第15話 花の色はうつろいてとどまらず ~後編~
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「あ、ごめんごめん。つい、普段のノリで話してしまいましたわ。大人は言葉を無駄に飾らないものなの。おこちゃまにはついてこれなかったわね。ごめんなさいねぇ」
「・・・・・・」
「————」
他人サゲがひどい。
セザールとフランソワをディスり、マウントをとろうとしている。
それがありありとわかる。
ここまであからさまだと、いっそ清々しい。
——んなわけあるか!
テーブルの下で拳を握り締めるカロスターク。
「ですけど。準男爵も大人の女性は嫌いではないでしょう?」
「それはまぁ」
嫌いということはない。
ただ、だからと言って既婚者に手を出しはしないぞ!
言ってやろうかと思うが——。
「今は同年齢女子侍らせるのが愉しくても、ベッドでは経験豊富な女がいいものよ?」
言うタイミングを奪うように遮ってくる。
会話の主導権を握らせてはくれないようだ。
「若い女の特権だよねぇ。何にもしないでニッコリして座っていれば可愛いって言ってもらえるの」
嘲笑を含ませての癇に障るしゃべり。
「さすがにやめていただけますか。二人が困っていますので」
語気を強めて遮ったカロスターク。
「あーはいはい。女『の子』を守るのが男ってやつ? カッコつけても、最後には甘えさせてくれる女の胸の中に沈むのが好きなのよねー。男って」
「勝手に決めつけないでください」
「強がっちゃってー。何なら、いまからでも沈んでみない?」
胸を押し上げながら、そんなことを言ってくる。
露出の多い服なので、谷間がすごいことになっている。
「くくくくくっ。冗談ですわ。あら? お二人とも、本気にしてしまいましたかしら? ごめんなさいねー。おほほほほ」
「冗談というには少々度が過ぎていませんか?」
「そうは言いましても、お二人とも社交辞令の見本のような顔で座っているだけなんですもの。こんなのでお役に立ちますの?」
「私の意を汲んで動いてくれて、大変助かっていますよ」
「ほうら、結局ご主人様に手綱を引っ張られないと動けないってことでしょう?」
違うわ!
のどまで出かかった罵声をカロスタークは苦労して呑み込んだ。
いったいどう聞けばそんな話になるのか?
『意を汲んで動く』は『命令に従う』とは全然意味が違うというのに。
「なんと言いますか、大丈夫ですの? そんなことで貴族社会、やっていけますの?」
「・・・・・・」
「——————」
「いやですわ。泣かせてしまいましたかしら? そんなつもりじゃありませんのに」
嬉しそうに口角を上げていては、説得力などない。
むしろ、心配そうに作った声音がバカにしているようにしか聞こえずイライラが募った。
反論するべきか?
握り込んだ拳をさらに深く握りこむカロスタークの拳を、柔らかくて暖かな手がそっと抑えた。
「・・・」
セザールが小さく首を振る。
「———」
反対側の膝にも暖かなものが乗った。
フランソワだ。
「さて。あとはお任せしますわ。伯爵家同士の会合がありますの」
いつの間にか食事も進めていたらしく、上品に口を拭いて席を立つ女伯爵。
好き嫌いが激しいのか、目の前の皿は空のものと手付かずのもの、少しだけ食べた形跡のあるものでごちゃごちゃしている。
「え?」
「なにか?」
「この後、会談があるのでは?」
「ああ。それは『コレ』に任せてありますわ。そんな面倒なことに関わっている暇はありませんもの」
『これ』と示されたのは夫殿だ。
女伯爵にとって、道整備の会談は『面倒』なことにすぎず、『暇』でもないとやらないことらしい。
事務方の雰囲気があったが、リヴィエール伯爵家の実務は夫殿が任されている——丸投げされている——ようだ。
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