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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【カトリーヌ】編~彼方と此方をつなぐもの~

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第4話 故郷は遠くにありて思うもの ~後編~

4/5

 


「で? 何しに来たの?」

 向かいのソファにどっかり座って聞いてくる。

 視線は自分の爪に向いていた。

 質問はしているが聞く気はないらしい。


「学院を卒業しましたので、それを報告に来ただけです」

「ああ。それ」

 フンっ、と鼻で笑われた。


「何の価値もない報告ね。貴方には『男爵令嬢との婚約』以外には価値がないのよ? わからないの?」

「まぁ、そうですね」

 実家にとっては『父が他所に作った子供』でしかない。

 正妻の子である長男と次男がいる以上、必要がない。

 レッドルア商会という立場から見れば、『いらない子』だ。

 そこに価値を与えたのが『モンモラシー男爵家の令嬢の婚約者という立場』なのは間違いない。


「だからね。うちではもうあんたはいないものと思っているわ」

「なぜです?」

「なぜ? なぜですって? 『婚約破棄』されたこと、知らないとでも思っているの? どこから拾ってきたか知らないけど、それっぽい女連れてくれば誤魔化せるとでも思ったのかしら?」

 蔑むようにセザールを睨みつけ、ニヤニヤ笑う義姉。


「あー。そういうことか」

 カロスタークは頭を抱えた。


「わかった? 全部バレているの。稼ぎはないし、実家のすねをかじるしかない穀潰しってやつね」

「実家から援助なんて貰った覚えはありませんけどね」

 学院に入る前までは母が必死に働いて食べさせてくれていた。

 父から何かを貰ったことなんてない。

 そもそも、強制的に『学院』に入れられるまで会ったこともなかったのだ。


 いきなりやってきて父親だと言われるまで、てっきり死んだんだと思っていたくらいだ。

 事情を聴いても、カロスタークに親子の情なんて湧かなかった。

 心が冷えていく感覚しかなかったものだ。


 学院への入学には貴族の推薦があればいい。

 入学金や授業料が無料なので、費用負担もしてもらっていなかった。

 支度金はもらったが、あとで聞いた話ではその出どころは当時のモンモラシー男爵。セザールの父親だ。

 レッドルア家からはなにももらっていない。


 運用に使っていた金はモンモラシー男爵からの支度金と、もう会えないとの予感があったのか母が渡してくれた全財産だ。

 予感が当たったということなのか、在学中に母が他界。

 さぞや懇ろに弔ってくれたものと思っていたが、実際は『穴を掘って埋めた』ぐらいの素っ気なさで葬ったらしい。

 カロスタークはかなり後になって知らされて、死に顔を見ることすらできなかった。


 報せを受け、とにかく墓参りだけでもしようと墓を探したら、墓地の隅に転がった石を指さされて『これだ』と言われたことは生涯忘れない。

 どこをどう探しても、レッドルア家から何かをしてもらったという事実はなかった。


 あ。いや。

 一つだけあるか。

 セザールと婚約させてくれたことには感謝しよう。

 それだけ。

 だからこそ、『王都で店を開くための後ろ盾。それさえ与えておけば文句は言わないし言わせない』となる。


「もう、あなたに価値なんてないの」

「なら、もう帰った方がよいのでは?」

 価値がない、いないものと思っている。

 それなら、別に報告する意味はない。

 さっさと帰らせてもらうだけだ。


「だから! かってにはやれないんだっての。お父様と旦那に私が怒られるでしょうが。血縁者を差し措いて、私がやるわけにはいかないの。夫を立てるのが『妻』でい続ける秘訣よ」

 堂々と言い切られた。

 間違っているとは言わないが、すごく歪んでいるなぁとカロスタークは思う。


「世間体ってものがあるからね。今夜は泊っていくといいわ。明日からはもう二度と食べれないような、ごちそうを食べさせてあげる。最後の晩餐ってやつね」


「そうですか」


「言っておくけど、金に困ったからって泣きついてきたりしないでよね。役立たずにくれてやる金なんて銅貨一枚たりともないんだから。なぜなら、私たちはもう他人なのよ」


「そうですか」


「学院を卒業したからには一人前の社会人。自分のことは自分で責任を果たさないといけないの。血の繋がりがあるとはいえ、別の家。別々の道を歩むのだから当然じゃない?」


「そうですね」


「もちろん、心の底から応援しているわよ? でも、うまくいかないのはあなた自身の才能と運のせいなの。他人を頼ってはいけないわ。わかるわよね?」


「ええ。よくわかります」


 明日からは一人前の人間として独立した商人。

 実家は頼らずがんばれ。

 支援なんて一切しないが、それは意地悪ではなく試練だ。

 うまくいかなかったときは、勝手に野垂れ死ね。

 ようは、そういうこと。


 カロスタークはもう、適当に合の手を入れるだけにした。



読了・評価。ありがとうございます。


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