第4話 故郷は遠くにありて思うもの ~後編~
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「で? 何しに来たの?」
向かいのソファにどっかり座って聞いてくる。
視線は自分の爪に向いていた。
質問はしているが聞く気はないらしい。
「学院を卒業しましたので、それを報告に来ただけです」
「ああ。それ」
フンっ、と鼻で笑われた。
「何の価値もない報告ね。貴方には『男爵令嬢との婚約』以外には価値がないのよ? わからないの?」
「まぁ、そうですね」
実家にとっては『父が他所に作った子供』でしかない。
正妻の子である長男と次男がいる以上、必要がない。
レッドルア商会という立場から見れば、『いらない子』だ。
そこに価値を与えたのが『モンモラシー男爵家の令嬢の婚約者という立場』なのは間違いない。
「だからね。うちではもうあんたはいないものと思っているわ」
「なぜです?」
「なぜ? なぜですって? 『婚約破棄』されたこと、知らないとでも思っているの? どこから拾ってきたか知らないけど、それっぽい女連れてくれば誤魔化せるとでも思ったのかしら?」
蔑むようにセザールを睨みつけ、ニヤニヤ笑う義姉。
「あー。そういうことか」
カロスタークは頭を抱えた。
「わかった? 全部バレているの。稼ぎはないし、実家のすねをかじるしかない穀潰しってやつね」
「実家から援助なんて貰った覚えはありませんけどね」
学院に入る前までは母が必死に働いて食べさせてくれていた。
父から何かを貰ったことなんてない。
そもそも、強制的に『学院』に入れられるまで会ったこともなかったのだ。
いきなりやってきて父親だと言われるまで、てっきり死んだんだと思っていたくらいだ。
事情を聴いても、カロスタークに親子の情なんて湧かなかった。
心が冷えていく感覚しかなかったものだ。
学院への入学には貴族の推薦があればいい。
入学金や授業料が無料なので、費用負担もしてもらっていなかった。
支度金はもらったが、あとで聞いた話ではその出どころは当時のモンモラシー男爵。セザールの父親だ。
レッドルア家からはなにももらっていない。
運用に使っていた金はモンモラシー男爵からの支度金と、もう会えないとの予感があったのか母が渡してくれた全財産だ。
予感が当たったということなのか、在学中に母が他界。
さぞや懇ろに弔ってくれたものと思っていたが、実際は『穴を掘って埋めた』ぐらいの素っ気なさで葬ったらしい。
カロスタークはかなり後になって知らされて、死に顔を見ることすらできなかった。
報せを受け、とにかく墓参りだけでもしようと墓を探したら、墓地の隅に転がった石を指さされて『これだ』と言われたことは生涯忘れない。
どこをどう探しても、レッドルア家から何かをしてもらったという事実はなかった。
あ。いや。
一つだけあるか。
セザールと婚約させてくれたことには感謝しよう。
それだけ。
だからこそ、『王都で店を開くための後ろ盾。それさえ与えておけば文句は言わないし言わせない』となる。
「もう、あなたに価値なんてないの」
「なら、もう帰った方がよいのでは?」
価値がない、いないものと思っている。
それなら、別に報告する意味はない。
さっさと帰らせてもらうだけだ。
「だから! かってにはやれないんだっての。お父様と旦那に私が怒られるでしょうが。血縁者を差し措いて、私がやるわけにはいかないの。夫を立てるのが『妻』でい続ける秘訣よ」
堂々と言い切られた。
間違っているとは言わないが、すごく歪んでいるなぁとカロスタークは思う。
「世間体ってものがあるからね。今夜は泊っていくといいわ。明日からはもう二度と食べれないような、ごちそうを食べさせてあげる。最後の晩餐ってやつね」
「そうですか」
「言っておくけど、金に困ったからって泣きついてきたりしないでよね。役立たずにくれてやる金なんて銅貨一枚たりともないんだから。なぜなら、私たちはもう他人なのよ」
「そうですか」
「学院を卒業したからには一人前の社会人。自分のことは自分で責任を果たさないといけないの。血の繋がりがあるとはいえ、別の家。別々の道を歩むのだから当然じゃない?」
「そうですね」
「もちろん、心の底から応援しているわよ? でも、うまくいかないのはあなた自身の才能と運のせいなの。他人を頼ってはいけないわ。わかるわよね?」
「ええ。よくわかります」
明日からは一人前の人間として独立した商人。
実家は頼らずがんばれ。
支援なんて一切しないが、それは意地悪ではなく試練だ。
うまくいかなかったときは、勝手に野垂れ死ね。
ようは、そういうこと。
カロスタークはもう、適当に合の手を入れるだけにした。
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