょっと怖かったが、それ以外は柔らかな物腰で安心できた。

 門前払いはされないのだと。


 事前に使者を先行させて、話を通しておいたおかげだろう。

 歓迎はされていないようだが、話は聞いてくれそうだった。


「久しいな。レッドルア家の末子殿よ」

 案内されていった先、大きな建物の奥には町の代表たちが集まっていた。

 声をかけてきたのは『耳長族』の長老だ。


「覚えていてくださったのですね。軽い挨拶しかしなかったと思いますが?」

 意外だという顔で、カロスタークが言葉を返す。


 実を言えば、カロスタークは代表者たちと面識が有る。

 レッドルア家にいたとき、亜人たちの代表団が照会を訪ねてきたことがあった。

 末端とはいえ一族の人間ということで、形ばかりの挨拶をしたことを覚えていた。


 とはいっても、代表とは話す機会がなかった。

 会談は亡き父と兄が受けたからだ。

 一族の端に連なるとはいえ、子供の出る幕はなかった。


 そのせいで『町』の正確な所在地も知らなかったのだ。

 こんなところにあったとは。


「そうじゃの。お前さんは部下たちの世話係をしていたのだったな」

「おっしゃる通り。拙いながら務めさせていただきました」


 会談に参加できなかった代わりと言ってはなんだが、随行員の世話役に回って働いた。

 随行員たちとは仲良くなれていたと思う。


「部下たちの中には、わしの孫もいたのだよ。大変よくしてもらったとほめていたのでな。記憶に残っていた」

「そうでしたか。それはお耳汚しでしたね」

「なのでな。お主のために協力することはやぶさかではない」

「ありがとうございます」

 予想外の高評価にカロスタークの声も期待に弾んだ。


「ただ・・・」

「なんでしょうか?」

 濁された言葉に、カロスタークの顔も曇る。

 こういう場合、何かしら問題があるものだ。


「リヴィエール伯爵のためになることならば手は貸せぬ」

「それは——」

「あの者らは我らを『害虫』呼ばわり、町に住む価値などないと言ってな。ここからも退去するよう何度となく脅された。我らを追い出し、人間の入植者を募る計画のようだ」

「バカな! そんな勝手が許されるはずないでしょうに!」

「いや、そうでもないのだ。各所領は領主の裁量権が絶対だからのう。国王といえども、そうそう横槍は入れられん」

「それは、——確かに」


 王国の定法でそう定められている。

 ひっくり返すことは王といえども容易なものではない。


「なら——」

 私の領地に移りませんか?

 そう聞こうとしたカロスタークの言葉が掻き消された。

 建物の外で何やら騒ぎが起きている。

 悲鳴や、怒鳴り声が聞こえた。


「何事か?!」

 長老が声を張り上げるのと入れ替わるようにして、駆け込んできた者がいる。

 蛇のような素早さで駆け込んできたその者は、カロスタークの前に跪いて報告を上げた。


 曰く、「リヴィエール伯爵軍が町を包囲し、攻撃に転じる動きがある」と。




読了・評価。ありがとうございます。


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