第14話 花の色はうつろいてとどまらず ~前編~
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そんなことがあって四日目、カトリーヌ・ド・リヴィエール女伯爵領にカロスタークたち一行は足を踏み入れた。
カロスタークはもちろん従者のトマ、副官のセザールとフランソワ、セザール騎士団から5名の護衛。
総勢9名での現地入りである。
馬車は使わず、『早馬』を使った。
いつもの時間短縮のためだ。
教会から伯爵邸までは歩きである。
「とりあえず昼食会に招待されたんだっけ?」
歩きながら、カロスタークが予定を確認する。
「はい。事務仕事だけなら事務方で話を付ければいい。トップ会談では為人を知ることこそ重要。そのためには食事会が一番手っ取り早い。——というのが持論らしいです」
「間違ってないけど極端だな。まぁ、いきなり剣をとっての模擬戦とか言わないだけましだけど」
商談でも食事会で相手の信用度や教養度を推し量るってことは多い。
何気ない会話、仕草、食事マナー。
これを見ればおおよそのことが分かるのだ。
相手を気遣えるか、気遣った上で努力できるか。
例えば、元々食事の仕方が汚い者がいるとする。
汚い食べ方はともに食事する相手へ不快感を持たせてしまう。
これが気遣い。
せめて、そういう場だけでも上品に食べようと意識し、訓練もするのが努力だ。
これができない者を信用する理由はない。
完全にビジネスパートナーとして割り切って付き合い、個人的には距離を置く判断になる。
互いのメリットになっている間はともに仕事をするが、こちらの利益がなくなりそうなら即刻手を引く関係だ。
努力できる者ならば、損だと知っていても協力する判断ができる。
持ちつ持たれつでやっていこうと思える。
トップ会談とは、これを見極めるために行うものなのだ。
「ようこそお越しくださいました」
丁寧に頭を下げたメイドに案内され、食堂へと通されると男性が待ち構えていて挨拶してきた。
女伯爵のはずでは?
疑問が顔に出たのだろう、その紳士は小さく笑って会釈した。
「カトリーヌの夫です。妻は他の用事で出ており、まだ帰っていません。お客様たちだけにしておくわけにもいきませんので、妻が帰るまでのつなぎとお考え下さい」
おい。それじゃ意味ないだろ!
怒鳴りたい気持ちをグッと腹にしまい込み、カロスタークは営業スマイルで相対した。
「左様でございましたか、それはお手数をお掛けいたします」
「ははははは、カトリーヌの被害者同士。気兼ねなくお楽しみください」
挨拶が済むと、会食はすぐに始まった。
もっとも、主役が来ないのでは文字通り話にならないので、始まらなかったらどうしたらいいか困るところだ。
席は長テーブルを使った対面式になっており、三対三で向かい合う形になっていた。
伯爵側は右側の席にカトリーヌの夫。
カロスターク側はカロスタークを真ん中にしてセザールとフランソワが左右を固めている。
話は意外と弾んだ。
伯爵の夫殿は話し好きであるらしい。
そして、実務的な話が多かった。
この家の実務、大半はこの人が取り仕切っているのでは?
カロスタークは、そんなふうに当たりを付け始めていた。
時間を無駄にしてしまうかと不安だったのだが、思いのほか実のある話になっている。
「あー、遅れてしまったわねぇ」
そこへ、まったく悪びれない様子で女が入ってきた。
ここは伯爵家。
関係ない人間が入ってくるはずもなし。
これが、この家の主カトリーヌ・ド・リヴィエール女伯爵その人だろう。
明るい栗毛に薄い紅茶色の瞳。
白磁の肌でグラマラスな体形。
そのうえ服が露出度高めで香水もキツイ。
かなりのルックスとスタイルだが、クセは強そう。
カロスタークたちの第一印象がそれだった。
「場繋ぎご苦労様」
素っ気なく旦那に言って、席に座る。
挨拶のため、カロスタークたちが立ったタイミングだ。
ここは一応、挨拶をする場面だろう!
仲間内の会食ではない。
重要な会談に向けての顔合わせだぞ!?
目に力が入りそうになるが、グッとこらえる。
女伯爵が、手を上下させて伝えてくる『座れ』に合わせて席に戻った。
こんなところでケンカしても損しかない。
「ようやくお会いできましたわね。準男爵?」
席に着くや、いきなりワインで唇を濡らす女伯爵。
ここへ来る前に、持ってくるよう命じてあったようだ。
昼、それも会談前なのでアルコールの入った飲み物は置かれていなかった。
「お会いできて光栄です。伯爵」
明らかに軽く見られているが、表情筋の一本たりと動かさずにカロスタークは応じた。
応じてのけた。
「しっかりしているわね。それに引き換え、そちらの二人は何? 子供過ぎない?」
「同じ年齢ですが?」
「年齢じゃなくてぇ。雰囲気がよぅ。準男爵にはもっと大人の女性でないと。私とかどうかしら?」
「ご冗談を」
あはは、と笑っては見せるが内心では苛立っている。
冗談にしてもひどい。
セザールもフランソワも正妻ではないにしろ、カロスタークにとっては大事な女性である。
それを、ここまで真正面から否定してくるとは。
しかも、本人は既婚。
ふざけているとしか思えない。
「貴女たちもそう思わない? 落ち目の貴女たちではなく、私を選べば準男爵はまだまだ上を目指せるのよ?」
矛先がセザールとフランソワに向いた。
本人ではなく、まずは脇を崩そうというつもりのようだ。
「それを決めるのは準男爵です」
自分たちに決定権はない。
突っかかってきても意味ないですよ、と予防線を張るセザール。
「すでに夫がいる方でなければ、その通りと言えるのですけどね」
隣にいる伯爵夫を見ながら、小さく反撃するフランソワ。
「あらあら。男性にお任せってわけ? それで男心を掴めるなんて思ってないでしょうね?」
「えっと?」
「はい?」
楽し気に二人を見下す女伯爵。
さすがに不愉快感が滲みだすセザールとフランソワ。
間にいて様子を見るしかないカロスターク。
興味深げに見守る伯爵夫。
うまくいっていた会食が一転、ギスギスした空気になっていく。
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